WEB企画『肉が食べたい――ワーキングプア問題の解決に向けて』第一弾 政治経済学部一年 中川 紘一
序
「窓際作戦」、「硫黄島作戦」と呼ばれる生活保護受給要望を退ける作戦が役所で行われているという実態を初めて知ったのはつい最近のことである。社会保障費削減のためとはいえ、最後の砦である生活保護も受給できず明日に不安を感じながら生活するワーキングプアと呼ばれる世帯が650万以上存在する。フルタイムで働けど生活を維持することが困難であり、時には生活保護水準以下の所得しか得られない場合もある。日本の労働力人口は6000万人といわれているが、そのうち実に1000万人が年収200万円以下の所得で生活している。また、300万人が完全失業者として働く場所さえ得られない人たちが存在している。
このような現状は私の目指す理想社会に反しており、このワーキングプアの問題解決するために、本コンテンツにおいて私の認識や考えを発信したい。
社会認識
2002年から2006年の5年の間に年収が300万以下の労働者は割合で4%も増えている。このようなことがなぜ起きてしまったのか?
経済のグローバル化が進み、競争の激化に伴い企業には過度なコストダウンを行う必要が生まれた。企業はその方法として賃金抑制や、正規雇用を減らし非正規雇用の割合を増やすことなどを行った。これによってたとえ正規雇用であっても賃金抑制など労働環境の悪化、非正規雇用に至っては生活保護支給額以下の賃金で働く労働者も30万人以上存在する。
また、労働者の最低所得を守るために存在する最低賃金だが、国際的には一般労働者の平均賃金の4〜5割以上が一般的になっているが、日本の平均最低賃金はたったの3割程度しかない。最低賃金法ではその最低賃金を決定するために企業の支払い能力を考慮するとしているが、他の先進国で最低賃金を決める際に企業の支払い能力を要件としている国はない。厚生労働省によると、1996年度の日本国平均所得が661万円なのに対し、2008年度の平均では566万円と10年程で100万円も平均所得は低下している。また2008年度では、平均所得は566万円であるが中央値は451万円と100万円以上の差があり、実に全体の61.2%の労働者が平均所得以下での生活である。この平均所得以下での労働者割合は2003年には59.6%、2004年には60.5%であり2005年度には60.7%と年々大きくなっている。これはすなわち格差が少しずつでも確実に広がっているということである。
4000万人いるといわれる日本の労働者のうち1000万人が所得200万円以下で働いているというデータもある。また、非正規雇用者は賃金の低下だけでなく、保険や年金がつかないことや解雇から守られる権利も弱いなど労働条件の悪化が顕著である。
この低所得の環境から抜け出せない理由は主に低所得者層、いわゆるワーキングプアに与えられる仕事には単純労働が多く、個人の能力を伸ばす機会が少ないということ、また単純労働であるが故たとえ能力を身に着けていたとしてもその能力を発揮する場が与えられないということである。これによって所得の上昇が妨げられている。所得を保障するはずの社会保障も、総額では増大しているもののその7割が高齢者に向けた社会保障であり、低所得者層全体をカバーできていない。
最低限の所得を補償する生活保護についてだが、受給要件を満たす人が実際に受給する割合を示す「捕捉率」の統計が公的にはなされていない。そのため研究者らによって試算が出されているが、いずれも10~20%程度とされている。
理念、問題意識
「人々が幸福を追求できる社会」を創造する制度設計や政策作成へ貢献することが私の理念である。幸福とは一人一人によって異なるものだが、所得の上昇に伴い消費できる財・サービスの範囲が拡大する経済学において幸福は効用と置き換えられ、効用Uは所得Yによって上昇する「U=U(Y) U’>0」とされている。必ずしも所得が幸福に関係するとは考えないが所得の増大によって健康状態の改善・維持がより可能になることで、さらに幸福を追求できる機会が増える。
しかし、今現在ワーキングプアと呼ばれる低所得の問題が存在する。所得の保障がないためにスキルアップの機会があっても踏み出せなかったり、職業訓練校などを卒業するまでの期間生活費が足りず断念するなどスキルアップ・賃金アップの機会があっても活用することができない現状だ。所得保障の有無がワーキングプアからの脱却に必要であり、そのための社会保障・生活保護だと私は考える。が、上述したように社会保障は低所得者層の大半を救うに至っていない。私の問題意識は一人当たりの所得が減少してしまっていること、またその所得を保障するために社会保障が機能していない現状である。
解決の方向性、政策
ワーキングプア問題を解決するためには前・後両方の政策を考える必要がある。
まず、ワーキングプアに陥ってしまう前の段階で、非正規雇用の割合を減らし最低賃金・最低所得の保障をすることである。ワーキングプア問題が起きてしまった1つの要因としてあげられるのが非正規労働者の急増である。現在日本の非正規労働者は全労働者人口のうち3割以上を占める。また、正規労働者であってもワーキングプア層に近い水準の所得しか得られない人々もいる。そうした人々をまずワーキングプアにしないためには最低所得の保障が絶対的に必要である。
ワーキングプアにいち早く対応しワーキングプア先進国と呼ばれるイギリスでは、生活保護額を基準として所得がその基準以下であればその分の所得を公的に負担し保障するという制度がある。また、期間限定ではあるものの職業訓練校などスキルアップを目指し休職している間も最低限の所得保障が行われていると同時に職業訓練校で訓練とはいえ仕事をした場合には給料も保障される。それに比べ日本でも職業訓練校などはあるものの、原則無給また所得の保障もないために最後まで通うことが難しくスキルアップができず所得の増大にはあまり寄与していない。国の予算からもイギリスが本気で問題解決をしようとしていることがうかがえる。
生活の安定化や所得の増大を目指すための補助としての役割が所得補償にはある。一方でこの制度にただ乗りする人が生まれてしまうことが懸念されるが、地域の行政と連携をとり見守ることで数は減らせると考える。また、ただ乗りしてしまう人を0にできずとも、この制度によって生まれる効果を考えればあまり大きな問題ではないだろう。
社会認識でも述べたように日本は最低賃金平均値が世界的に一般労働者の平均所得に比べ低い。最低賃金を上昇することである程度所得格差の改善をすべきである。しかし、ここで2つの問題がある。1つは最低賃金近くの水準で働いていたとしても、引き上げがその労働者の額まで達しなければ意味がないということだが、これはその差額分を現金支給という形であらゆる低所得者層の労働者に効果を期待できる。2つ目が最低賃金を引き上げることにより企業への経済的圧迫が増してしまうということだ。これは国が何割かを負担し企業の負担を和らげるとともに、経済成長を促すことで企業の資本自体を大きくすることが必要である。しかしこれは社会保障ではなく経済成長との兼ね合いが重要であり、今すぐ実施できるものではない。しかし長期的にみれば最低賃金引き上げがワーキングプア問題解決のための重要な政策である。
次に考えるべきはワーキングプアに陥ってしまった後に行うそれらワーキングプアと呼ばれる人々を低所得者層から引き上げることである。その為には同じく最低所得の保障とそれに伴い可能となる新たな雇用先の確保・より高度な能力を身につける機会を与えることである。
最低所得の保障は上述したようにスキルアップや雇用先を探す間の繋ぎとなり、所得が保障されることでより給料の高い企業へチャレンジすることなどが可能となる。しかし、いくら能力が高かくなろうと雇用先が見つからなければ問題は解決されない。これも上述したことではあるが、雇用を守るための経済成長による全体の所得の増大も必要であり、そのためには内需・外需両方を喚起する必要がある。このグローバル化した社会において経済成長をするためには競争力が必要であり、またそのために人件費削減などが行われてきた。しかしこれからの経済成長は労働者にしわ寄せを行わない、しわ寄せが来ないようなものでなければ意味がない。そこで私が考えたのは、外需に比べ比較的競争が少ない内需をより拡大させることである。内需はあくまで国内需要であり、競争するのは主に国内企業である。全体で労働者所得を守りながら競争することは可能である。
新たな内需の拡大分野としてあげられるのは医療現場や介護職などがあり、まだまだ十分に喚起されていない職を成長させ企外を成長させることができれば最低賃金の上昇や経済成長により社会保障の増大も行える。しかし、人口が縮小していく内需では拡大にも限界がある。そこで長期的には外需の開拓が必要となる。今後成長するであろう新興市場、アジアやブラジルなどの市場を開拓し経済成長を目指すべきだが、外需になると競争すべき相手がぐんと増えてしまいやはり人権削減など経費削減で競争力を付けざるを得ない。では逆に競争相手がそこまで多くない市場で競争することが可能になれば経費削減もあまり必要ないのではないだろうか?たとえば日本が世界に勝るものでいえばアニメや漫画、機械などの技術力であり人材である。農業などでも高価な高品質のものを中国などアジア近辺に輸出しているが、そのように比較優位があり、保てる分野で経済成長をしていくことが必要だと考える。そのためには技術力などの比較優位を保っていく必要がある。
今回のコンテンツにおいてワーキングプア発生の理由から解決の方向性までを述べたが、次回はその解決策をより詳しく具体的に述べたい。