「嘆きはどこに」

商学部1年 花房勇輝

過酷な競争は、いったいどこで行われているのだろうか。どこの職場で、どこの職種で、どんな雇用形態で・・・。



長時間労働の限度はどのぐらいか>

まずは残業も含めた労働時間の上限、これ以上働いたら危険というのはどのぐらいの労働時間なのかを見てみたい。基本的にはケースバイケースなのだが、それでも全体で見ればある程度の「限界」があることがわかる。


現在、過労死認定における労働時間の長さは、月あたりの残業時間は45時間を超えると健康を超えると健康を害するリスクが高まり、(過労死の原因となった脳・心臓疾患の)発症前1ヶ月に100時間、ないし発症前2〜6ヶ月間で月当たり80時間を超える場合、業務と発症との関連が強いとされている。「月当たり45時間の残業によって業務と発症との関連性が徐々に強くなる」という基準は、医学的見地から検討されたものである。産業医学の権威である和田攻氏もそう述べている。


よって、多くの人にとって健康上のリスクを高める残業時間とは、月当たり45時間ぐらいと考えていいだろう。



長時間労働はどこで起きているのか>

総労働時間から、就業規則等で定められた所定労働時間を越えて働いた労働時間(サービス残業も含む)」を超過労働時間とし、月にどれほどの残業がおきているのかを調べた。


業種では、多い順に、営業・販売で平均45.2時間、同16.6%、研究開発・設計・SEなどの技術系専門職で平均40.6時間、11.2%、現場管理・監督で平均42.2時間、同12.3%、輸送・運転で平均41.5時間、11.5%などが超過労働時間が長い。


勤務先の業種で平均時間が長い順に見ると、卸売・小売業で平均40時間、同12.7%、建設業で平均37.9時間、同10.5%、製造業で平均37.3時間、同7.3%サービス業で平均36.7時間、同11.6%などが相対的に長い。


勤務時間制度では、通常の勤務時間制度の平均34.4時間であるのに対し、裁量労働制・みなし労働では49時間、時間管理なしで56.8時間となっている。80時間以上の比率は裁量労働制・みなし労働で29.4%、時間管理なしでは25.6%と、なっている。


なお、これらの超過労働時間の傾向は総労働時間とほぼ同じである。


このように、より多くの人にとって健康上のリスクを高める残業時間である月当たり約45時間以上を上回っている人を含む割合が高い職種・業種は主に、営業・販売、技術系専門職、現場監督(管理職、さらには裁量労働制)、輸送・運転、卸売・小売、金融・保険・不動産、事務系専門職、であることが導き出された。




<なぜ残業するのか>

では、その代表的な職種・業種について残業する要因をさぐっていくことで、長時間労働の要因の主なパターンを見出し、より多くの業種・職種について整合性のあった解決の方向性を模索していきたい。



残業がある人だけを対象に、その理由を12個の選択肢から3つまでの条件付きで選んでもらった調査結果(労働政策研究研修機構による)がある。


一番の理由である「業務が多い」については、職種の違いが明確になった。これを選択した人の比率を高い順に示すと、研究開発・設計・SEなどの技術系専門職(75.8%)医療・教育関係の専門職(69.3%)調査分析・特許法務などの事務系専門職(66.7%)となった。これらの職種は「専門職」として括ることができるから、いわゆる専門職は業務量が多いために残業をするということになる。また勤務時間制度では、裁量労働制・みなし労働の回答比率がもっとも高く、75.9%となった。裁量労働制は専門職に特に多い勤務時間制度である。


裁量労働制とは、労働時間の制約を受けず、業績に応じて給与が算定され支払われる形態の労働形態をとる職種に対して適用される制度のこと。労働時間と業績が必ずしも連動しない職種においてこの制度が適用される。


残業理由で「業務量が多い」を選択した人を全体的に見て、最も強く感じているストレス項目は「仕事量が多い」だが、これはある種の同義反復である。また「働く時間が長い」もほぼ同様だ。しかし重要なことは、残業の原因が業務量の多さにあると考えている人は、仕事量でも働く時間でもストレスを強く感じているということなのだ。



第2位の「自分の仕事」は、業種では、総務・人事・経理(53.8%)、医療・教育関係の専門職(48.2%)一般事務・受付・秘書(45.7%)、営業・販売(44.9%)、研究開発・設計・SEなどの技術系専門職(41.6%)が多い。

「業務量が多い」に比べ、「自分の仕事」では業種で相違が見られる。「業務量が多い」ではその特徴が専門職に集中していたのに対して、「自分の仕事」では、総務・人事・経理や一般事務・受付・秘書などのいわゆるホワイト・カラー全般で相対的な回答比率が高い。これはこれらのホワイトカラー層の業務量が少ないわけではなく、あくまでの相対的には専門職よりも「自分の仕事だからきちんと仕上げたい」とより強く思う傾向があると解釈できる。



また、「業務量が多い」と「自分の仕事」との対比で見ると、明らかなことがある。それは、残業理由に「業務量が多い」を選択した人は、さまざまなストレス項目において強く感じることが多いのに対し、「自分の仕事」を選択した人は、ほぼその正反対になるということだ。これは会社や仕事の都合で残業せざるを得ない人のストレスの強さと、ある程度納得して、あるいは自らすすんで残業している人の「精神的健康さ」(と一概に言い切れるかどうかはわからないが)があることを示しているといえる。



第三位の「仕事の性格」と回答した職種別に回答比率の高さを見ると、現場管理・監督(45.7%)、医療・教育関係の専門職(43.1%)、営業・販売(42.9%)などが高かった。そのほか勤務先の業種別ではサービス業(47.4%)、電気・ガス・水道・熱供給業(47.1%)が他の業種よりも高かった。顧客の要望に応じてそれを優先させて活動するために、所定労働時間外になっていることが多いという。



第四位の人手不足は、職種と業種に特徴が見られた。職種全体の平均は27.1%だが、接客サービスでは50%とちょうど半数の人が回答しており、他のどの職種よりも高かった。また一般事務・受付・秘書(37.1%)、輸送・運転(34.7%)も接客サービスについで回答比率が高かった。


さらに人手不足は、勤務先の業種によって相違がある。回答比率がもっとも低い電気・ガス・水道・熱供給業(11.8%に比べて、運輸業(36%)金融・保険業・不動産業(35%)などは高かった。このように商品の物流や接客サービスといった分野における人手不足は、それらの職種や業種で働く人々の残業を増やす原因になっている。



以上の考察によって、前に見た長時間労働の割合が高い職種別の残業理由がわかった。

すなわち、技術系・事務系専門職(裁量労働制)については「業務が多い」ことが原因である。

現場監督(管理職)、営業・販売に関しては「仕事の性格」が原因である。前者は、多くの場合、裁量労働制が採用されている影響であろう。後者に関しては、顧客の要望に応じてそれを優先させて活動するために、所定労働時間外になっていることが多いという現状があり、実際の超過労働時間は少なめであることがわかる。

また、運輸や金融・保険・不動産といった系統については「人手不足」が原因であることがわかった。



次回では、それぞれについてよりくわしい現状分析と、その解決のための政策提言を行う。