『アフリカ救済へのシナリオ 第2段〜暗黒の大地から飛び立て〜』政治経済学部1年 徳本進之介

第2段〜暗黒の大地から飛び立て〜

http://terra-jp.net/mt/archives/africa.php?page=a

前回はアフリカの飢餓問題の現状を分析しました。本コンテンツでは、最大の問題である農民の所得の低迷を解決し、飢餓を解消する政策を提言していきます。

1. サブサハラ・アフリカの実質経済成長率と人工増加率
まずサブサハラ・アフリカ地域の成長奇跡を見てみよう。この図から分かるように、サブサハラ・アフリカ経済に成長の兆しがみられていた幾度かの時期も、翌年には成長率が低下しています。この低時期は、アフリカを自然災害が襲った時期と合致する。つまりアフリカ経済は気候が安定しているときに成長し、気候が乱れた時に低落してきたといえます。サバサハラ・アフリカの経済成長率が人口増加率の下方で上昇トレンドに乗らず変動を繰り返し、それが天候に支配される不安定な農業に起因していることが分かります

図1 サブサハラ・アフリカの実質経済成長率と人工増加率 (平野克己氏作成のデータから作成 縦軸単位は%) 
人口増加が原因だという人もいますが、その論は的を得ていません。なぜならば、もともと人口希少なアフリカにおいて人間の労働力は富の源泉であり、前世代と今世代とで労働の生産性が変わらなければ、人口が増えた分だけ生産も増加するはずだからです。したがって問題は新しい労働投入を比例的な生産増加につなげることができない経済の構造にあると考えられます。つまり、サブサハラ・アフリカ経済には労働という生産要素の投入増加が生産性を押し下げてしまう現象、すなわち「収穫逓減」が一番の原因だと考えられます。


図2 農業就業比率(FAO2008のデータから作成 縦軸単位は%)



図3 サブサハラ・アフリカにおける農業就業比率 (FAOのデータから作成)

上図二つからも分かるように、アフリカでは、総労働力の60%が農業部門に従事しています。農業従事者の割合が80%を超える国もいくつか存在しています。鉱業によって高成長を享受しているボツワナ赤道ギニアにおいても農業就業比率はそれぞれ43%と68%に達しており、大多数の人々の生活は農業によって支えられているのです。もし農民の所得水準に改善がなければ、高成長によっても貧富格差が拡大するだけで貧困問題は解消されないことになります。またアフリカにおける飢餓問題の80%は都会から離れた小農家でおきていることを踏まえると、アフリカの飢餓を軽減するためにはまず、農民の所得向上が図られなくてはならず、その施策なくしては根本的には解決しないということがわかります。


図4 各開発途上国地域における穀物の土地生産性(平野克己氏作成データ、FAOより作成 縦軸単位はkg/ha)


図5 穀物農民の一人あたりの生産量(平野克己氏作成データ、FAOより作成 縦軸単位はkg)


図6 農業生産額増産農業部門援助がODA総額に占める割合(平野克己氏作成データ、FAOより作成 縦軸単位は%)



図7 アフリカの穀物輸入量推移(FAOのデータを基に作成 縦軸単位は100万トン)

まず図4、図6を見てみましょう。図4ではアフリカの土地生産性が他の地域と比べて格段に劣っているのが分かります。この最も大きな原因としてあげられるのが、機械、農道整備の不十分さです。アフリカでの道路舗装率はわずかに18%と低く、整備された道路に出るまでに農家から1日歩き続けなくてはならないというデータがあります。また、アフリカの農家の90%もの人々が、トラクター等の農耕機械を使えていないという現状があります。このような農耕機械・道路整備を含め、自発的な農業生産を可能にするには、NEPAD ACTION PLANによると1.5兆円掛かります。この金額をODAで賄うことを提案します。この際、ODA増額するのではなく、図6にあるように農業部門への援助の割合を15%とすることを提案いたします。この案だとここ10年間で自発的な農業生産が可能になります。



図8 サブサハラ・アフリカにおける1人当たりの穀物アクセス(FAO、平野克己氏作成データから作成 縦軸単位はkg)
たしかに食糧援助は、自然災害、飢饉などの危機に対して、国際社会が素早く対応できる数少ない援助の形です。
しかし、この食糧援助には、弱点、欠点があるのです。食糧援助は、とりあえず犠牲者や被害者を緊急措置として救済するというものだ。緊急措置として仕方がない部分もあるが、食糧援助は、地元の人々の自発的な努力を土台から切り崩してしまうことです。自分の力で努力しようとしないで、外からの助けをひたすら待つようになると、持続的で自立的な開発のきっかけは生まれにくくなる。食糧援助はあくまでも緊急措置といえる。半永久的に継続される食糧援助などなありません。それは問題を一時先延ばしにするだけの便法にすぎないのだと言えます。食糧穀物の生産が人口増加率に追いつかなったサブサハラ・アフリカは、輸入増加と食糧援助によって一人当たり消費を増やしてきた。そのことを表したのが、図8です。一人当たり生産量の近似線が下降しているのに、輸入と援助を加えた消費量の近似線は上昇しています。つまり、アフリカの食糧自給力が一貫して下がっていく一方で、先進国はアフリカ人の食生活を支えるため食糧援助を続けなければいけないということが分かるのです。
ジュフリ―・サックスが「人々が…徹底的に困窮しているとき、彼らにはただ生き延びるために十分な、またはそれ以上の所得が必要だ。所得は生き延びるのにギリギリで、将来のために投資する余裕などない。これが、貧しい中でも最も貧しい国は、低いあるいはマイナスの経済成長率という罠に最も落ち込みやすいことの、主な理由だ。彼らは貧しすぎて将来のために貯金できず、したがって現在の窮状から彼らを救い出すための資本を蓄積できない(Sachs2005,pp.56-57)十分な、またはそれ以上の所得が必要だ。」多額の援助流入によるビッグ・プッシュがあれば、貧困国を抜け出させることが出来ると思われていた。
つまり、先進国側からの援助が増えれば増えるほど、途上国の問題が解決するという考えがあったのです。しかし、途上国で経済規模と比べた援助受入額が少ないほうから数えて4分の1に入る国は、どれもみな順調な経済成長を達成しており、過去40年間に所得は平均して2.5倍になっていることを考えると、この考えは妥当性を失うことがよくわかる。図5,7,8を統合して考えると、食糧援助、安価な輸入品に押されての地元農家の生産性が阻害されているということが分かります。
ここで先ほどの考えを止揚させた、もうひとつの提言として、アフリカの農作物における価格補償があります。政府が農作物の価格を保証することで、図5,7、8のように安価な輸入品、食糧援助に押され、生産性が低下することを防ぐのです。この政策により食糧援助がおこなわれても現地の農民の生産性が損なわれずに済むのです。


本コンテンツで得られた結果を踏まえて、次回からの研究にも励んでいきたいと思います。

参考文献

傲慢な援助  ウィリアム・イースタリ― 2009年 東洋経済新報社
国際協力機構年報2008 2008年   国際協力機構発行
食料の世界地図 エリック・ミルストーン 2005年 丸善株式会社
世界に格差をバラ撒いたグローバリズムを正す ジョセフ・E・スティグリッツ 2006年徳間書店 
国際援助の限界 ベルトラン・シュナイダ― 1996年 朝日新聞社
アフリカ問題 開発と援助の世界史 平野克己 2009年 日本評論社