WEB企画『安心して暮らせる社会』    政治経済学部1年 伊佐治裕

自己紹介
 私はすべての人々の生活が安定し、そのうえで出来る限りの自己実現を追求していける社会を理想としている。その認識の下で私は困窮する国民に対し政府が積極的に支援を行い、その監督下で受給者の経済的自立を促すような生活保護制度を重要視している。実際に早慶新人弁論大会ではシングルマザーが生活保護制度により生活面で支援を受けられることを提唱した。(具体的な内容については次回のレジュメで述べる。)現在では問題領域はシングルマザーからワーキングプア全般へと広がり、彼らが厳しい生活を送らざるをえない現状の改善を目的としている。


 
 日本国憲法25条には国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利があるとされている。その原則に基づき、日本では国民の生活を支援する生活保護制度が存在する。しかし日本には現在国が最低年収とする200万円を下回るワーキングプアが500万〜700万人は存在しているとされ、彼らが生活保護制度によってどのように支援されるべきか、生活保護制度の運用が問われてきている。

日本の生活保護制度の歴史
 戦後、第二次世界大戦の反省の中で国民の生存権という概念が確立していった。その中で1950年、生活保護法は先に述べたように、日本国憲法25条の国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利があるとする生存権の考えに基づき、設置された。
その生存権の概念が大きく問題となったものとして朝日訴訟がある。これは1957年病気のため生活保護を受けていた朝日茂が厚生労働大臣を相手に訴訟をしたものである。内容は日用品費が不足であり、患者が生命と健康を守るために必要なバターや卵、果物などの補食費も認めないのは、すべての国民が「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」を有し、「社会福祉社会保障及び公衆衛生の向上及び増進」にたいする国の責務をうたった憲法二五条と生活保護法に違反するというものである。
最終的に朝日さんの死亡により訴訟は終了したが、六〇年には東京地裁で、憲法二五条にいう「健康で文化的な生活」は、国民の権利であり、国は国民に具体的に保障する義務があること、それは予算の有無によって決められるのではなく、むしろこれを指導支配しなければならないという判決を下させることに成功した。この訴訟により国民の中で現在の生存権の概念が確立し、それを理念として現在の生活保護制度は実施されているのである。

生活保護制度の基礎知識
 生活保護は主に市役所が行っている。まず、申請者が市役所に行き、そこで経済状況についてケースワーカーと呼ばれる市の職員による審査を受けた上で、保護が必要かどうか判定がなされる。申請が通ったのちもケースワーカーによる受給者の視察がなされ、経済状況が改善された際は、給付は停止される。
現在生活保護制度の受給者はここ4年間で20万世帯も増えており2009年度には119万世帯である。その費用は2兆7000万円かかっており、高齢者が増加する中でさらに増えていくと考えられている。保護対象は7割が高齢者・障害者であり、若い世帯の捕捉ができていないのが現状である。

生活保護の保護原則
 生活保護制度は以下の原則に従って適用される。
無差別平等の原則(生活保護法第2条)
o 生活保護は、生活保護法4条1項に定める補足性の要件を満たす限り、全ての国民に無差別平等に適用される。生活困窮に陥った理由や過去の生活歴等は問わない。この原則は、法の下の平等日本国憲法第14条)によるものである。
• 補足性の原則(生活保護法第4条)
o 生活保護は、資産(預貯金・生命保険・不動産等)、能力(稼働能力等)や、他の法律による援助や扶助などその他あらゆるものを生活に活用してもなお、最低生活の維持が不可能なものに対して適用される。
o 民法に定められた扶養義務者の扶養、その他の扶養は生活保護に優先して実施される。
• 申請保護の原則(生活保護法第7条)
o 生活保護は原則として要保護者の申請によって開始される。申請権は、要保護者本人はもちろん、扶養義務者や同居の親族にも認められている。ただし、急病人等、要保護状態にありながらも申請が困難な者もあるため、法は急迫保護(職権保護)が可能な旨を規定している。
• 世帯単位の原則(生活保護法第10条)
o 生活保護は世帯を単位として要否を判定し、その程度を決定する。
まとめると、生活保護を受けるうえで今までの暮らしとは関係なく、現在の申請者の生活状況により等しく審査され、その際本人の資産・能力・血縁者の資産も考慮するというものである。しかし、その審査の面でこの原則を巡って現在多くの問題が発生しており、以降はについてみていこうと思う。


生活保護制度の問題
 1.市役所側の問題点
 現在生活保護制度では多くの問題が起きている。まず具体例として

・申請者がホームムレスという理由で申請を却下した。
・女性の申請者が水商売ができるといって、申請を却下した。
・親とは絶縁していて援助が無理にもかかわらず、親の下にいくよう強要した。
・働けないのに申請が通らないため、申請者が刑務所に入るべく犯罪を犯した。
このような問題がある。
これらの事象が示すように、生活保護原則のうえで審査基準が不明確なことから、申請者の現状を無視した対応を市役所が行っているのである。
 その原因として主に市役所の財政が圧迫されていることがある。代表例として北九州市での水際作戦が有名である。水際作戦とは窓口という水際で申請者を追い返し、財政的な支出を減らそうという市役所の方針である。その背景は1960年代に北九州では炭田が多く閉鎖され、困窮者が増え、申請が倍増したことにある。その中で不正受給も増加し、働ける人は働かせようとして若い人の申請を断念させる水際作戦が行われるようになったのだ。その結果若い申請者は激減し、財政難を解決できたので水際作戦は大きく評価された。(北九州市の若い人の保護者は10パーセント未満である。)しかし北九州市で餓死者を複数出すという事態が発生し、現在水際作戦は大きく見直しを必要とされている。   
この例からわかるように、市役所によって審査が異なるうえに、保護金は地方が負担しているため、どうしても市役所側は支出を増やしたくないという実態があるのだ。
また申請者の審査をおこなうケースワーカーの雇用費も市の負担のため、その数は極力抑えられている。彼らはひとりで80,90世帯を扱わねばならず、とても過労であり、審査問題の一因となっているといえる。ケースワーカー不足は深刻であり、2000年には324人不足だったのが、2004年には1023人不足にまで増加したと発表されている。

2.申請者側の問題点
 では次に申請者側の抱える問題点を見ていこう。具体例として
・アルバイトなど副収入があるのに隠していた。
・医師に働けないことを示す診断書を強引に書かせ、健康であるのに保護をうけていた。
・保護をうけつつ、パチンコなど娯楽に没頭していた。
ケースワーカーに申請を通すように申請者が圧力をかけた。
・受給後再就職しようとしないまま、犯罪を犯した。
このような問題がある。
このように生活保護の申請者、受給者にも問題があるのが現状である。具体例として2006年に秋田県で起きた畠山鈴鹿による豪憲君・彩香ちゃん2児殺害事件は記憶に新しいだろう。彼女は生活保護を受けていたが、再就職できず子供にも十分な飲食をさせずに娯楽などに保護金を投入していた。またほかに有名なものとして、滝川市でおきた通院の交通費として438万も生活保護制度を利用して受け取っていた事件もある。
これらの事件から生活保護の審査が的確に行われておらず、また申請が通ったのちの監督が十分になされていないことがわかる。その原因として審査に加えて受給者の視察もしなければならない、先にあげたケースワーカーの仕事量が多いことが考えられる。実際、護を受けた後に再就職する人は少なく、大半は無職のままであり、保護金給付後の監督が十分に行き届いていないといえる。


政策
 私が考える政策は保護受給申請前の審査に第三者がかかわるようにすることと生活保護ガ他の組織と連携することである。以下でこの二つの政策について述べていく。

 1.審査に第三者が介入するようにする政策
まず一点目の審査へ第三者が介入するようにする政策である。これは前回レジュメの市役所の審査基準が明確でないことから申請者が不正に受給を断念させられるのを防ぐためである。また申請者自身が生活保護の審査基準について無知な人が多いことも受給を断念するよう説得されてしまう一因である。現在弁団連が申請を断念させられた人々を対象に調査しており、その調査で申請者全体の66パーセントである240万人が不適格に断念させられていることがわかった。もっとも多かったのが親のところに行けと言われた人で、50パーセント超おり、他には働けるなどを理由に審査を落とされた。しかし弁団連でそのような人々の話を電話で具体的にきいてみると、どうしても親に頼れなかったり、働くことが厳しく、先の審査が問題であるとした。実際に一度審査を落とされた人が弁護士同伴で申請するとうまく通った事例が北九州市であった。このことから特に若い人は親が生存しており、働けるということから審査の上で大変不利であり、ケースワーカーと一対一で審査をするとどうしても申請を却下されてしまうのである。このように立場上申請者が弱い審査の現状を打破するためにも、申請者とケースワーカーの言い分を第三者がチェックする必要があるといえる。(イメージとしては現在の裁判員制度のように、その制度に疎い人でもその制度を理解できるようサポートするのである。)これにより、制度について知識が少なく、また立場上複雑で審査が難しい若い人も制度を利用しやすくなるのである。また先のレジュメで述べた、逆に申請者側が高圧的な態度でケースワーカーを脅して受給を受けることもなくなるのである。しかしここで当然受給者の全体量が増え、財政問題が起こる。そこで二つ目の制度の運用を改める政策が有効になるのである。

 2.生活保護制度を他の組織と連携させる政策
この政策の目的は受給者が経済的に自立できず、長期的に受給することを防ぐことである。現在の生活保護では前回述べたように、ケースワーカーが一人で80〜90世帯ものチェックを行わなければならず、受給者の監督が十分にできていないのが現状である。
そこでその監督を他の組織が行うようにするのがこの政策で、具体的に他の組織とは労働支援系NPOや政府の再教育機関などである。この政策により、受給者が誰の監督も受けず、生活保護制度に依存し続けるのを防ぎ、社会復帰できるようにするのである。
現在受給者の70パーセント以上は長期的に(つまり生涯)受給し続けてしまっており、現状の改善にとりくめていない。そこで社会との接点をつくり、経済的自立を目指した行動するよう促すのだ。この政策のモデルとなったのはイギリスの1998年から実施された若者失業者ニューディール(ND)政策であり、それについて述べる

若者失業者ニューディール政策
この政策は若い失業者が社会との接点を作ることを目標としている。内容は失業者手当を6か月以上受給した者は職業安定所に行くよう指示される。そしてそこではパーソナルアドバイザーがつき、彼らが就労するように促すのだ。
この4カ月間のゲートウェイを経てうまくいかなかった場合は、オプションという段階に移行する。そこでは4つの選択支、国家試験への勉強、ボランティアでの活動、フルタイムの教育技能訓練、環境保護団体での就業ができるのだ。この6〜12ヶ月間のオプションの次はまたゲートウェイの段階に戻り、それが繰り返されるのだ。
これによりこのプログラムに参加した4割の約六十万人が就職できたのだ。このように社会との接点を作り、就労を行いやすい環境を生活支援とともに行う必要があるのである。

生活保護財政問題解決
では具体的にどのように財政的に先の政策で解決されるかをみていく。ここでまず生活保護は一般的な一人の受給者に約180万円を年間支給している。
しかし問題となるとなるのが受給者が精神病などの障害を抱えていることで、そうなると現状ではそのような人は病院に入院させるしか手がない。その場合その人は月約40万円入院費がかかっている。しかし先の政策により、他の組織と提携した場合、NPOのホームなどを利用することが可能となり、1カ月15万円ですむようになる。これにより一カ月で25万円、年間で300万円費用がうくわけである。
雑多な生活事情を抱える若い生活保護受給者が多い中で(若い生活保護受給者のうち10万人は精神的疾患による可能性が高い。)、さまざまな組織と生活保護制度が提携することは、今の精神病患者の例のように、より財政的に効率的な対応ができることが明らかであり、それにより受給人数も増やすことができる。またこの新しい生活保護制度は受給者の経済的自立を促すので経済効果も期待でき、さらに受給者への監督も強まるので、受給者の生活向上も可能である。


まとめ
以上新しい生活保護制度について述べてきた。この政策により、より多くの人が制度を利用し、経済的に建て直しをはかることが可能となる。この政策によってセーフティネットがより強固なものとなれば、憲法に定められ生存権の概念の実現へとより近付けるだろう。





  現在の生活保護制度は日本を福祉国家と位置付ける上で欠かせられないものであるにも関わらず、あまりよいイメージを得られていないように感じる。そしてその原因は一般の人々が利用しにくく、そのことで利用している人が特別に権利を行使しているようにみなされてしまうからである。この私の政策によって、より多くの人々の理解を得られる新しい形の生活保護制度となれば光栄である。