政策提言――「陽のあたる場所」

教育学部2年 岩本慧

本弾では、税制の望ましい形態、そして個人の生活を保障するセーフティネットを構築するための基盤を整備するための政策について述べていく。まず、前弾で述べた所得税などの税制による個人の生活を保障するための最終的政策を挙げ、次に社会保障制度を維持し、今後の経済社会の持続可能性を高める過渡的政策について述べていく。

 まず、所得税における政策であるが、ここで我が国の所得税制における問題点を述べていきたい。所得は大きく分けて勤労所得と資本所得に分けられ、各々に異なる税制が採られている。

まず勤労所得についてだが、賃金や給与、フリンジ・ベネフィット、社会保障給付などがある。現行の制度においてはこの中で控除が行われたりするのであるが、現行の控除制度には問題点が存在する。所得控除という制度は、控除を拡張しても税負担軽減効果は及ばず、累進所得税のもとでは、控除拡張はむしろ所得の高い階層の税負担を軽減してしまい、高所得者層に対してはある意味減税になっている点である。
 故に、所得税の所得控除縮小と還付つき税額控除を導入するのである。端的にいえば、所得控除を縮小することで増収を図り課税ベースの拡大も図った上に、個々人の状況に合わせた形で還付つきの税額控除、すなわち給付を行うのである。それは、現在の社会状況に適合した形で現役労働世帯と所得の低いものたちの自助を促進するため、現役世代と老年世代の所得税のフラット化を行うことでもある。還付つき税額控除とは欧米では低所得者層への税負担軽減政策として用いられている。税額控除の最大の特徴は所得税額を超える控除額は還付され、税制よって所得再分配がなされる点にある。こうした所得再分配は所得控除では不可能であり、その点で低所得者層への経済的支援の手段として望ましい性質を持つ。なお欧米では、アメリカのような勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit)・のような貧困の勤労世帯に限定して、そうした世帯の勤労参加を促しつつ所得を再分配するタイプや、オランダは基礎的な所得控除を税額控除にかえて控除の対象を国民全体に広く設定して実施するなど、政策目的や執行の問題に配慮しつつ様々なタイプの税額控除が用いられている。

還付つき税額控除のメリットは、今後増大が求められる消費税や社会保険料負担によって発生する逆進性などの低所得者層の負担を大きく回避できる点にある。このことは、高齢世代・現役世代と関係なしに各世代の低所得者層への再分配政策となることを意味する。また労働運動総合研究所などの調査によると、低所得層では食料品や繊維、教育などの一般消費財を消費する傾向が強く、高所得層では高級消費財に回りがちであり、この二つを比較すると低所得者層への再分配を行ったほうが内需が拡大するという試算もある。


しかし控除縮小による課税ベースの拡大は同時に高所得者層への増税を意味し、縮小に伴って所得を金融・証券などの金融資産に移転する節税行為が起こりかねない。実際に、スウェーデンでは個人の持ち家に対して,家賃相当額が帰属所得として課税される一方で、住宅(担保)ローン等の支払利子(金利)を経費として控除できる利子控除制度が幅広く導入されていたため、高額所得者層の節税行為が横行した。高額所得者層は、必ずしも必要のない借り入れを行う事により所得税負担の軽減を図り,全体として金融所得から得られる個人所得税収がマイナスとなってしまったのである。
次に上述のことを踏まえ次に資本所得、主に金融・証券税制おける政策について述べたい。資本所得とは利子、配当、株、土地などのキャピタルゲイン、貯蓄である。我が国の現行の金融・証券税制は、所得分類の多さや商品ごとに税率・諸控除が異なるなどの点で極めて複雑であり、金融商品間の課税の中立性が損なわれていることに加え、所得の正確な補足の面からも望ましくない。そこで、すべての金融商品に対して一律の税率を適用する二元的所得税を導入する。二元的所得税は、理論的には、勤労所得と資本所得を区分し、前者には累進税率、後者に比例税率などで課税する制度である。具体的には、勤労所得に対しては累進税率を適用する一方、資本所得は、勤労所得の最低限界税率および法人税率と等しい水準で課税を行うものとされている。この制度はスウェーデンをはじめ北欧諸国で導入されており、金融(資本)所得からの税収も回復し,プラスに転じた16)。同時に資本に対する優遇税制を整理する事により課税ベースの拡大をはかったことから,租税回避へのインセンティブも低減し、より公平な税制となった。この制度を上述の政策の過渡的政策として導入することにより、上述の所得控除縮小と還付つき税額控除の導入を容易にするのである。

 ここまで税制における政策を述べてきたが、次に社会保障制度における給付体系における政策を述べたい。所得控除の縮小と還付つき税額控除の導入は、勤労や母子家庭であること、扶養者の存在など個人の生活リスクに応じた選別的性格を帯びた政策であり、その選別の対象外になった個人のセーフティネットが必要となるうえ、増大する高齢者に対応する政策の必要性がでてくるからである。その政策として提示したいのが、基礎年金の税方式化である。現行の基礎年金は税と保険料によって賄われており、低所得者への逆進性が強いものであるために、逆進性が生じない税方式での給付体系が望ましいのである。そしてその財源としては、国民が広く負担する消費税が妥当であり、現在の財政状況に合わせた形で、段階的に税率引き上げることで達成する。なぜなら先程も述べさせて頂きましたが、急激な税率の引き上げは消費の減退が予想され国内の経済活動の悪影響を及ぼしかねないからである。故に段階的に引き上げることで消費の減退を緩和しつつ上述の政策の実施により個人所得水準が上がり得るため、税率目標を達成することが可能になるのである。

以上の政策の実施により、誰もが皆恩恵を受けうる陽光が射すのであろう。そして個々人は生活の不安から解放され、輝かしい日常がやってくる。そのような社会の実現を願ってやまない。