食と農

文化構想学部1年 室崎雄志
第二章に当たる本章では、主に日本を取り巻く食糧事情についての現状分析を行っていきたい。
まずは世界で起きており(または起こりうるとされており)日本に多大なる影響を及ぼす食糧危機の可能性を記す。

〜食糧危機〜
世界の穀物市場では、2000年を境に供給過剰から供給不足へと需給構造の転換が進んでいる。「旺盛な需要に供給が追い付かず、結果として世界の穀物在庫が取り崩されている」のである。この背景には?発展途上国を中心に過去一貫して続いている世界人口の増加 ?中国をはじめとするアジアの経済発展・所得増加に伴う食糧消費の多様化、?耕地面積の頭打ちや地球温暖化問題など供給面での制約的要因の強まり、といった要素があげられる。

1.に関しては、05年に国連が発表した「世界人口推計2004」によると、世界の人口は05年の64,6億人から20年には75億人となり、50年には90億人を突破するとされている。

2.に関しては、一般に穀物一キロを直接消費するのに対して、これを肉類一キロの形で間接消費する場合、平均7キロの穀物が飼料用として必要になる。すなわち肉を食べるようになることによって、穀物消費量は飛躍的に増えるのである。こうした穀物消費も「量から質への転換」がドラスティックに進むのは、経済成長により一人当たり所得が、年間一千〜五千ドルの中所得国に達した時期といわれる。現在ASEAN諸国はじめ、中国、インドの一部がこの水準に入りつつある。FAO(国際連合食料農業機関)の試算によると、世界の穀物消費量は現在の20億トン前後から20年後に25億トン、50年後に30億トンに拡大するとみられている。

3. これに対して供給はというと、異常気象による生産量低下(地球温暖化に伴うハリケーンエルニーニョ現象、干ばつ、害虫被害の増加)の他に、世界の耕作地面積は60年代より14億ヘクタール台で頭打ち傾向にある。そして、工業化に伴う農地の工業用地への転換、砂漠化・塩害に伴う不耕作地の増加によって耕作地面積は減少傾向にある。このため、食料増産は耕地面積の拡大によって果たすことは難しく、単収(単位面積当たり収穫)アップに依存せざるを得ない。穀物の単収は60年代前半の平均1,35トン/ヘクタールから90年代後半の2,67トン/ヘクタールまで着実に増加している。しかし、問題は70年代まで毎年3パーセント台で伸びていた単収が、肥沃な農地の減少などにより、80年代に2パーセント前後、90年代に入ってからは1パーセント前半まで低下していることである。
こうしてみると、世界の食糧供給は楽観できるものではないことがわかる。前章でも触れたが、日本が食糧を海外に依存しきる危険性を理解していただけただろうか。

〜日本への影響〜
 以上において、現在世界が直面している食糧問題に関して言及した。ここからはこういった世界の情勢が日本に影響を及ぼすのかを日本の現状を分析しながら明らかにしていく。
前章でも記したが、日本の自給率は先進国で最低である。そして、日本以外の主要先進国が長期的、傾向的に食糧自給率を向上させているのに対して、日本は長期下落が続いている。先にみたように、以前にもまして世界中で食糧不足の可能性が指摘されているなか、日本はこれまでのように食糧を得ることができなくなるというリスクが高まっている。よって、自給率の向上が必要となってくるのである。
ここで我が国の農業の現状を分析したい。そもそも、我が国の農業が衰退し、自給率が下がってしまった原因はなんなのだろうか。まず、農業就労人口を見てみよう。1985年には600万人以上いた農業就業者が、2003年には350万人程度まで激減している。(農林水産省統計より)そして、2003年時には農業就業人口に占める65歳以上の人の割合は53%を超えている。(さらに、2008年現在では65歳以上の農業就業人口は全体の60%を超えているというデータもあり、単純に考えてあと20年もすれば現在農業に関わっている人の60%弱が農業からリタイアしていることになる。当然自給率も低下するだろう。)これは、少子高齢化の影響もあるが、それ以上にそもそも農業に若年層が就労しないという問題がある。この「担い手不足」が起きている原因、それは農業の所得の低さにあるといえる。一般的なサラリーマンの年収が500万円といわれる中、年収200万円前後の農家が数多く存在するからだ。
 また、農業人口の減少に伴い、耕作放棄地(所有している耕地のうち、過去1年以上作付けせず、しかもこの数年の間に再び作付けする考えのない耕地の面積をいう。転作のため休耕している耕地で、今後作付けする考えのある耕地は含まない。)は増え続けており、2005年には全耕作地の10%以上を占めるまでになっている。つまり、畑として使える土地があるのに、その土地を有効活用できていないのだ。そして、農業人口の高齢化、担い手不足に伴い、耕作放棄地も今後増加することが予想されている。
食糧生産を行う人や土地が減っていっている現状を鑑みると、今後日本の自給率は更なる低下が避けられなくなっている、と言えるだろう。

以上のように、日本農業の衰退は「人材」の不足、「土地」の活用がうまくいっていないことが大きな原因である。最終章に当たる次章では、本章を踏まえた上で、この2つの問題点を解決する政策を打ち出していきたい。