第四弾:これからのために

政治経済学部1年 佐藤有希子

今回は、これまでの分析をふまえて、政策提言をしていきます。
これまで、ワーキングプアにとどまらざるを得ない最大の原因は企業の雇用の流動化を進めるための人件費削減志向にあり、非正規雇用と正社員の雇用形態の二極化が進み今後もその傾向は続くであろうこと、また非正規雇用は能力開発の機会がないこと、それを補完するのは政府の役割であるべきであること、そして現在「保険方式」であるため今ある能力開発事業は利用できない人が多いことを述べました。

雇用の流動化を進めつつ、賃金構造を改善するには、どうすればよいのでしょうか。
私は、ここに多様就業型ワークシェアリングの導入を提案いたします。多様就業型ワークシェアリングとは正社員について、短時間勤務を導入するなど勤務の仕方を多様化し、女性や高齢者をはじめとして、より多くの労働者に雇用機会を与えるというものです。短時間正社員制度を導入することにより、同一労働同一賃金が導入されます。同一労働同一賃金を導入すれば雇用形態にかかわらず、時間や労働内容により賃金が決定されるので、正社員と非正規雇用者との賃金格差は解消されます。現在政府も厚生労働省、連合、日本経団連で政労使間の合意を終え、厚生労働省ワークシェアリング普及推進会議を設置し多様就業型ワークシェアリングの導入を図っています。そして企業労働者両方から高い関心がよせられています。しかしながらこの多様就業型ワークシェアリングはそれほど広がりをみせていません。

ではこの多様就業型ワークシェアリングの導入の障害となっているのはなんでしょうか。多様就業型ワークシェアリング導入の際の懸念として、企業は「生産性が低下する」(33.9%)「人件費が上昇する」(32.5%)といったことをあげております。一方、 労働者は「賃金や退職金の取扱いに不安を感じる」とする回答が72.7%と非常に多いです。生産性につきましては多様就業型ワークシェアリングを導入することで「ワークライフバランス」が達成されるため、むしろ向上すると考えられます。ワークライフバランスとは生活と仕事の両立を図ることです。このワークライフバランスによる企業のメリットとして優秀な人材の確保と定着、生産性向上、満足度向上、忠誠心向上を、労働者のメリットとして生産性の高い働き方向上、スキルアップのための勉強時間の確保、ライフ・バランスの確保、ストレス削減をあげられます。
ゆえに、最も取り組むべきは人件費です。人件費の内実はと申しますと、約6割が賃金、そして賃金以外に法定福利厚生費などがあります*1。法定福利厚生費とは社会保険料等のうち、企業が負担した費用であり、これは年々増加傾向にあります。この社会保険料負担のために、企業は雇用形態の差別化を図り人件費を削減しようとするのです。

そこで、この社会保険―年金・医療・介護といった制度の財源を「保険料方式」ではなく「税方式」で徴収することとします。具体的には消費税の増税所得税の累進性を高めます。そうすることにより能力開発もまた現行の雇用保険による「保険方式」から「扶助方式」へ、つまりなんらかの資格―具体的には長期間の勤続経験がなければ能力開発をうけられないといったことではなく、文字通り万人に開かれた教育であるべきだと考えます。つまり、能力開発の機会を学校卒業→企業内職業訓練とこれまでのように限定せず、性別、年齢、学歴を問わずに教育を受ける権利を保障するのです。今後日本が目指すべき教育の最終道標は「生涯学習社会」なのです。この理念を実現し、持続可能な社会として取り組んでいるのが北欧のスウェーデンです。スウェーデンで行われているリカレント教育とは「いつでも、だれでも、どこでも、ただで」という合言葉に示されるように、若年者向けの学校教育のみならず、再教育といった成人教育も行ってます。日本でも働きながら学べる日本版デュアルシステムが導入されましたが、35歳までという年齢制限が設けられていますし、訓練費は原則受講生負担です。スウェーデンは教育についてはすべて無償制という教育については公費主義を徹底して取っています。生活費は職業訓練手当てということで、学校に行ってる期間は以前の賃金の75%を支給します。リカレントとは「回帰する、再生する、循環する」という意味です。学校と社会の関係をリカレント化することによって、どんな状態にあっても教育を受けられるようになり、必要に応じて能力開発が行えるようになるのです。


以上の政策を行うことで、働いても働いても暮らしが楽にならないといった状況はなくなり、「その人なりの豊かさ」を実現するための選択肢が増え、人生におけるさまざまな可能性を広げることにつながります。


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