安心と希望vol.3

商学部2年 花房勇輝

では、生活保護制度の改革に向けた政策について見ていく。

まずは、生活保護に「入りやすく」するための政策について。
第二弾でも述べたように、高校進学・修学のための保証を教育扶助として制度化すること、扶養義務について、夫婦相互および親の19歳未満の子供という範囲に限定すること以外ではいかの政策を提言したい。。
第一に必要になるのは、生活保護に関わる情報へのアクセス権を保証することだ。現在、その役割は生活保護を所管する福祉事務所が一手に引き受けている。しかし残念ながら窓口は広く開かれているとはいえず、むしろ「生活保護が利用できるかどうかのチェック機関」としての色彩が濃いものになっている。より多くの人が気軽に相談できるようにするためには、ニーズに応じて複数の窓口が存在し、「相談先を選ぶことができる」しくみをつくっていくことが必要だ。
第二に必要となるのは、制度を利用しようとする人たちの権利を守るしくみだ。福祉事務所は万能ではない。現在の運用は「福祉事務所と利用者」という構図しかなく、前者が圧倒的に強い立場で相談が進められる。しかしこのことは福祉事務所の側にとっても不幸なことだ。孤独死などの事件が発生すると、すべての責任は福祉事務所の対応にあると批判されるため、担当者の心理的プレッシャーは相当なものだ。「福祉事務所の判断としてはこうなるが、不満であれば第三者機関へと相談していただいて構わない」と伝えることができ、中立的立場をとる第三者機関の介入を求めながら制度の運用を進めていくことは、福祉事務所にとってもリスク分散と言う意味で価値がある。


次に生活保護を「出やすい」制度にするための政策について。
第二弾で、今の生活保護制度が、「自立支援」よりも「最低生活の保障」に偏っている、ということを述べた。この「自立支援」を効果的に実施していくためには、福祉事務所側に一定の指標が必要となる。その指標を「量」と「質」の両面についてみていく。

「量」はどれだけ多くの利用者にサービスを提供することができたかで評価することができる。確かに窓口を広げてしまうと自治体の義務的経費が増えて、自治体経営が成り立たなくなる。しかし生活保護の役割が自立支援であると考えれば、「そもそも長期の保護は前提としていないのだ」といえる。より多くの利用者を受け入れ、適切なサービスを提供することによって速やかに自立してもらう。この評価基準をここでは「自立率」と定義する。
生活保護からの自立者数÷生活保護申請数=自立率
自立率が高い地方自治体ほど、生活保護のサービス水準が高いと評価されることになる。こうすることで、昨年度に比べてどれだけのサービス水準が上がってのか、あるいは下がったのかを図ることが出来る。高齢者や障害者などそもそも自立しにくい人たちの利用に慎重になるのではないかとの批判が予想されるが、実際に過去の保護の適正化運動のなかでも高齢者や障害者など「わかりやすい」社会的弱者への影響は軽微なものだった。自立率が評価基準になったからといって、いきなり彼らを放り出すようなことは考えられない。また過疎化が進んだ町村や産業構造が変化して取り残された地方都市では、自立率が低くなることが考えられる。単純に市町村間で比較するのではなく、それぞれの地域の実情を見ながら、時間軸で評価していくことが必要だ。
しかし、例えば日雇いの仕事が見つかったからといって生活保護を打ち切ったり、医療機関への入院時だけ保護して退院時に打ち切ったりするケースなどでも自立率は高くなる。こうした量の評価はセイアkつ保護の入り口を広くして、誰でも利用しやすい制度にしていくことはできるが、無理やり出口から押し出される問題を避けることは出来ない。もうひとつ、指標が必要になる。

もう一つの評価基準である「質」の評価は、自立した利用者の追跡調査を行うことで可能となる。生活保護という社会的コストの投資にどれだけの効果があったかは、自立した利用者のうち、どの程度の割合の人が、どの程度の税を納めてくれるようになったかを調べることで評価できる。
単純に納税額との比較をするだけでなく、「仮に生活保護からの自立が出来なかったときの見込み支給額」すなわちマイナスのコストを考慮することだ。
自立できなかったときの生活保護の見込み支給額−実際の生活保護支給額+自立した人の納税額=投資効果
貧困に陥るリスクの高い若者を想起に支援のセーフティネットに乗せ、適切な支援を行うことで、将来発生するマイナスのコストを大きく削減することができる。仮に納税額ゼロの非課税世帯であったとしても、体を壊して長期にわたって生活保護を利用することを考えれば、充分採算を取ることができる。

これまでのような、保護の適正実施を第一命題とする運用ではケースワーカーの仕事はどうしても不適正な生活保護費の支給を行わないようにチェックすることが中心となる。しかし、自立を支援することが第一命題となれば、ケースワーカーはこれまでの不正受給調査官ではいられない。利用者の自立支援を行うには、利用者とケースワーカーの間に信頼関係が成立することが最低条件となる。[この人は私の自立を応援しようと、精一杯の努力をしている。私もこれに答えるために頑張ろう」と利用者が考えなければ、どのような支援も空回りすることになる。その意味ではケースワーカーが利用者の目線にたって、共に自立の方法を考えなければ、質の高い自立など望むべくもない。
しかし、生活保護制度を巡るこのような価値観の転換は何より現場のワーカーの意識を変えるだろう。現在の生活保護の運用ではケースワーカーがどのような努力をしても、その努力を否定するような批判が巻き起こる。「何をしても批判される」というような状況は、その努力を否定するような批判が巻き起こる。「何をしても批判される」という状況は、その職場で働くケースワーカーの向上心を著しく減退させる。利用者本位のサービスを心がけ、真摯にその自立を支援することで自らの評価が上がるなら、ケースワーカーはそれに向けた努力は惜しまないだろう.


最後に福祉事務所自体の改革について。
第二弾では、生活保護に「自立支援」の役割を拡大させていくためには、それに応じた福祉事務所の改革が必要だと述べた。

現在の福祉事務所の政策課題は2つあり、すなわち第一の課題は問題解決に向けた組織的な対応であり、第二の課題は職員の質向上である。

第一の課題には第一に福祉事務所としての処遇方針を明確化し、担当職員個人が支えるのではなく、福祉事務所全体が支える仕組みを構築すること、第二にハローワーク、その他の関係機関との連携・協力にあたっては、担当職員のみではなく、所長をはじめとして福祉事務所が組織的に対応することが含まれている。地方分権化がより推進されれば、将来的にはハローワークと福祉事務所の合体も検討されるべきだ。
福祉事務所が生活保護を中心に、就労支援機能をハローワーク(将来は都道府県と政令指定都市への権限委譲と民営化が望ましい)等と連携していくソーシャルワーカーによる現業機関として強化されることが望まれる。こうした福祉事務所は現行のように市(区)のみが必置ではなく、すべての町村にも必置されることが望まれる。とすれば都道府県の郡福祉事務所はすべて市町村福祉事務所に権限委譲され、都道府県は、ホームレスなど市町村で扱うにはふさわしくない住所不定の対応などに限定し、就労支援や住宅・教育関連の支援を主たる業務として行う保健所と、(さらには将来は職業安定所とも)合併した総合保健福祉センター(仮称)となるべきだ。
ただごく典型的な一例を示せば、例えば生活保護を受けて入院中の精神障害者を退院させ、社会復帰させていくためには、市町村の福祉事務所だけでの対応では困難であることはあまりにも明白で、保健福祉行政のみならず、労働行政を包括する総合的機能をもつ都道府県、将来的には道州の保健福祉労働総合センター(仮称)の役割、特に計画行政の拠点としての役割は絶大なものになる必要がある。

第二の職員の質向上について。
これは、現在の社会福祉主事の機能に各種就労支援(母子世帯、障害者、その他の被保護世帯等への就労支援)の能力を引き上げることを前提として、資格取得の要件・試験内容を一新する。その上で、福祉事務所ではこの資格を取得した者(もしくは取得中の者)しか働けないようにして、専門職化を図るべきである。


以上の政策によって、生活保護が「自立支援」を目的とした「入りやすく、出やすい」制度となり、生活保護利用者は再び自立した生活を送れるようになるだろう。