「現代の食糧情勢を考える」②

法学部1年 小倉勇磨

では具体的にはどのように需給逼迫等、食糧安全保障上にリスクが発生しているのでしょうか。それぞれ見ていきましょう。

需給逼迫リスク

日本の食糧安全保障に対して、現在大きなリスクが発生しているが、そのリスクとは、一次的には食糧価格の高騰、そして二次的には食糧供給の不安定化である。そのリスクが発生しているのは期末在庫率の変化に見て取れる。これによると需要が供給を上回っているため、年々期末在庫率が低下していることが見て取れる。期末在庫率は17%が安全ラインといわれているが、これを見ると15%と、安全ラインを下回っていることがわかる。

そして、この需給逼迫の原因は、さまざまなものがあるが、需要増に関して言えば、①人口爆発②食生活の変化③バイオエタノール。供給減に関して言えば①単収の伸び率の低下等が挙げられる。


ではこれらのリスクを見ていきましょう。


1、人口爆発

現在、国内では少子高齢化社会といわれ、我が国の人口は着実に減少しつつあるものの、国際社会においては発展途上国を中心に人口は急激に増加しつつある。まさに人口爆発と呼ぶにふさわしい。

中国は現在の13億人程度の人口が2050年に至るまで安定的に推移し、インドはその中国と比べると現在の11億人から2050年にはおよそ16億人にまで増加することが見込まれている。

そして国際社会全体では現在のおよそ64億人から2050年には、なんと90億人にまで増加すると見込まれているのである。


つまり人口が爆発的に増える→食糧需要も爆発的に増える、というわけです。しかしそれだけではありません。

2、食生活の変化

食生活には大きく分けて2つのパターンがある。それはアジア型食料消費パターンと西欧型食料消費パターンである。

一般的にはアジア型は途上国に多く見られるような、穀物・イモ類を中心とした食料消費パターンであり、西欧型は先進国に多く見られるような肉類、乳製品を多く摂取する消費パターンである。だが、先進国の中でも、日本や韓国、香港のようにたんぱく質源として魚介類を多く摂取するパターンがある。つまり、食糧消費パターンにはアジア型・西欧型、東アジア型の3パターンがあるということである。


食生活変化の4パターン

地域・民族・国を問わず食生活は経済成長を経て以下のように4段階に変化する。

第一段階(白色革命)

主食の中で、イモ・雑穀類等、色がついた穀物の割合が減り、米・小麦等の白い穀物の割合が増加する。

第二段階

主食の量が減り、副食(肉・卵・魚介類・脂)比率が増加する

第三段階

副食のうち動物性タンパク食品とアルコール飲料の割合が増加する。

第四段階

食の簡便化の浸透。レトルト食品・外食・惣菜の増加や伝統食品の高級化、グルメ化が進む。


つまり、経済成長によってアジア諸国において食生活の変化が4段階を経て行われるということである。西欧型にせよ東アジア型にせよ、食生活の変化によって人々は肉を多く食べるようになるが一般的に肉1キロを作るには飼料用穀物が平均7キロ必要とされている。すなわち肉を食べれば、その分穀物消費は爆発的に伸びることになるのである。


中国では肉類・乳製品の食生活に占める割合が飛躍的に増加しており、このことは間接的に穀物を消費する量が爆発的に増えているということをあらわす。また、食用穀物の割合も増加しているが、これは国内格差等の要因により穀物消費がいまだに飽和状態に達していないからであると考えられる。事実中国における都市と農村の所得格差は非常に大きく、05年においては都市10,748元に対し農村3,172元と約3倍の開きがある。 


人口増のみならず、経済成長による肉食化によっても需要は爆発的に増えているのです。次に地球温暖化と絡めて食料需要急増の原因となっているものを見てみましょう。

バイオエタノール


近年、温暖化防止の為に、バイオ燃料が注目されている。問題はバイオ燃料がトウモロコシやサトウキビなどの食料によって作られているということである。
このバイオ燃料に対する関心が最も高いのが米国であると言えるが、この意識は2007年にブッシュ大統領が行なった一般教書演説に良く表れている。その内容は、①エタノールなど代替燃料の利用拡大:エタノール生産を05年35→2012年75→2017年350億ガロンにガソリン量に対して20パーセントのエタノールを混入する事で大幅に拡大し、ガソリンの消費量を15パーセント削減する、というものである。(エタノール100ガロンを生産するにはトウモロコシ35ブッシェルが必要であり、目標の350億ガロンを達成するには3、5億ブッシェルのトウモロコシが必要となる。これは2007年度のトウモロコシ生産量の約3パーセントにあたり、2007年度の総輸出量の14パーセントにあたる)


日本は食糧自給率が低く、ほとんどを海外からの供給に頼っています。バイオエタノールの生産が増えることで、日本への輸出に回される穀物の量が減ってしまうのです。
では次に供給の問題についてみていきましょう。


単収の伸び率の低下

単収が持続的に伸びる一方で耕地面積が縮小している。それはなぜか。耕地面積が縮小傾向にあるのは、先述したような地球温暖化や経済成長がその背後にあると考えられる。地球温暖化に関しては、中国等で進行している砂漠化などが挙げられる。農作物の育たなくなった土地は放棄され、不耕作地と化してしまう。また経済成長が進むと、一般的には工業化が進むことから、途上国において農地が工場を建てるために利用されるために耕地面積が減ったと考えられる。

以前の70年代の食糧危機時が騒がれた時代には、結局食糧危機が現実のものとなることはありませんでした。その当時は単収が増える需要分をまかなっていたのです。しかし今は単収が伸び悩んでおり、結果として需給が逼迫してしまっているのです。


では次にこの脆弱になった食糧市場で、食糧価格が高騰する要因を見ていきます。


価格上昇

価格が伸びているのは、需給逼迫のみが原因ではない。この背景には、石油価格の上昇、投機マネー流入もあると考えられる。実際にエネルギー資源価格の上昇と食料価格は連動している。また、食糧市場に投機マネーが流入している原因としては、年来米国で表面化し金融不安と景気悪化をもたらしているサブプライムローン(信用力の低い個人向け住宅ローン)問題によって、投資家が資金を金融市場から商品市場へとシフトさせているからと考えられる。


サブプライムローン問題がおきたことで、マネーが流入する対象が証券市場から商品市場へ変わってきたんですね。実際には食糧市場のみではなく金や石油にかなりの金額の投機マネーが流入しています。石油の値上がりの原因は他に需要増等も挙げられますが、最大の要因は実は投機マネーの流入であるとも言われています。

では次に脆弱になった食糧市場が外的要因、すなわち地球温暖化による影響によって一気に供給不安に陥る可能性があることを見ていきます。

地球温暖化インパク

食糧市場が脆弱化した状態では、何らかのリスクが生じた場合、そのことが供給不安に直結する可能性が高い。その典型が地球温暖化である。

近年アメリカをはじめとする世界の主要穀物産地において干ばつ、多雨、洪水、台風、ハリケーン等の異常気象が頻発している。特にエルニーニョ現象(東太平洋赤道上で海水の温度が上昇する現象)の翌年には異常気象が発生する可能性が高い。しかも近年、エルニーニョ現象も以前に比べ頻発するようになっているのである。実際に70年代までは4〜5年に一回程度しか発生しなかったエルニーニョ現象が、80年代以降頻発している。1997年には史上最大規模のエルニーニョが発生した。実際にこのときには世界中で農産物に対しさまざまな影響を与えている。たとえば中国では干ばつによってトウモロコシの生産が前年比で約2割程度落ち込みインドネシアでは米生産が落ち込んだ。(このときには通貨危機も重なったため米価格の高騰から、米商人に対する焼き討ちなどにも発展し、大きな社会不安を引き起こした。)また、ハリケーンが近年急増している(2005年に発生したハリケーンは10個と、例年に比べると2倍もの数であった)こともエルニーニョの影響が強いと考えられている。
そして異常気象以外の温暖化による食料生産への影響だが、これについてはワールドウォッチ研究所によって気温が一度上がるごとに収量が約10パーセント減少することが証明されている。
これらのことを鑑みても、温暖化が食料供給に与える影響は膨大であると言えるだろう。


ここまでで日本の食糧安全保障に大きなリスクが生じていることが明らかになったと思います。では次に日本の農業が抱える、大きな構造的問題点について考察しましょう。日本農業の構造的問題点は、担い手と耕作放棄地問題であると考えます。ではまず担い手問題です。


担い手問題

日本農業の大きな問題点の一つが、担い手問題である。現在日本は少子高齢化にあるが、この影響は当然農村にまで響いている。現在の農業従事者335万人に占める高齢者の割合はおよそ192万3千人と全体の58%も占めていることのである。従って、新たな担い手の育成を進める必要がある。

また、新規の就農者を年齢別に見てみると17年度の新規就農者に占める高齢者の割合は、7,9万人のうち65歳以上が1,9万人、60〜64歳までが2,1万人と60歳以上の高齢者で半数以上を占めており、39歳以下の人が新規就農者に占める割合は1,2万人に過ぎない。


今後ますます農業の担い手は減り続けると考えられます。次は耕作放棄地です。


耕作放棄

現在、全国にはおよそ38万6千haもの耕作放棄地が存在している。そしてこの数値が全国の耕作地全体占める割合は9,7%であり、この面積は埼玉県の面積に匹敵する。


現在耕作放棄地は増加し続けており、今後ますます増加していくと考えられます。ではこれら2つの構造的問題点を解決した上で、日本農業がこの先生き残っていくためには、どのようなグランドデザインを描くべきでしょうか。



現在の日本農業の方向性

日本の農業の方向性は、品目横断的経営安定対策にもあらわれているように、支援を意欲、能力のある農家に集中することで、農地を集積し、外国産の農作物と国産農作物の価格差を埋めることを目的とした政策である。この政策では支援の対象を認定農業者は4ha以上(北海道は10ha)、集落営農組織では20ha以上有する農家に限定している。(最近ではこの方向性を若干修正し地域の実情に合わせた特例措置を取ることなどが決められた)


しかしこの方向性には問題があると考えられます。


確かに経営の効率化のために農地を集積することは必要である。しかし、日本は国土面積が狭く、集積が難しい中山間地域が60%を占めることからこのような方向性には限界があると言わざるをえない。故に大規模化という方向性に加え、「狭い面積においても競争力をつけていく」という方向性が必要となる。そのために必要なのが、農作物の高付加価値化やコスト削減によって外国産作物との「棲み分け」を行うことである。

確かに品目横断的経営安定対策で国外と国内農産物の価格差は縮まるといわれていますが、地理的要因を考えるとそもそも大規模化を行うことが難しいのが現状です。そのため有機栽培等をもっと奨励したり流通面などでのコスト削減を行っていくことが必要となるのです。


現状がどうなっているのか、分析はここまでです。では次の回で先に述べた日本農業の構造的問題点を解決し、競争力をつけていくための政策を提言させていただきたいと思います。