合同コンテンツ「嘆きからの脱出」

商学部1年 花房勇輝

では、長時間労働の解決を阻害している要因と、その解決策について述べていきたい。



裁量労働制

裁量労働制とは、労働時間の制約を受けず、業績に応じて給与が算定され支払われる形態の労働形態をとる職種に対して適用される制度のこと。労働時間と業績が必ずしも連動しない職種においてこの制度が適用される。

主に、「業務が多い」とした専門職や「仕事の性格」とした管理職がこの対象である。


「時間管理の緩やかな労働者」は、全体的に見て、「緩やかではない」労働者よりも、労働時間が長く、所定時間外の労働や仕事の持ち帰りなども多いことが事実である。


しかし、ここで重要となってくるのが、裁量労働制という働き方そのものではなく、その働き方の結果生じた長時間労働が問題なのである。特に管理職などでは、自分の労働時間と業績は連動せず、他の労働者のように労働時間に制約を課すことは適当ではないからである。

よって、裁量労働制の制度そのものを変えることではなく、裁量労働制の下で働く労働者の仕事量を減らすことを志向すべきである。つまり、管理職におけるジョブシェアリングであり、専門職におけるワークシェアリングである。



<人材育成>

しかしながら、ここで問題が発生する。専門職という職業は、誰にでもこなせるわけではなく、ある程度の知識と技能を要求される。

よって、こうした技能や知識を新たに身につける場を保障する、「人材育成」が必要なのである。政策の方向性としては、日本版NVQとそれを通じたリカレント教育の推進である。


対象となるのは、「人手不足」とする金融・保険・不動産などと、「業務が多い」とした専門職などである。




<人手不足>

では、人材育成の必要性は低いと見られるが、何らかの理由で人手不足に陥っている職種についてはどうだろうか。運輸業が代表的である。


国土交通省は、2006年7月度の『国土交通月例経済』において、「運輸業界における就業者数が324万人を下回ると人手不足感が高まる傾向にある」と発表していたが、今年は既に8月の段階で319万人と指摘された危険水位に達していることがわかっている。

運輸業において入職率(在籍者に対する入職者の割合)と離職率(在籍者に対する離職者の割合)の推移を見ると、全産業、運輸業共に近年では離職率が入職率を上回ることが多くなっている。一方、運輸業は全産業と比較して、入職率、離職率共に低く、労働者の流動が少ないと言える。


次に、運輸業への入職率を年齢階層別で見ると、29 歳以下の若年層は近年下降傾向にあり、全産業における同年代の入職率と相反する動きを見せている。運輸産業には労働内容、労働環境、労働時間等労働条件が他産業に比べ厳しいものがあり、このような業種については、特に、若年層を中心として労働者が集まりにくくなっていることが理由である。


以上の分析をもって、これらの問題を解決するための政策を提示したい。






まずは、「人手不足」とする金融・保険・不動産に従事できる人を増やし、技術的専門職・事務的専門職における業務量を緩和するためにワークシェアリングをする前提としての専門的人材を育成し、さらには低収入の人に対して、より高付加価値のある職業に就ける機会を与える政策である。


それは日本版NVQである。NVQはイギリスで浸透している。イギリスのNVQとは、職場で実際にどんな仕事ができるかを示す、能力ベースの職業資格で、あらゆる職業のあらゆる仕事を客観的・体系化し、これに資格を対応させることで勤労者の能力を表示できるように試みたもの。1級から5級までの5段階、合計で約800、すべての職業の9割以上をカバーしており、こうした資格制度の日本版の構築を行うべきである。

雇用のミスマッチが生じる大きな原因の一つは、求職者の職業能力が基準化されていないことであるから、これまでの経験や職業訓練で得たスキルを共通の尺度で測ることができれば、教育訓練などの成果を明示することができると同時に、求人側も求職者の能力を事前に把握することができるため、ミスマッチ解消に効果は大きいのだ。

この政策を、現在行われているリカレント教育(社会人の継続的な能力開発の場)において活用すれば、求職者は求人先の真に求める能力をつけることができる。



次に、こうした人材育成を基にした、ワークシェアリングやジョブシェアリングの導入である。これは主に、管理職や専門職に対する労働時間縮小を目指している。またその際に必要となってくる短時間正社員制度、さらにはそれらに関連する育児休業制度の定着等による労働環境の整備も含んでいる。これについては主に運送業などにおける人材不足解消にも役立つ。


ジョブ・シェアリングとは、「フルタイム労働者1人分の職務を特定の2人で労働時間を分担しつつ行い、分担した時間について各自責任を負うのではなく、職務の成果について共同で責任を負い、評価・処遇についても2人セットで受ける(厚生労働省委託調査「ワークシェアリングに関する調査研究報告書」(2001年4月))」といった働き方を指す。

2人で1人分の仕事を分けるということなので、制度の対象者は短時間勤務になります。したがって、企業としてジョブ・シェアリングという制度を検討する前に、まず、短時間勤務制度について、検討を行う必要がある。

次に、短時間勤務制度の適用者の中から、どういう人を対象に、ジョブ・シェアリングを適用していくか、ということを検討する。

ジョブ・シェアリングを適用しても、1人で1人分の仕事を担当する場合と同等に、あるいはそれ以上に生産性が上がるようにするためには、同じような職種、同等のスキルを保持するペアを対象にする必要がある。育児・介護の必要性が生じた場合、仕事以外の自己啓発に時間をとられる場合、あるいは高齢になった場合にジョブ・シェアリングを認める等、適用事由はいろいろと考えられるが、1人の事情だけではジョブ・シェアリングは成立しないので、本人同士でペアを作った上で制度の適用を申請してもらう等、ペアを成立させるための適用ルールと仕組みを十分に検討することが重要だ。


このように、ジョブシェアリングやワークシェアリング、短時間正社員制度、リカレント教育を受けるための有給休暇などの労働時間短縮を主とする労働環境の改善を計画し、実施した企業に対しては、従来までの補助金の交付のみでなく、社会保障の企業負担分の減免措置を行う。これによって、計画を実施していくうえでのコスト面での問題は解決され、さらには企業にとって推進していくインセンティブにもなるのだ。



さらに、非正規雇用者の正社員への登用の推進である。これに関しても、現在雇っている非正規雇用者を正社員での雇用に切り替えるという事業計画を策定、実行した企業に関しては、補助金やそれにかかる社会保険の企業負担分を減免する措置を行う。この政策が意図としているのは、卸売・小売業などの人手不足の解決と、失業の危機にさらされている非正規雇用者、さらに保険に加入する権利のないリスクを負った人々を救うことである。



これらの政策によって、労働者からその過度な労働、精神的に追い詰められる状況から抜け出せることを切に願う。