命と食

文化構想学部1年 室崎雄志

『食の快楽はあらゆる年齢、あらゆる身分、あらゆる国、あらゆる日々に共通である。それらはあらゆる他の快楽と結びつくことができ、それらを失ったのちにも、われわれを慰めてくれる最後のものである』
――ブリア=サヴァラン(フランスの政治家・美食家)――

 「食は命の源」とよく言われるとおり、私たちは生きるために食事をとっています。また、それと同時に食に楽しみを見出しています。上のサヴァランの言は、人の感じるあらゆる快楽や苦痛は、食の上に成り立っている、と解釈することができるのではないでしょうか。
 このように我々の生の基本とも言える食ですが、私たちの住むこの日本における食糧の生産事情はけっして良いとは言えません。

 日本の食料自給率は40%といわれています。この数値は、食糧が生命と健康の維持に欠くことのできない最も基礎的で重要な物資であることから、その基礎的な栄養価であるエネルギー(カロリー)が国産でどれくらい確保できているかという点に着目して示された、「カロリーベース」で示した値です。しかし、この値には自給率が過剰に表れているといわれています。というのも、ここには国内で生産される畜産物が含まれるからです。生産された畜産物は高カロリーのため、カロリーベースの自給率を押し上げます。実際、日本の自給率穀物自給率で換算すると、30%を下回るといわれています。各国の穀物自給率と比較すると、アメリカ―128%、フランス―142%、ドイツ―122%、イギリス―70%、と日本は先進各国と比較してもずば抜けて低いことがわかります。

こういった現状を踏まえ、最近このような食に関するニュースが報道されたのをご存知でしょうか。

「東急ストアとメーカー4社、ポイント制試行 自給率アップへ国産食品PR」(2月6日)
東急ストアとキューピー、ハウス食品マルハニチロ食品ミツカンの4社は、国産食品を購入した消費者を対象に、ポイントを付与し、点数に応じて抽選で商品券や旅行券などと交換できる制度の試行実験を行うと発表しました。これは、ポイント制の導入で国産食品の消費を後押しし、低迷する日本の食料自給率の向上につながることを期待して行う制度だそうです。
 
 このような食料自給率の低さを解消するための制度は、上の例以外にも、現在いくつも行われています。では一体、自給率を高めることにはどういったメリットがあるのでしょうか。
一つには安全性の面があげられます。外国産食品の農薬残留問題などが取り上げられる中、産地がはっきりしており、管理がしっかりされている国産食品は比較的安全といえるでしょう。しかしながら、我々にとってのさらに大きなメリットは食糧の安定確保という側面です。食糧の多くを海外に依存している現状では、食糧輸出大国(アメリカ、オーストラリア、ブラジルなど)からの輸入が途絶えると食糧確保がとたんに困難になります。我々が生きていくのに必要不可欠な食糧を安定して確保するためにも、自給率は向上させなければならないのです。
そしてさらに、自給率を向上させることは「日本経済」にとっても大きなメリットとなるのです。日本は各国とFTA自由貿易協定。物品の関税、その他の制限的な通商規則、サービス貿易等の障壁など、通商上の障壁を取り除く自由貿易地域の結成を目的とした、2国間以上の国際協定)やEPA(経済連携協定FTAと異なり、ただ単に関税を撤廃するなど、通商上の障壁を取り除くだけでなく、締約国間で経済取引の円滑化、経済制度の調和並びに、サービス、投資、電子商取引等、さまざまな経済領域での連携強化・協力の促進等をも含めたものを言う。) を締結するための交渉を進めていますが、この交渉の障害となっているのが日本の食料自給率の低さなのです。例えば、安部政権下で開始されたオーストラリアとのFTA交渉で、オーストラリアは日本に対して食糧に対する関税の撤廃を要求しました。食糧輸出国であるオーストラリアに対して関税を撤廃した場合、日本農業は壊滅的な打撃を受け、自給率はさらに低下することになります。結果としてそのような危険性を避けるために、政府はオーストラリアとのFTA締結を見送りました。貿易国である日本がFTAを結ぶメリットは非常に大きいものの、自給率の低さゆえに、貿易をするにあたって有利な協定を締結できていない現状が確かにあるのです。逆に、自給率が高い水準となれば、貿易協定を結ぶことによって、さらなる経済的な成長も期待できるのです。

ここまでごくごく簡単に日本の食糧自給率について記してきました。本コンテンツ「糧〜命の源〜」では日本農業の復興によって、命の源であり、人間のあらゆる苦楽の礎ともいえる「食」を、我々が安定して確保できるようにすることを目的として、次回以降現在の食糧事情の現状分析、自給率上昇に向けての政策を提言していきます。