「非正規雇用者をどうするか」③

法学部1年 津田遼

前回は、非正規雇用者が増加した原因を、時代的背景と政府の規制緩和といった側面から考察した。では、今、こういった問題を解決するため、いかなる政策がとられるべきなのだろうか。今回は、問題解決のため日本政府が取るべき政策の方向性を考える。


まず、現在の社会保障制度の見直しが必要である。

現行の社会保険制度は、単一の企業に長期にわたって雇用される正規雇用者を念頭に置かれた制度である。その一例として、雇用保険は「1年間以上継続して雇用することが見込まれること」を加入の必要条件としていることが挙げられる。そのような現行制度の下では、就職先の移転が正規雇用者と比べ多い非正規雇用者が雇用保険に加入することは困難であるといえる。また、制度自体が複雑であることから、就職先の変更に伴う保険登録の事務手続きの負担が大きいため、保険料未納や非加入に繋がりやすい。また、非正規雇用者は、その扶養者が正規雇用者である場合以外は、健康保険、厚生年金に加入することができない。従来は、非正規雇用者の多くが主婦のパートであり、健康保険・厚生年金制度もそれを念頭に運営されていたので、被扶養者の地位にとどまれるように年間収入の上限を引き上げ、加入に必要な労働時間も雇用保険よりも長く設定してきた。しかしながら、現代においては、被扶養者になれない独身の非正規雇用者が増加しており、彼らは健康保険・厚生年金に加入できないため、国民年金国民健康保険に加入せざるを得ない。しかし、これらは企業による負担がないため、本人負担額は増加し、多くの非正規雇用者の生活を圧迫している。

これらの問題を解決するため、第一に、非正規雇用者の雇用保険の登録手続きを雇用主の企業が行うことを義務付けるべきである。これにより、非正規雇用者の未加入を防ぐことが可能となる。もっとも、企業にその責任を義務付けることで人件費等、企業は負担を負わなければならないが、これに対しては、政府が補助金を出すことで大幅な軽減を図ることができる。第二に、国民年金制度の見直しである。現行制度では、被保険者は一定額の保険料を長期にわたって納めなければならず、これは低所得者層にとっては大きな負担となっている。したがって、保険料免除・低減の基準を現行制度よりも下げることで、低所得者層の負担を軽減することが可能となる。


一方、以上のような社会保障制度改革を行うためには、今まで以上の財源が必要となってくる。また、今後、日本社会における少子高齢化はさらに深化していくことから、高齢者に対する社会保障費も増加する。したがって、歳入の拡大による財源の確保が急務である。

財源確保のため、増税による歳入の拡大を行うべきである。これに対しては、政府の無駄な歳出を抑えればいいのではないか、という主張もあるが、確かにそれも限られた財源を効率よく使用するといった面では重要ではあるのだが、それだけでは十分な歳入が得られないため、やはり増税は避けられない道であるといえる。では、どのような増税を行うべきか。その問いに対し、私は、消費税および資産課税の税率を上げるべきであると考える。以下、理由を挙げる。

消費税、資産課税のほかに、税収源として所得税法人税が挙げられるが、これらの税率の引き上げは日本の経済発展といった観点から行うべきではない。

所得税に関しては、累進性の拡大や、全体の税率の引き上げといった増税手段が考えられる。前者においては、せっかく他人よりも努力して高収入を得ても、その多くが税金として奪われてしまうことから仕事で結果を出すことへのモチベーションの低下が予想され、結果として日本全体の経済力の低下をもたらしてしまう危険性が高い。後者に関しては、増税により、多くの非正規雇用者をはじめとする低所得者の生活が圧迫されてしまうため、本末転倒である。

法人税の税率の引き上げという手段も考えられるが、これも妥当ではない。何故なら、グローバル化され、企業の活動範囲が国内にとどまらず世界各地に拡大した現代において、法人税率を引き上げるということはすなわち日本で活動することの魅力を低減することを意味するからである。日本で活動することで、より多くの法人税がとられるのであれば、法人税率がより低い他国で活動するインセンティブが働き、企業の海外移転に拍車がかかってしまう。結果として、日本国内で活動する有力企業が低減し、日本の経済力低下をもたらしてしまう。よって、法人税の税率引き上げも良い手段とはいえない。

これに対し、消費税、および資産課税の税率の引き上げは最適な手段だといえる。

まず、消費税に関してだが、これは消費活動を行う全ての国民が広く薄く負担することから経済活動に対して中立的であり、また、安定的な歳入を期待できるという性格を持っている。また、平成19年度(予算額)においては10.6兆円の税収が見込まれており、所得税(16.4兆円)、法人税(16.5兆円)と並んで税収全体を支える大きな柱であるといえる。だがその一方で、消費税率の引き上げは低所得者層が消費活動を行うことを極めて困難にするのではないかという主張も考えられる。これには、欧米諸国がそうしているように、食料品をはじめとする生活必需品への税率をゼロパーセントもしくは極めて低いパーセントに抑えることで、増税による低所得者層への負担を軽減することができる。

次に、資産課税だが、これは相続税贈与税などを指し、増税による経済活動への負の影響は非常に少ないという性格を持っている。資産課税の全税収に占める比率は消費税や所得税などと比べると少ないが、以上の理由から、増税の対象としては最適であるといえる。

以上、消費税と資産課税の税率を引き上げ、歳入の拡大を図ることで、今後、少子高齢化の進行、そして非正規雇用者等に対する社会保障費の増加に伴う財源の逼迫を解決できるのではないかと考える。


「幸福」の形は十人十色であるが、それがいかなる形であれ、最低限の収入はそれを追及するために不可欠である。一人でも多くの国民が自らの「幸福」を追求できる社会の実現を切と願い、本コンテンツを終えたいと思う。

最後まで読んで下さった読者の皆様、有難うございました。