「非正規雇用者をどうするか」②
法学部1年 津田遼
前回のコンテンツでは、現代の日本社会において、非正規雇用者人口比率が増加しており、これらの人々は1.低賃金、2.不十分な社会保障のため、経済的に不安定な状況のもと生活を送らなければならず、「幸福」を追求する土台にすら立てていない現状の重要性を指摘した。
では、なぜ、非正規雇用者人口比率は増加したのだろうか。この解答を出すためには、まず、このような現象を生じた背景にある現代社会の大きな流れを考える必要がある。
現代社会は「グローバル化」という言葉に表現されるように、ヒト、カネ、モノ、情報が世界規模で活発的に行き交うようになった社会であるといえる。この「グローバル化」により、世界の人々を物理的にも(飛行機の発達など)、精神的にも(異文化に対する理解の促進など)近い存在となった。また、世界規模での分業体制などにより、以前よりも効率的にモノを生産することが可能となり、巨大な富が生じるなど、私たちの生活の可能性は大いに広がった。そして、そのような社会において、企業は仕事の効率性や、収益の拡大を重要視し、それを実現させるために、安価で、かつ容易に増減できる非正規雇用者に対する需要が高まったのである。
また、バブル経済崩壊以降、日本は長期経済停滞の時代に突入し、企業は生き残りをはかるため大規模なリストラを通して人件費の削減を試みた。前回でも記述したように、企業は正規雇用者に対して賃金のみならず、社会保障費をも負担しなければならないため、低賃金で社会保障費を負担する必要がなく、また、景気の動向により比較的簡単に解雇することが可能な非正規雇用者を積極的に使用する傾向が強くなった。
このような非正規雇用者の需要の高まりを反映して、日本経営者団体連盟は、平成7年に『新時代の「日本的経営」―挑戦すべき方向とその具体策―』を発表し、今後は企業を超えた横断的労働市場を発達させ、人材の流動化の促進であるとし、現状規制の緩和によって非正規雇用の可能性の拡大を求めている。
そして、そのような企業側の主張を考慮し、労働法制の規制緩和が行われた。具体的には、有期労働契約の拡大や、労働者派遣法の改正が挙げられる。
有期労働契約とは、使用者が雇用者を一定期間(有期)雇うことを約束する契約であり、非正規雇用者の多くは、この有期労働契約のもと働いている。有期労働契約では、定められた期間が過ぎればその仕事を辞めることができるという雇用者側のメリットもあるが、その一方で、比較的容易に雇用終了(解雇ではない)を行えるという企業側のメリットも大きい。というのは、通常、期間の定めのない契約においては、解雇権乱用法理によって企業側の都合で容易に雇用者を解雇できないが、有期労働契約においては、契約の終了は解雇とはされないので解雇権乱用法理は適用されないからである。
有期労働契約は従来、限られた専門職を対象としていたが、平成15年の労働基準法改正により、適用範囲が拡大され、より広範囲にわたる人材を有期労働雇用者として雇用することが可能となった。
また、労働者派遣法の相次ぐ改正によって、発足時には主に専門的知識・技術・経験を必要とする業務を対象としていた労働者派遣は、港湾運送、毛説、警備、医療一般を除いた、すべての業務で可能となり、派遣労働者数は著しく増加している。例えば、労働者派遣法が改正され施行された年の派遣労働者数の増加率(前年度比)は、平成13年では1.36倍、そして平成16年では1.70倍となっている。派遣労働者の非正規雇用者に占める比率は平成18年7−9月時点で7%にすぎないが、その急激な増加率は非正規雇用者全体の増加率に大きく寄与しているといえる。
以上をまとめると、非正規雇用者人口比率の増加の原因は、1.グローバル化の進行によって激化された国内・国際的な企業間競争を起因とする企業の低コスト労働力への需要の高まり、2.長期経済停滞期における低コストかつ流動性の高い労働力への需要の高まり、そして、3.それに伴う労働法制の規制緩和である。