「日本の揺らぐ食卓を護るために」③

法学部1年 加藤洋平

これまで発信してきたコンテンツでは、日本の脆弱な食料安保という問題の提起、その解決によって私が目指す理想社会、そしてその問題の構造の分析を行ってきた。今回は本コンテンツ最終章ということで、現状で打たれている政策を分析し、自らの政策も提示していきたいと思う。

前回のコンテンツでは日本の食料安保を脆弱なものにしているその原因とは、国外からの穀物供給体制を揺るがす地球温暖化による異常気象の頻度、規模が共に増加、増大傾向にあること、さらには不測の事態に陥った際のセーフティーネットとなる国内自給力が日本農業の衰退によって加速度的に無くなっていっていること、この2点を挙げた。言うまでもなく、私が政策を打っていくのはこの2点に対してである。

 
〜国外からの供給安定化〜

まずは世界の穀物供給安定化を図るための温暖化リスクの緩和である。現在、温室効果ガス排出量が急速に伸びているのが経済発展目まぐるしい東アジアである。中国に関しては2010年にアメリカを抜き世界一の温室効果ガス排出国になるといわれており、また
World Energy Outlook 2007によると、2030年には東アジア(ASEAN+6)の温室効果ガス排出量は世界の約45パーセントをしめるようになるとのデータも出されている。このように経済発展目まぐるしいアジアにおいて温室効果ガス排出を最小限にするためにはクリーンな経済発展が求められるのである。そのためにはクリーン開発メカニズム(CDM:温室効果ガス削減義務のある先進国が出資し、途上国に省エネ技術を移転しクリーンな経済発展を促すという政策)の促進が必要であると考える。CDM促進のためには、CDM事業で獲得した削減量(クレジット)を円滑に取引できるシステムが各国、各企業に辞表参加のインセンティブを付与するために必要である。そこで、京都議定書で課されている温室効果ガス排出量削減を効率的に行っているEUの政策について考察していきたい。

欧州排出権取引制度(EUETS)

2008年、ついに京都議定書の第一約束期間がスタートした。そして温室効果ガス削減のための環境整備として、世界に数々の排出権取引制度が設計され創設されてきた。その中でも一番発展していると言えるEU排出権取引制度であるEUETSに着目していきたいと思う。

この制度はEU加盟国がバイラテラルに異なる奉納で排出権取引を行うよりも。市場を確立し、EU全加盟国が緊密に連帯した中でマルチラテラルに取引を行うことが産業への影響を最小限に抑えるという考えに立脚している。

EUETSの基本構造

この制度のアクターは国家、企業であり、主にイギリス、ドイツ、ベルギー、オランダなどの電力・エネルギー供給会社が参加している。その他にトレーダーや一部の金融機関も参加している。これらのアクターの中で取引の規模、頻度共に多いトレーダー(主に電力・エネルギー会社や金融機関)の場合はトレーダー同士の相対取引や、取引所取引が日常的に行われており、一次市場を形成している(2000年時点のEU委員会の分析によると、当時のEU加盟国15カ国における2010年の予想排出量のうち、EU排出量取引制度の対象設備による排出量の占める比率は約45パーセントであるが、このうちの3分の2は発電所や熱供給設備起源のものである)。また相対取引の場合は仲介業者を介して行われるケースがほとんどである。このほかのアクターである取引規模も小さく頻度も少ない一般企業は、直接一次市場には参入せず、トレーダーが提供する取引代行サービスを受けるという形で排出権を売買するケースが多く、二次市場を形成している。

EUETSの機能、及び実績

EUETSは2005年の1月1日をもって取引が開始された。実際にこの制度がない場合、京都議定書を順守するためにかかるコストは年間68億ユーロに上るが、EUETSを活用することによって29〜37億ユーロで済むようになるとされている。また、その他のECCPの施策も兼ね合わせると、京都議定書の目標達成に必要な温室効果ガス排出削減量の約2倍にあたる6.64〜7.65億t-CO2/年の削減が、20ユーロ/t-CO2未満のコストで達成され、非常に費用対効果の高い制度になっている。2005年度のEUA(EU Allowance:EUETS参加国圏内で独自に使われている排出量の単位:1EUA=1t-CO2)総取引量は2億6000万t-CO2、取引総額は50億に達した。今後は市場参入が遅れていた東欧諸国も参加するため、取引量は増加していくと考えられている(東欧諸国は温室効果ガス排出削減がしやすいため)。加盟国25カ国の内約80パーセントの19カ国が割当排出量以下に温室効果ガス排出を抑えており、今後排出量の大きな売り手となることが期待される東欧諸国の参入で更なる排出削減が見込まれている。

東アジア排出権取引制度

東アジアにもこのEUの政策をモデルケースとした東アジア排出権取引制度を創設し東アジアに特化したファンドや排出権取引の共同市場を形成していく。ポストイ京都議定書では日本だけではなく、中国、インドのような新興国にも排出量削減義務が課せられる可能性が高い。そもそも2030年には世界の温室効果ガス排出量の半分近くの排出源となる東アジアにおいて、このような効率的なシステムを導入し排出量を削減することは、世界の温室効果ガス排出量削減という観点からも効果が大きいと考える。この制度の構築、活用することにより食料の安定供給を阻害している温暖化リスクの緩和につながるのである。


〜東アジアの農〜

現行の農業政策

そして実際に日本に食料が入ってこなくなる、あるいはその量が激減するような不測の事態に陥った際のセーフティーネットとなる食料自給力の確保であるが、それに対して日本では現在、食料自給率を45パーセントまで上げるという目標のもと品目横断的経営安定政策という政策が採られている。これは2007年から実施段階に移されている経営所得安定対策の一環であり、米政策改革推進対策、農地・水・環境保全向上対策とともに戦後脳性最大の改革と言われている。この政策が今までの政策と明らかに違う点は、財政補填する対象を、大規模農家(経営耕地面積4ha以上)なり集落営農(20ha以上)なり「担い手」に限定し、それを直接支払い(市場価格に農作物の価格を任せ、それにより減った差額を財政により補填するという政策)という手段で救済しようとしたことである。すなわち、農業の大規模化で効率化を図ったのである。

しかしこれでは食料持久力の向上にはつながらないのである。なぜなのか。

そもそも財政補填の対象を「担い手」に限定するということは補填対象の規模縮小を意味し、「非担い手」とされた農家は支援を受けることができなくなり農業人口の減少にも拍車がかかる。これでは日本の食料安保を脆弱にしている耕作放棄地の増加に歯止めをかけることはできないのである。また大規模化により効率化を図るにしても、日本はアメリカやヨーロッパに一農家の平均農用地面積で対抗できない。例えば、アメリカの平均農用地面積は190.4ヘクタール、北海道の11倍、都府県の160倍である。その上耕地の60パーセント以上が中山間地域に属する日本では土地の集積も困難であり、ゾーニングを行ったとしてもこの面積の格差を是正するのは困難だと言わざるを得ない。

そこで穀物輸出国が限られ、輸入国も日中韓などのアジアに集中していることから、東アジアにおいての域内自給を上げることが賢明と考える。日本一カ国で食料安保を担うより、東アジアという広域な範囲で行った方が干ばつなどによるリスクの分散ができ、より安保が強固なものになるからだ。また、中国やインドのような広大な土地がある国は日本でできない大規模農業がかのうであるということからも、域内自給力向上は実現可能である。そして東アジア域内でFTAEPAを締結し国境措置を撤廃あるいは低くすることで農作物の輸出入も円滑化することができる。

自由化が為されれば…

このような自由貿易協定を結ぶと、日本農業の衰退は必至であるが、それでははたして日本での農業は必要ないのかというと、その答えはノーである。農水省は昨年、FTAEPAなどの自由化が為され、国境措置が撤廃された場合、日本農業が被る影響についての試算を出した。

まず国境措置が撤廃された場合、価格の安い外国産農作物が市場に大量流入し、国内農作物の生産を抑え込み、約3兆6千億円、現在の農業の総産出額(8兆5千億円)の約42%に及ぶ国内生産額が減少する。また農産物加工業も打撃を受ける。生産コストの安い外国産加工品が流入し、国産加工品はシェアを失い2兆1千億円の生産額を失う。GDPの減少額は約9兆円に達し、GDP成長率を1.8パーセント押し下げる。この結果として約375万人(国内就業者数の5.5%)分の就業機会が失われることになる。このことにより、都市と地方の格差の拡大にもつながる。工作放棄にも加速がかかり、作付面積は272万ha(耕作地の約60%)減少、食糧自給率も現在の39%から12%まで低下し、食糧自給力は激減すると言わざるを得ない。農地の多面的機能も低下するため、毎年数兆円規模の影響が出ると言われている。

※自由化によって失われる農地の自然災害防止機能
洪水防止安定機能 ・・・ 約2兆3600億円減(67%減)
河川流況安定機能 ・・・ 約1兆3200億円減(90%減)
地下水涵養機能  ・・・ 約500億円減(90%減)
土壌侵食防止機能 ・・・ 約2000億円減(59%減)

それでは日本農業が今後進むべき方向性とはどのようなものなのだろうか。

自由化に対抗するために

このような事態を避けるために、日本では農薬や化学肥料を使わない有機栽培を中心とした高付加価値農作物栽培を促進するべきだと考える。品目横断的政策に基づき、日本で大規模生産を行った際の日本国内産と国外産農作物の価格差は米で1.2倍、小麦で6.2倍、大豆で6.3倍になるのに対し、有機栽培では米は同価格、小麦で1.25倍、大豆で2.8倍と大規模栽培に比べて大幅に価格を抑えることが可能になる。現在食の安全が問題視される中、中国、インドなどの新興国高所得者層を中心に有機農作物に対する需要が高まっているが、経産省及びUFJ総研のデータによると、この高所得者層は両国人口の約1割であり、この二カ国だけでも2億4千万人の市場がある。この二カ国の人口の更なる増加、ASEAN諸国の経済発展により有機農作物の需要はさらに高まることが見込まれる。このような経済的インセンティブを付与することにより、担い手の確保にもつながり、耕作放棄地の増加にも歯止めをかけることができる。これにより関税を自由化しても負けない強い日本農業ができあがり、農地の多面的機能も担保できるのである。


結にかえて・・・

ここまで読んでくださった方は本当にありがとうございました。ご意見、ご感想などがあればお願いいたします。今回は私にとって二回目のコンテンツですが、これからもweb上で発信して行こうと思いますのでこれからもよろしくお願いします!