合同コンテンツ「明日」

教育学部一年 岩本慧

前回での発信で経済的希少性が低いために生活に生じるリスクが大きくなり、生活を圧迫される高齢者の人々の経済社会におけるセーフティネットの機能不全の原因を見てきた。今回の発信では彼らの所得保障のみならず、現役世代の所得保障も同時に行うことで現役・高齢両世代のボトムアップを図れる政策を提示していく。


前回行った原因分析から導き出される政策のポイントは以下のようになる。

歳入・歳出の改革

所得税の所得控除縮小と還付つき税額控除の導入

年金→基礎年金の全額租税負担


まず歳入・歳出の改革であるが、これについては現在政府が国・地方の基礎的財政収支プライマリーバランス)の黒字化を2011年度までに実現するために要対応額を16.5兆円と設定し、そのうちの11.4兆円〜14.3兆円程度を歳出削減で、その差額を歳入改革で賄うとの方向性を示している。膨大な収支ギャップを歳出もしくは歳入いずれか一方で埋めることは非現実的であり、歳出・歳入の一体改革は必要不可欠であるのは理解できる。前回の発信でも触れたが、その潮流からか昨今消費税を巡る議論は盛んに行われている。


本論から若干それるかもしれないが、ここで財政赤字がなぜいけないのかを述べておく。財政赤字が過度に累積すると以下のような現象が起こる。


財政が硬直化

財政の持続可能性に疑義、国債の信任が低下

世代間公平性の低下


上の現象が招く事態は政策的経費の圧迫や将来不安の高まりによる消費の抑制、長期金利上昇によるクラウディング・アウトが起こり、景気が低迷して失業率が上昇・生活水準が低下する。つまり財政赤字は結果として経済社会に大きな悪影響を与えてしまうことが明らかなのである。しかし、財政赤字の負の効果を過大に評価して極端な均衡主義財政をとることは、必要な社会資本整備に不備をきたすなどの問題をもたらすなど非効率であり、中長期的な資源配分機能を果たした結果として生じる財政赤字ならば是認されるべきではあるが、財政赤字の常態化・過度の累積はやはり座視しておいてよいはずはない。

 

では、生活を圧迫される高齢者を救いなおかつ将来高齢化する低所得者層を生み出さないための政策を提示したい。まず、所得税の所得控除縮小と還付つき税額控除について述べたい。それはつまり、現在の社会状況に適合した形で現役労働世帯と所得の低いものたちの自助を促進するため、現役世代と老年世代の所得税のフラット化を行うことでもある。具体的には、所得税における所得の控除を縮小させ、給付可能な税額控除を導入するのである。所得控除という制度は、控除を拡張しても税負担軽減効果は及ばず、累進所得税のもとでは、控除拡張はむしろ所得の高い階層の税負担を軽減してしまい、高所得者層に対してはある意味減税になっていたためである。また低所得者世帯の現在の控除額は、彼らの所得を上回っているため、多少縮小しても悪影響は想定されない。つまり、所得控除を縮小することで増収を図り、課税ベースの拡大も図れるのだ。

そして、税負担額を超える税額控除額が給付されることで、低所得者世帯への再分配政策になる。還付つき税額控除とは欧米では低所得者層への税負担軽減政策として用いられている。税額控除の最大の特徴は所得税額を超える控除額は還付され、税制よって所得再分配がなされる点にある。こうした所得再分配は所得控除では不可能であり、その点で低所得者層への経済的支援の手段として望ましい性質を持つ。なお欧米では、アメリカのような勤労所得税額控除(Earned Income Tax Credit)・のような貧困の勤労世帯に限定して、そうした世帯の勤労参加を促しつつ所得を再分配するタイプや、オランダは基礎的な所得控除を税額控除にかえて控除の対象を国民全体に広く設定して実施するなど、政策目的や執行の問題に配慮しつつ様々なタイプの税額控除が用いられている。

還付つき税額控除のメリットは、今後増大が求められる消費税や社会保険料負担によって発生する逆進性などの低所得者層の負担を大きく回避できる点にある。このことは、高齢世代・現役世代と関係なしに各世代の低所得者層への再分配政策となることを意味する。


上述の政策を実施したうえで、中長期的なスパンで段階的に消費税率を引き上げ、社会保障目的税化を行う。そこで確保した財源から政府が全額負担した基礎年金を最低所得保障に位置づける。これによって、所得の大半を年金に依存せざるを得ない高齢者の普遍的な所得保障が達成される。また、消費税率の引き上げに伴って懸念される海外からの直接投資へ与える負の影響も、政策の実施により低所得者層の所得が増大し総需要の拡大も考えられるために内需の拡大にも資するため、中長期的にみて直接投資への拡大も十分に考えられる。


以上提示した政策が問題の解決の方向性に対して妥当なものであると確信する。若者も、お年よりも、みんな個々人が自らのよりよい「明日」へと、その未来へと、進みだしていけるその「明日」が来ることを私は願ってやまない。


ここまで議論してくださった方々、本コンテンツをここまでお読みいただいた方々に心からお礼申し上げます。以上をもって結びとさせていただきます。