合同コンテンツ「トゥモロー」

政治経済学部1年 太田龍之介

先の二回で、働けない人の生の保障を担うための社会保障が脅かされており、それが今後高齢社会の進展により、一層基盤が危うくなるであろうこと、そして、働く人も物質的豊かさより精神的豊かさに重きを置くようになっている昨今、経済競争が激化した結果、労働力の非正規代替が進むと、職場に人手が足りなくなることも多く、結果として残業が増える、また、残業防止のための残業手当制度に不備があるため、残業が常態化しがちである、という問題点を指摘した。

こうした状態をいかに解消するべきなのか。

まず、社会保障システムについてであるが、これに関しては財源の拡大を行うほかにない。そのために、増税と経済規模拡大による増収という二つの方法がある。しかしながら、増税を行うための問題点として、法人税所得税は企業競争力の減退やフライトの危険性の増大につながりかねないという点、消費税は低所得者に不利であるという点から、今後数十兆円規模で増大するであろう社会保障費をすべて増税によって賄うことは難しい。

そこで、経済規模拡大による税収の増大を図る必要が発生する。そのためにイノベーション戦略を策定し、経済規模の拡大を図ることが考えられる。イノベーション発生のために何が必要かを考察する。現在、日本においてイノベーションを起こしにくくしている要因として、人材の不足、研究機関の不足、企業への金銭援助の不足の3つが挙げられる。この3つについてそれぞれ具体的に見ていく。

人材の面について、現在人材投資が進められているものの、まだ不十分であるといわざるを得ない。まず根本的に理科工学系の人材が不足しているといわれている。これに加えて、そうした学生に対する学習支援も不足している。アメリカではこうした学生への金銭支援プログラムが計画されている。そのため、奨学金の拡充や、理科系の学問への興味関心を高めるための教育プログラムを早期に施す必要がある。また、海外の優秀な人材を呼び込むための移民支援を行うことも必要とされる。

次に研究機関であるが、日本のイノベーションの発生はこれまで閉じた会社の内部にとどまっていた。それは、海外製品の模倣と小型化、省力化といった程度のことであれば、それほど専門的な知識を集約する必要はなかったためである。しかしながら、要求される技術水準が高まれば高まるほど、より広い分野でのより多くの専門家が必要となり、大学などの教育機関と、企業間、産業間の連携を強めることで研究を行っていく必要性が増大する。

そして金銭援助の面からであるが、現在企業の研究開発費のうち、企業負担率がアメリカと比べても10パーセントほど高く、不利な状況におかれている。これは単に企業の自由な活動の妨げとなるほか、企業がより研究しやすい海外へ移転するなどして、国内に打撃を与える可能性が発生する。また、そもそもの投資総額もアメリカは日本の2倍以上であり、ベンチャー向けの投資も盛んである。このことがアメリカにおいて様々な規模での研究開発が盛んな理由である。そのため日本でも国家が積極的に補助を行うことで、イノベーションの機運や、企業の国内活動のインセンティブを高めていく必要があり、そうした戦略を取れなければ人材や企業を海外に吸収されかねないのである。

これに関しても二つの戦略があり、広く薄い援助を行うアメリカ型の金銭給付と、有力な産業に重点的に投資を行っていくフランス型の給付とがある。

日本が取るべき戦略はどちらであろうか。私は先に、ITと医療分野について取り上げたが、このように投資すべき産業が明らかになっている以上、こうした産業に重点的に投資を行うことを優先すべきであると考える。




そして、過重労働の解消策として、何が必要かを考察する。それには、長すぎる労働時間の短縮を行うほかにない。しかしながら、単なる時短は総生産時間を減少させ、明らかに生産力を減退させる。そこで、複数人で仕事を分業することで、全体としては生産時間が減少しない方法、ワークシェアリングの必要性が発生する。ここで私が志向するワークシェアリングは「多様就業型ワークシェアリング」と呼ばれ、単に失業対策の観点から行われる他のワークシェアリングとは違い、人々が自分の生活スタイルに合わせた労働を選択できることを目標としている。それは一様ではない様々な人の様々なライフスタイルに合わせた労働を可能とするとともに、それぞれのライフステージに合わせた労働も可能にする。具体的には、子育てや介護の必要性や、高齢による体力の衰えなどから短時間正社員としての就業や、午前中だけの勤務を希望したり、より多く働きたい場合であれば長時間働くことを選択したりできるようなシステムを作ることである。これは、高齢者の社会参画可能性の増大にもつながるので、上記の社会保障問題に対しても有効な施策である。

導入のための問題点として、まずワークシェアリングの導入に当たって増大するコストが懸念となる事に着目する。この点に関して、ワークシェアリングを行うために短時間性社員を雇い入れる場合と、非正規雇用労働者を雇い入れる場合とで比較してみる。

正社員と非正規雇用者では、基本給は実はそれほど変わらないが、福利厚生費と教育費の部分に関して大きく取り扱いに差が生じる。まず福利厚生費の大半を占める社会保険料に関してであるが、これは雇用者が故意に加入させない場合や、そもそも労働時間や契約期間が一定に満たない者には加入資格がない場合もある。教育費に関しても、正社員には充実した教育が提供されるが、非正規社員は雇用期間が短いこともあってきちんとかける場合は少ない。

このことは保険加入機会や技能習得機会を失うということで非正規社員にとって不利益となるが、同時に正社員にとっても不利益となる。それは、きちんとした労働技能を身につけた人間が職場にいない限り、先のようなワークシェアリングはそもそも実現ができなくなってしまうからである。

そのため、国家で社会保険加入資格の拡張と、非正規雇用から正社員へと転換するための社会保険料と教育費の公的負担を行うべきである。前者の導入によって保険加入用件を引き下げ、加入を容易にする。それによって短時間性社員などの制度に柔軟に対応できる保険制度を構築する。また、後者によって非正規社員の正社員化を促し、労働分業を促進する。また、これらの政策によって、「正規」「非正規」という枠組みそのものを撤廃する足がかりとする。現在では、まだ非正規社員よりも正規社員の方が優秀であり、責任も重いとする見解が一般的である。しかしながら、正規も非正規も、同じ仕事に対して同じだけの責任と能力を持たなければ分業は行えない。そのような意識の一般化のためにも、上記のような政策によって両者を差異化しなくすることが望まれる。




以上三回に分けて「働くこと」と、それにまつわる問題、あるいは「働けない」人をどうするべきかを考察してきた。

もしこの文章によって何か思う所があれば幸いである。