WEB企画「ワーキングプア解決への方向性」   社会科学部1年 阿部伸弘

自己紹介

私の理念と致しましては「人々誰もが衣食住に納得して暮らし、生活を向上させることをができ、個々人の可能性を発揮できる社会」を理想の社会とします。しかし現実にはこれに反した事象が起こっており、金銭的な理由で個人の可能性を発揮する機会のない低賃金労働者などが急増しています。具体的にはワーキングプア、失業者の人々などです。このような人々が増えるのは私の理想社会像とは反対の様相を呈する社会であります。貨幣を交換手段として用いる経済システムにおいては、ある程度の経済的豊かさがなければ個人は自己実現することはできません。その社会を実現するため、私の問題意識である労働問題の最たる例である、ワーキングプアと失業者の現状を説明いたします。




ワーキングプアの現状とそれを取り巻く社会的な状況〜

ワーキングプアとは働いても国が定める年収200万円に満たない労働者のことです。厚生労働省の「賃金構造基本統計調査」によると全国に650万世帯、人口では1022万人もいるという結果が出ました。1997年の514万世帯から9年間で約140万世帯も増えており、全労働者の18パーセントを占めています。彼らの多くは非正規であり、正社員のような安定した地位もなく賃金も安いのです。そして1999年に派遣法の改正などにより、非正規雇用の業種規制が緩和し、非正規労働者は10年間で600万人増え、2007年には1726万に、全労働者の3分の1を占めるようになったのです。
生活保護を受けている家庭」「時給610円の労働者」は全てワーキングプアに分類されます。最近の日本では生活保護を受けている人々はどれくらいいるのでしょうか?厚生労働省の「福祉行政報告例」によると1980年代後半のバブル景気の時には、生活保護を受ける家庭、人数ともに減少傾向にありました。しかし1990年代のバブル崩壊後、じわじわとその数は増加し続け、2000年には生活保護を受ける家庭の数で70万世帯だったものが現在2009年の約10年間で2倍の140万世帯まで膨れ上がりました。つまり21世紀が始まってから現在までで生活保護を受ける家庭が2倍に増えたということです。また日本の2006年度で最も低かった最低賃金は時給610円です。しかも一つの都道府県だけではありません。青森県岩手県秋田県沖縄県と4つとも全て610円だったのです。ひとつこの最低賃金の収入だけで生活をする実験の例があります。青森県労働組合総連合が主催したこの実験は時給610円で一日8時間、22日働くと想定して生活体験を行いました。これだと月収10万円になります。実験の結果、税金車のガソリン代光熱費などを差し引くと食費に回せるお金は一日1000円しか残らないことが判明しました。これでは医療費など予想外の出費が出た瞬間、生活は破綻しています。


完全失業率

金融危機下、日本はアメリカより深刻な問題に直面しそれによって労働問題は悪化しています。総務省が28日公表した労働力調査によると、7月の完全失業率は5.7%となり、過去最悪の02年の5.5%を超え、今の形で統計をとり始めた1953年以来、過去最悪となりました。とりわけ男性6.1%は初めて6%台に突入した。企業の生産は上向いているものの、失業率は景気動向の推移に遅れる「遅行指標」で、今後一層悪化する恐れがあります。
 7月の完全失業率は、1月の4.1%から6カ月で1.6%も悪化。01年6月〜03年11月も5%台で推移したが、当時は4%台後半から2年以上かかって徐々に数値が上昇しており、今回は雇用情勢の悪化が急激に進んでいることを裏付けています。
〜完全失業者数〜
また完全失業者数は前年同月比103万人増の359万人で、増加幅が初めて100万人を超えました。世帯主は31万人増の89万人です。離職者を理由別にみると、リストラなど「勤め先都合」が121万人で、20代後半〜40代前半層が半数以上を占めています。
〜有効求人倍率
また、厚生労働省が28日発表した7月の有効求人倍率(季節調整値)も、前月より0.01ポイント低下して0.42倍となり、3カ月連続で過去最悪を更新しました。


ワーキングプア増加による社会的な問題

ワーキングプアの人々は所得が低いために生活が苦しく、働いても働いても生活が成り立たない悪循環に陥ってしまいます。内閣府の「若年層の意識実態調査」の結果によると非正規労働者ワーキングプアの人々のうち実に76.2%の人々が希望する就労形態として「正社員」を回答しています。また厚生労働省派遣労働者実態調査によると「長期の雇用保障がないため不安である」と答えた人が一番多く50%を占めていました。このようにしてワーキングプアとは5割以上もの人々が自分の現在の職に不満を抱いている事になります。これは、私の理想社会である「人々誰もが衣食住に納得して暮らし、生活を向上させることを望み、個々人の可能性を発揮できる社会」とは反対の様相の呈する社会となります。


ワーキングプアが生まれた原因分析

ではなぜこのような人々を生み出してしまったのでしょうか。それは、現在はグローバル化の時代であると言われ、人や物やお金などが盛んに行きかう時代であります。その流れで各市場もグローバル化され、合体し、他国の安い賃金を利用した商品が沢山入ってくるようになりました。例えば100円ショップのような今までは考えられないような他国の安い商品が買えるようになりました。その結果、競争も激化し国内企業は以前よりもコストの削減を必要とされました。具体的なコスト削減の方法を述べると、正社員の採用を抑制することによって人員を減らす一方、アルバイトやパート、非正規社員で補うのです。そして実際に1999年に派遣法の改正などにより、非正規雇用の業種規制が緩和し、非正規労働者は10年間で600万人増え、2007年には1726万に、全労働者の3分の1を占めるようになりました。トータルでみると、総人件費の抑制につながります。また生産性が高く賃金の高い製造業でリストラが進んだ結果2001年28%だった製造業の労働者の割合は2008年には21%まで低下しています。よってこの製造業からあふれ出た労働力が、生産性の成長が90年代からマイナス−3%と低い第三次産業分野に取り込まれたため、生産性の低い分野に労働人口が集中し、ワーキングプアは増加したのです。具体的な数字をあげますと近年の外需系企業の一人あたり実質GDP成長率を計算すると年率9.5%となり二桁に近い高成長を達成しています。一方内需系企業の実質GDP成長率を見てみると、近年は−2.1%であります。また外需系企業で働く労働者全体に占める割合は約25%であるのに対して内需系企業で働く人々は57,4%にも上るのであります。また90年以降マイナス成長が続く産業での就業者では72,7%もの人々が働いているのです。また生産性は企業の成長に大きな影響を与えると言われています。経済成長=全要素生産性+(労働分配率×労働力の伸び率)+(資本分配率×資本の伸び率)*全要素生産性とは労働力や資本など通常の生産要素以外に付加価値を増加させる要素。また製造業の賃金削減努力での低所得者そうの増加ももちろん原因であります。長引く競争の中で企業が生き残るために選んだ選択肢、それが、人件費の抑制なのです。リーマンショックの前は、長引く大不況もようやく出口が見え、事実、日本経済は回復のさなかにある、と言われていました。それにも関わらず依然とワーキングプアは増加している、という現実がありました。国際競争力のある大企業とはいえ、やはり人件費は一番お金がかかる部分だからです。人件費を抑えるというのは、非常に合理的なコスト圧縮法なわけです。確かにこれによって企業は多額の利益を得ました。しかしそれは、派遣社員、パートタイマー、アルバイト、といった人たちの低賃金に支えられてのことではないでしょうか。これが意味する所は、経済が回復しているとしても、結局ワーキングプアの増加につながる、ということなのです。そのコスト削減のしわ寄せが労働者の賃金に現れたのです。これらが多くのワーキングプアを生み出した原因なのです。


ワーキングプアの解決策

このような問題を解決する為には、ワーキングプアに陥ってしまった人々を救うための所得支援を実行することが必要です。

所得支援

負の所得税
改善するべき点はワーキングプアに陥った人々を所得支援することです。私は内需喚起とワーキングプアなどの低所得者層を救う政策として「負の所得税」を適用する事を提案します。これは公的扶助制度に代わるアイデアとして、所得がある水準(200万円)を下回った場合に対して、その水準を下回った差額の一定割合(7割)の給付を行う、というものです。既存の公的扶助のように国の人間が給付するか否かを決めるわけではないですから公平ですし、働けば元々の賃金以上に所得は増えるので、生活保護のように働くより生活を受けたほうが高い所得を得られ、少しでも働くと生活保護の支給が打ち切られることによって労働のインセンティブをそぐようなこともありません。私は給付の条件と致しまして週4日以上働き一日6時間以上働いているのに年収200万に届かない者に対しての給付を提唱致します。このようにする事により労働のインセンティブを削ぐことなく、フリーライダーの発生を防ぎます。またここの負の所得税は財源に最大19兆必要と言われているのですが、この19兆円を消費性向の強い低所得者に渡すので内需の刺激にもなります。また19兆円規模の財政出動が起これば、乗数効果が1.7だとすると32.3兆円もの内需喚起が起こるのです。

〜結〜

このようにしてワーキングプアへの所得支援を行うことにより最低水準の生活が守られ、ワーキングプア問題は解決への一歩を踏み出すだろう。