合同コンテンツ「今日」

教育学部一年 岩本慧


前回の発信では、問題提起を行った。では、その問題を取り巻く現状すなわち「今日」はどうあるのか。以下に述べていく。


 前回の発信でも触れたが、現在わが国においては、全世代にわたって低所得者層が拡大している。このような現状が意味するところは、現役世代(幼年・壮年)の個人の生活基盤である収入の不安定性の高まりと、労働者の過重労働によるメンタルヘルス、過労死などが挙げられ、労働のリスクが高まることにある。その帰結として、社会の持続可能性・安定性が低下してしまうのである。しかし、その中でもとりわけ高齢化の急速な進行が問題となってくる。すなわちそれが意味するところは人口の高齢化が低所得者の高齢化という影響をあたえることであり(90年代だけを見てみても高齢者が貧困者に占める割合は29%から38%に上昇している)、今後壮年世代が高齢世代にシフトするにつれて、現状のままでは貧困者の過半数は高齢者になることが予測される。


 そして高齢化の進行はわが国の将来の経済財政にとって重大な影響を与える。わが国の高齢化はペースが極めて急速であり(65歳以上人口割合が7%から14%に達するまでに要した年数は僅か24年間)、到達する高齢化の水準が高いことが特徴的である(65歳以上人口割合は、2005年時点で20.2%に達し、2055年には40.5%に常習する見込み)。高齢化が経済財政に及ぼす影響としては以下のことが挙げられる。


A.年金や医療等の社会保障制度の維持が困難になること

B.貯蓄率が低下する可能性が高いこと

C.労働力が高齢化し大量の引退者が出ることで潜在的成長力が低下しかねないこと


Aについては現役世代と高齢世代のバランスが崩れる。その際に年金・医療制度が賦課方式であれば、現役世代の負担が過重になるため、人口動態により公平な社会保障制度に再設計する必要がある。Bであるが、貯蓄率が低下すると財政赤字が国内資金のみではファイナンスしにくくなるため長期金利の上昇に繋がる可能性もあるため財政再建が急務となる。最後にCついては女性や働くことが可能な高齢者の活用により、労働力率を高めることや人的資源の価値を従前以上に高めて労働生産性を高めることが必要になってくる。


以上のことからも、高齢者を文字通り「支える」現役世代が不足していく現状の中からどのように彼らを支え続ける持続可能性を持った制度を構築していくべきか。次に、社会保障財源の問題点を検証する。


なお、現在の国の社会保障費は以下のようにある。


社会保障給付費:

社会保障給付費とは、年金や医療保険等の社会保障制度を通じて国民に提供される年間の給付総額のことで、2005年度の社会保障給付費は87兆9,150億円で、一人あたり68万8,100円であった。内訳は、医療28兆1,094億円(32.0%)、年金46兆2,930億円(52.7%)、福祉その他13兆5,126億円(15.4%)となっている。また、高齢者関係給付費は、61兆7,079億円となり、同給付費の70.2%を占めている。2025年度の社会保障給付費は141兆円(国民所得比26.1%)に達するとの見通しである(「社会保障の給付と負担の見通し」(2006年5月厚生労働省推計)の「並の経済成長」のケースによる)。

社会保障関係費

政府予算の一般歳出に占める医療や年金、介護、生活保護などの社会保障分野の経費のことで、一貫して増加し続けており、現在では総額21兆円を超え、財政赤字の大きな原因となっている。2007年度予算の社会保障関係費は21兆4,769億円(前年度比5,352億円増、伸び率2.6%)であり、国の一般歳出の45.74%を占めている。内訳は、医療84,285億円(約40%)、年金70,305億円(約34%)、介護19,485億円(約9%)で83%を占めている。

社会保障財源

2005年度の社会保障財源の収入総額は117兆5,220億円である。内訳は、社会保険料54兆7,072億円(46.6%)、税30兆848億円(25.6%)、資産収入18兆8,465億円(16.0%)、その他収入13兆8,835億円(11.8%)である。


制度自体の問題点は端的にまとめると、制度と特徴として挙げられるのが「保険と税」という異なる財源が渾然一体となっていることである。こうした(渾然一体的な)制度は、高度経済成長期の時代の「戦後合意」の下に社会保障と経済成長、平等と効率性との間にあるトレード・オフの関係を超えて国民皆保険システムが産業政策の一環として機能していて、日本型経営・家族システムとも並ぶ形でもあった。つまり、国家挙げての経済成長への志向の中で、‘健康かつ有能な企業戦士の健康・生活’を背後で支えるシステムになっていたのである(日本の場合は「インフォーマルセクターによる社会保障」があったために国家の負担が小さかった)。


高齢者の所得の大半を占める年金を例にとってみると、年金制度は社会保険制度が採用されているが公費も投入され、保険料と税による財政運用が行なわれており、現役世代の保険料負担で高齢者の給付を補う賦課方式がとられている。基礎年金財源の三分の一は(2009年までに二分の一へ引き上げ)まかなわれ、基礎年金は「所得再分配」機能、厚生年金(の二階建て部分)は所得比例だから「貯蓄/保険」機能と一体化した方式となっている。しかしこうした渾然一体的な制度は人口構造が高齢化していくにつれて重い負担を後の世代に課すことから高い拠出は「税」として受け止められ制度への加入忌避につながるなどの問題もあるのである。


また公的セーフティネットの機能不全も、制度の規模自体の増大が求められているにもかかわらず起きてしまっているのは財政面の影響も大きい、いやむしろ収斂されるといっても過言ではないだろう。端的に言って、大きな要因の一つは、社会保障制度の持続可能性を高める必要から歳出を抑制しなければならなかったことが挙げられる。わが国の政府予算の一般歳出に占める医療や年金、介護、生活保護などの社会保障分野の経費にあたる社会保障関係費は2007年度予算において国の一般歳出の45.74%にのぼる21兆4,769億円を占めており、今後も高齢化の急速な進行からその費用の増大は明白であり、ますます財政が圧迫されていくため、歳出における社会保障費を削減し、制度の持続可能性を高めねばならなくなった。また経済財政諮問会議調査によれば、財政状況を悪化させずに現在の医療や介護のサービスを維持するには、2025年度で最大三十一兆円の増税が必要となり、消費税では15%の引き上げが求められるとしていることからも、持続可能性の高い社会保障制度の確立が求められていることは明らかである。そして、その財源も、バブル崩壊後のわが国の財政において度重なる景気対策の実施により財政赤字が途方もない規模にまで累積した。現在は、景気回復過程が長期にわたったことと定率減税の廃止から税収は回復し、公共投資を中心とした歳出削減が功を奏してフローにおける財政収支は好転しているといえるが、昨今の税制調査会の討議によれば、消費税の増税はマクロ経済の消費者行動の減退が予想されることからも引き上げには困難が伴うとされており、実際に過去の引き上げの際に消費者物価指数が増大し一時的に個人消費が落ち込んだことからも、財源の確保も依然として困難なままである。およそ国・地方の長期債務残高がおよそ700兆円を超えており、わが国の財政状況は依然として非常に厳しい状況下におかれている。



 まとめると、セーフティネットの機能を十全のものとするためには、まず第一に財政の問題点をクリアしなければその目標は達成できない。社会保障関係費だけをみてもわかるように現在の時点でも一般会計予算のおよそ四分の一近くを占めており、増大が求められる現状を乗り越えるために取られるべき方法、政策はどうあるべきか。そして、所得の保障だけでなく個人のリスクを緩衝する政策もどうあるべきなのか。


次回の発信で「一昨日」「今日」を超えて、個々人が望むよりよい「明日」を支えるセーフティネットの構築のための政策を発信していく予定である。