「地方を...どげさする?」③

政治経済学部1年 仲條賢太

地方債は地方財政上2つのメリットがあります。第1に、財政運営の効率化です。つまり、地方債発行によって資金調達が可能になれば、その時々の租税収入の変動に左右されることなく、地方公共財を適切なタイミングで計画的に供給することが可能になるのです。第2に、公共財の供給に関わる異時点間での費用負担の公平です。つまり、社会資本整備などの公共財の供給によって便益を受けるのは、現時点の住民だとは限らず、まだ見ぬ未来の世代にも及びますので、地方債の償還を現時点と将来時点の両方の住民が負うことで、異時点間で公平に、受益に応じた費用負担を実現できます。

では、地方債はどのような事業を行う際に発行できるのでしょう。

実は、地方財政法第5条には「地方公共団体の歳出は、地方債以外の歳入をもって、その財源としなければならない」と記されており、戦後長らく、「非募債主義」の建前が貫かれてきました。とはいうものの、現実には地方債の発行は許容されてきた歴史があります。地方財政法第5条第1項によれば、適債事業を以下のとおりです。

  1. 1.交通・ガス・上下水道など公営事業の財源(対価収入でもって償還できるもの)
  2. 2.出資金・貸付金の財源(元金および配当または利子などの回収により償還できるもの)
  3. 3.地方債の借り換えのための財源(実質的に新しい債務を負うものではない)
  4. 4.災害復旧・救助に関する財源(突発的な支出を強いられる場合)
  5. 5.学校等の文教施設、厚生施設、消防施設、道路、河川、港湾といった公共施設の建設事業費および用地取得のための財源(その便益は後年に及ぶもの)


上記に列挙された適債事業以外の事業についても、例外的に特例法によって起債が認められ低増す。臨時財政対策債、減収補填債、退職手当債、歳入欠陥債、過疎対策事業債、辺地対策事業債などがそれにあたります。(いわゆる平成の大合併の時には、合併した自治体に合併債の起債が認められました。)


地方債引き受けの原資には、大きく分けて公的資金と民間式があります。公的資金は政府資金と光栄企業金融公庫資金からなり、さらに政府資金は郵政公社郵便貯金簡易生命保険)および財政投融資資金からなっています。他方、民間資金は銀行等の引受資金、市場公募資金、その他からなっています。近年は民間資金が増大し、公的資金は縮小傾向にあります。政府資金が短期間で減少した背景には、2001年から開始された財政投融資改革があるといえます。


地方歳入のうち、国庫支出金や手数料・使用料は、その収入によって賄う支出が決まっているため、地方債の元利償還費を賄う原資にはなりません。よって、元利償還費は、使途の決まってない一般財源地方税地方交付税地方譲与税の合計)から賄わなければなりません。

1991年度末に70兆円だった地方の債務残高は、1996年度末には140兆円、2000年度末には180兆円へと累積しています。最近では一般財源の1/4の比率を占めており、地方財政の硬直度が高まっています。


このことから、地方債発行残高が、1990年代に急激に増大していることがわかります。それは2つの要因による公共事業の拡大を主因としています。第1の要因は、1989年の日米構造協議を通じでアメリカから日本に対する内需拡大要求が高まったことで、第2の要因は、バブル崩壊後の景気対策として数次に及ぶ公共事業の拡大が図られたことです。これらの要因によって、とりわけ「地方単独事業」が公共事業の拡大のための主要な政策手段として位置づけられるようになり、その拡大の財源を賄うために地方債が増発されたのです。地方債の増発は地方財政に対する負担増をもたらし、財政の硬直化をもたらしていいきました。


では今後の地方債はどのように運用していけばよいのでしょう。

それは市場原理の導入です。

市場のガバナンスを背景とした財政規律の維持ずさんな財政の運営を行っている自治体は、マーケットの評価が下がるため、その自治体が発行する地方債はより高い金利を要求されることになります。

ただ、地方債の市場化は、デメリットももたらします。地方政府間で資金調達コストの格差が拡大することです。

中小規模で、しかも財政力の貧困な地方政府も市場での起債を迫られるならば、起債がそもそも困難になるか、可能だとしても非常に大会資金調達コストに見舞われることになっています。従って、地方債の市場化を進めるならば、同時に中小規模の地方政府の起債を可能にするような何らかの制度的枠組みを担保しなくてはなりません。

地方債の共同引き受け機関が地方債をまとめて引き受けることでリスクを分散させるとともに、それが一元的な資金調達を行うので、地方政府が個別に地方債を発行する場合よりも資金を調達するための資金コストを軽減させることができるのです。

資本調達額が小さく、高度な金融知識・技術を持たない小規模自治体が資金を調達する機関として、海外では、アメリカ、カナダ、スウェーデン、フランスなどで地方債銀行のような地域単位の地方債引受機関があります。これまで我が国にはこうした機関は存在せず、「公営企業金融公庫」が水道、交通、病院などの地方公営企業が発行する企業債を引き受けるために、政府保証債中心とする債券を発行し、市場から資金を調達してきました。「公営企業金融公庫」は、政策金融改革のために、2008年10月1日をもって廃止されることになっています。変わりに地方自治体の共同出資で、「地方公営企業等金融機構」が設立され、小規模自治体の共同引き受け業務を担うようになります。しかし、地方債の共同発行機関に全国の自治体を含めると独占を招いてしまい、競争を通じた規律付けが働かなくなります。そこで、非効率な地方債発行を抑制し、市場原理にもとづく地域間競争を促すために、全国規模ではなく、電力会社のような地域別に独立した、共同発行機関とするべきでありましょう。