安心と希望vol.1

商学部2年 花房勇輝
若い頃には一生懸命に働いて、今では年金暮らし。または近いうちに年金暮らしをはじめる・・・。

このようなお年寄り方の中には「今までせっかく頑張ってきたのだから、これからは年金を使って悠々自適に暮らしていきたい」と考えておられる方も多いはずだ。しかし、残念なことに、この「年金」という制度。安心ばかりもしていられない。

「派遣切り」や正社員の早期退職が増え続けるなかで、自営業者や学生などが加入する国民年金制度に「崩壊」の危機が迫っている。国民年金の納付率が2008年10月末時点で59.4%と、60%を割り込む一方で、失業して国民年金に加入するものの、保険料が払えない人が急増しているからだ。加入者が増えているのに保険料が入ってこないのだから、このままでは年金原資そのものが枯渇しかねない。
加入者が増えた背景には、失業とワーキングプアに代表される非正規雇用がある。失業してしまった人や非正規雇用といった不安定な就労条件で働く人が、本来の厚生年金に加入できず、国民年金に流れてきたのだ。

現在、国民年金の加入者は約2035万人(08年3月末、第1号被保険者)。このうち、失業などの理由によって保険料を全額免除してもらっている人は202万人、一部免除者は54万人に上る。そして、今日叫ばれている世界的な経済危機の影響で、今後さらに免除者は増えていくことが予想される。まさに、年金制度は崩壊の危機にあるのだ。


ここで少し話を変えたい。
みなさんは、まだ働ける若者が生活保護に加入することをどのように考えるだろうか。
「まだ働けるんだから、生活保護に頼ったりしないで自分で努力するべきだ」
「まだ働けるのに、生活保護に頼ったりするのは甘えている証拠だ」と考える方も多いのではないだろうか。

昨今の「派遣村」報道を見ていても、世論の大半はなぜか彼らに批判的だ。
「自分の力で仕事を見つけようともせず、国民の金で飯を食おうとしている」
「こうなってしまったのも自業自得だ」というように。
このような世論状況の中で、彼らがさらに「生活保護を受けたい」と言い出したら、世論はおそらく非難することだろう。

実際に、生活保護を申請しても実際に制度が適用されないのは圧倒的に若者だ。
実際に世代別の受給数の推移を見てみると、60代以上の利用者の数は、1981年以降、ほとんど横ばいであり、1990年代半ばからゆるやかに上昇し続けている。このことから高齢者が窓口段階で排除されることは少なくなったことが理解できる。一方で、働ける世代である20代から50代までの利用者は1985年ごろから大きくその数を減らしている。原因のひとつとして高度経済成長による雇用環境の改善があげられる。しかし窓口での相談段階で、働くことができる、あるいは親族の援助が受けられる若者を厳しく選別していったことも否定できない。このように水際作戦はもっぱら若者を中心に展開されたのだ。マスメディアで報道されている(高齢者がターゲットであるような報道)内容とは差異があるのだ。

生活保護を若者が申請しても適用されない理由。それは彼らが「働ける」ことである。
しかし「働ける」からといって、「生活保護を申請するのは甘えている」というのは適切ではない。夫からの暴力(DV)に耐えかねて離婚を考えているが、離婚しては生活設計が難しい妻子はどうだろうか。失業を期にうつ状態となり、通院を続けながら社会復帰を目指す人はどうだろうか。こうした人にとっては、生活保護を受けながら、定職について社会復帰を目指すことが必要だ。
このように、「まだ働ける若者」だからといって、「生活保護を受けるべきではない」とは一概には言えないのだ。


私がここで生活保護の話題を出したのは、先ほどの年金の問題と非常に関連しているからだ。
先ほど、年金制度に加入するものの保険料が払えない人が急増していると言ったが、その原因はなんだっただろうか。そう、失業とワーキングプアに代表される非正規雇用である。どちらも「まだ働ける」人に多い問題である。

ここで私が言いたいのは、失業者や非正規雇用者が自分の力でその状態を脱するのが難しい場合に、生活保護を利用してその生活を立て直す、ということだ。そうすることで、年金保険料をしっかりと支払える人が多くなり、ひいては年金制度の崩壊を食い止める一助となることができるのだ。

逆に言えば、ワーキングプアの多くは非正社員であり、厚生年金には加入できないことも少なくない。国民年金に加入して、すべての加入機関に保険料を納付しても、受け取れる年金額は年額79万2100円であり、月額に直せば6万6008円にすぎない。国民年金の未納者が約27万人おり、2004年の最終納付率は68.2%にとどまっている。無年金、あるいは定額の国民保険しか収入のない高齢者を救うには、最終的には生活保護しかない。このようになれば、将来的には年金制度にさらなる打撃を与えてしまうのだ。


このように「まだ働ける人が生活保護を受けるべきではない」と考えている人も、年金という制度からこの問題を見てみると、長期的には年金制度の崩壊を食い止める一助となるのなら「働ける人でも生活保護を受けてもいいのでは」と思っていただけるのではないだろうか。

本コンテンツでは、生活保護の現状を考察し、生活保護を「入りやすく、出やすい」制度にするためにはどうすればいいかについて見ていく。