「現代の食糧情勢を考える」③

法学部1年 小倉勇磨

前回の内容をまとめると、いま必要なのは ?耕作放棄地?担い手問題という2つの日本農業の構造的問題を解決し、その上で?国際競争力の強化を行う、ことです。では以下に具体的な政策を述べさせていただきたいと思います。



まず一点目の耕作放棄地に関して、これに対しては農地への優遇税制の見直しによって「耕作放棄地への固定資産税課税を一般住宅地と同水準にまで引き上げること」を提言する。現在、農家に対しては長期安定利用を条件に固定資産税、相続税の減免という優遇税制がとられているが、このことが転用期待の発生を可能としているのである。従って耕作放棄地への固定資産税課税により、耕作放棄地を耕作放棄したまま保有することによる経済的影響が農地保有の将来的転用期待を上回ることによって、耕作放棄地の売却は進むと考えられる。ただし、あくまで固定資産税の見直しを行うのは耕作放棄地のみに限定するので、これによって農家の方々の生活が困窮することはないと考えられる。

 

すなわち税制を変えることで耕作放棄地を売却する方へ促していく、ということです。そして次に問題となるのが、担い手問題、つまり一体誰がその耕作放棄地を耕すのかという問題ですがそれは、3点目の国際競争力の強化とも関連して、「農作物の高付加価値化」による「棲み分け」によって競争力を高めることを目指すべきであると考えます。具体的には、


まず、経営の安定した農家が少ないことから、株式会社による農地の直接保有を認めることが必要である。現在、株式会社による農地保有は、「所有」と「利用」を分離し農地の有効利用を促す観点から貸借規制を緩和され、現在はリース(貸し出し)方式で認められている。だがこのリース方式には問題がある。それはあくまで貸し出しであるため、相続時などに農家が返却を求めた場合、企業は返還する義務を負わなければならず、経営が不安定になるということ、契約期間が短い、農家の自主裁量に任されるためアグリビジネスが促進されにくいこと等である。そこで、株式会社の農地直接保有を推進させることが必要と考えられる。更に、このアグリビジネスの推進は担い手問題の解決のみならず、「棲み分け」による競争力の強化にもつながる。例えば、ワタミは自ら有機栽培を行い、それを外食産業部門で利用することで、他社との差異化、ブランド化を行っている。

つまり規制緩和を進めることで企業による農業への参入を進め、そのことによって競争力を確保していくということです。

また、一般農家が「棲み分け」を行うための政策も必要となりますが、そのためには ?農作物の高付加価値化 ?流通販売網の整備が必要不可欠であると考えます。そのためになすべきことを以下に述べさせていただきます。


まず、農作物の高付加価値化のために、エコファーマーへの支援拡大が求められる。現在のエコファーマーに対する支援は ?農業改良資金の償還期間の2年延長、その限度額の上昇 ?農作物へのエコファーマーマーク添付許可の2つのみであり、有機栽培による経済的デメリット、(例えば農薬使用減による生産の不安定化など)を上回るとは考えられない。そのため、具体的には、農薬を減らす、輪作を行う、害虫退治にカルガモを使うなどそれぞれの取り組みに対して補助金を交付することを提言する。この政策は多くの取り組みを行えば行うほど補助金がもらえるため生産者のインセンティブを刺激するものと考えられる。


そして?については生産者と販売者である企業の連携を強めることが必要である。実際に、カゴメ麒麟ビールなどの企業がこの形態のアグリビジネスで大きな成功を手にしており、その要因が「高付加価値作物を一定の量、価格で確実に供給できること」であったことを考えれば、販売流通網の有効性は明らかであると考えられる。具体的な政策としては、生産者と販売者双方向へのアクセスを容易にするためその間を取り持つコーディネーターを地方自治体レベルで増やすことが必要となる。現在この制度はとられているものの、コーディネーター数が少なく、地域に対応した対策が取れていないのが現状である。この政策で契約栽培等が促進され、有機栽培に移行する際の大きな懸案である流通販売の問題が解決に向かうものと考えられる。


現在、有機栽培に関する取り組みで主なものは、主に地域による取り組みに対するものと個人による取り組みに対するものに分けられますが、後者の個人による取り組みに対する政策はまだまだ十分でないと考えます。故に支援を拡充すべきであるのです。そして販売、流通網に関しましては有機栽培で野菜等を栽培しても需要、つまり販売先が確保できない可能性がある、ということです。そのような観点から、農家と企業間での契約栽培等を増やすため、その仲介役を増やすべきとの結論に至りました。


批判とそれに対する政策

ただしこれらの政策には批判もあります。特に株式会社による農地保有の推進に関しては、企業という性質上、収益が望めない場合その企業が農業部門から撤退するため結局耕作放棄地が増えてしまうのではないかという批判があるのです。


ではそもそもなぜ耕作放棄地を再び放棄せざるを得ないのだろうか。それは収益が上がらないからである。従って企業が高確率で収益をあげられるようにすれば元耕作放棄地を再び放棄することはなくなるように考えられる。

現状の制度では企業が農地を借り入れる際には、所有者はもちろんのこと、自治体の許可も必要であるが、この際に事業計画書も提出する必要がある。すなわちその事業計画書をもとに、承認するか否かが決められるのである。では農地の直接保有を認める場合はどうだろうか。この場合、結果として生じる耕作放棄地の増加を防ぐため、収益が上がらない可能性の高い株式会社に対しては農地取得許可を出さないことが必要となってくる。ではそれをどのように判断するのか。私はここで?アグリビジネスの成功例、失敗例のデータベース化?農地取得の承認の権限を市町村長から有識者によって構成される機関に移譲することを提案する。前者については承認するか否かの決定を行う際の有効な資料とするため、後者についてはアグリビジネスでは生産のみではなく販売戦略や流通などをその企業が一手に担うものが多く、その意味で様々な分野の専門家がその事業の有効性について議論を行うことが望ましいからである。この2つによって新規参入企業の事業計画が果たして収益を上げることができるか、ということについて事前に判断でき、議論の結果収益を上げ得ないと判断された場合保有許可を出さないようにすれば、耕作放棄地がいたずらに増えるということもないと考えられる。

また、企業による農地の直接保有の解禁をまずはアグリ特区で行うことも有効であると考えられる。実験的にこの試みを行うことで、予期せぬ影響等が出てきたときに計画の見直し等を行うなど、柔軟な対応が可能となるのである。


これらのことによって株式会社が農地を遺棄するリスクは小さくできるのではないかと考えます。



結びに代えて・・・

ここまで読んでくださった方、ありがとうございました。私が述べた政策によって農業自由化、EPAの締結が可能となれば食品価格は下がり、また供給不安に陥ったときのリスクも小さくなります。まだまだ至らない部分は多いと思いますので、何か批判、疑問等ございましたらご指摘のほどお願いいたします。