『いつかは、CLOWN 第二弾―目撃者は踊る、祈るように』政治経済学部2年 竹田 雄大


4、途上国が発展する為の糸口、あるいは、データ分析

昨年度までの私の研究で、国の経済成長には、ODAや貿易振興に比較して、FDI(海外直接投資)の効果が比較的高い、という事は明らかになった。昨年度の私の09年度後期2月合宿レジュメ、「あした」を参照して頂きたい。その上で今回は、FDIの効果を最大化し、途上国の発展を効率良く実現する為の政策提言をすべく、現状・原因の分析を行って行く。


4,1,1、FDIとは何か

まずは、FDIの内容と、その効果についての理論を呈示する。
そもそもFDIとは何か簡単に確認する。FDIとは、「海外直接投資」の略であり、企業が海外に進出することや、現地の企業の“経営権を握る目的で”株式を取得すること等が挙げられる。つまり、先進国企業が現地で事業展開を行うこと、あるいは、見方を変えるならば、先進国企業が“多国籍企業化”し、途上国に“進出”する、ということである。
その効果としては、「労働移動」や「垂直リンケージ」によって「スピルオーバー」が起きること、である。ここでいう、「労働移動」とは、先進国からの技術者の移動であり、「垂直リンケージ」とは、進出した先進国企業の“下請け”を行うような企業の形成を促しうる、という効果の事である。また、「スピルオーバー」とは、端的に言えば、技術の伝播、として語られる。この際の“技術”とは、先進的な機械を導入し、それに触れる、という事に始まり、知識を得る事や、経営手法を学ぶこと、等も含む幅広い概念である。こうした技術の伝播によって、先進国への“キャッチアップ”が出来る土壌を創ることで、途上国での、企業の急速な発展が実現できるのである。



4,1,2、FDI(対GDP比)とGDP成長率(年率)について

2の項で述べたルールに則り、対GDP比のFDI(以下、FDIと略記)とGDP成長率と関係について分析する。
まず、途上国のFDIとGDP成長率の散布図を作成した。(N=390)


図を見て分かるとおり、FDIとGDP成長率に一見正の相関関係はありそうなものの、FDIが負、あるいは0付近であるのに高い成長率を示す国や、逆にFDIの値は高いのにGDP成長率が負の値を示す国が存在するなど、その関係は不明瞭である。回帰分析を行う。


記述統計


回帰分析結果

これを見て分かる通り、統計的有意度は0.395であり、FDIとGDPの関係に統計的な意味が無い事が分かる。また、回帰直線の係数も-0.28*10^(-1)であり、そもそも相関関係さえない、と結論付けられる。
つまり途上国全体について観ると、対GDP比のFDI額が1%高くなるにつき、GDP成長率は0.03%低下する、という結果であり、しかも、この結果に統計的な根拠はない、ということである。
散布図を観ると、右肩上がりの回帰直線にも乗りそうな位置にデータが集中しているにも拘らず、統計的な有意性が失われた。これには、正の相関から大きく外れた値の存在の影響が考えられる。それらの“外れ値”を特徴付け、逆にFDIとGDPに正の相関のあるサンプルを特徴付けるコントロール変数が見つけられれば、FDIをGDP成長に繋げる下地をつくり出す道筋にあたりを付けることが出来る。故に、FDIとGDP成長の相関関係に影響を与える変数を特定することが次の目標となる。


4,1,3、コントロール変数について

コントロール変数にあたりを付けるため、“正の相関”からは大きく外れるサンプルを抽出する。
まず、FDIの値は低い(対GDP比1%以下)にも拘らず、GDP成長率が高い(10%以上)の国を列挙する。
アゼルバイジャン(GDP:FDI=23.64:-14.37)
アンゴラ(GDP:FDI=17.09:-1.51)
ベラルーシ(GDP:FDI=10.49:0.96)
また、逆にFDIの値は高い(対GDP比15%以上)にも拘らず、GDP成長率が低い国を列挙する。
コンゴ民主共和国(GDP:FDI=4.12:19.24)
・セントビンセント(GDP:FDI=-1.24:19.95)
ジブチ(GDP:FDI=2.42:23.89)
セントルシア(GDP:FDI=-0.06:26.38)
これらの国々について分析する。2の項で示した夫々の変数について、平均と比較し、これらの国々を特徴付けられる可能性のある変数に大まかにあたりをつける。
ここで可能性のある数値は、
・農業の機械化の進行度合い
・小学校に行けない子供の割合
・輸出コスト
・人口
となった。夫々の変数について考察する。


4,1,4、変数についての考察

それぞれの変数について、論理的に考えてFDIとGDPの関係に影響を与える可能性があるかどうか判断する。

4,1,4,1、農業の機械化

農業の機械化がFDIとGDP成長率の関係に影響を及ぼしているとは考えにくい。これが“外れ値”を特徴付ける値となり得るのであれば、考えられうるのは、
・農家に、機械化出来るほどの所得水準があり、既に市場として確立している
・農業機械の生産が出来る程に/農業機械の輸入が出来る程に、工業化が進みきっている
為にFDIの効果が薄れている、という様に、間接的に、FDIとGDPの関係に影響を与える変数を示しているに過ぎない物であるからだ。



4,1,4,2、小学校に行けない子供の割合

小学校に行けない子供の割合は、教育環境の良し悪しを図れる変数であり、FDIとGDPの関係に影響を及ぼしうる可能性がある。なぜなら、教育水準の高低は、FDIで進出する企業の、現地での人材を集めやすさを表しているからだ。
よって、小学校に通えない子供の割合をコントロール変数にして、FDIとGDPの統計分析を行う。

記述統計


4,1,4,2,1、小学校に行けない子供の割合が高い国について
小学校に行けない子供の割合が高い(6%以上)の国について、FDIとGDPの関係の分析を行う。


散布図からは、相関関係はほぼ無いように見える。回帰分析を行う。

記述統計


回帰分析


有意度F=0.56であり、統計的有意性はないことが分かる。また、相関係数についても0.04と、相関関係もないことが分かる。

4,1,4,2,2、小学校に行けない子供の割合が中程度の国について

小学校に行けない子供の割合が中程度(3%以上6%以下)の国について、FDIとGDPの関係の分析を行う。


散布図からは、相関関係はほぼ無いように見える。回帰分析を行う。

記述統計


回帰分析


有意度F=0.40であり、統計的有意性はないことが分かる。また、相関係数についても0.06と、相関関係もないことが分かる。

4,1,4,2,3、小学校に行けない子供の割合が低い国について

小学校に行けない子供の割合が中程度(3%以上6%以下)の国について、FDIとGDPの関係の分析を行う。


散布図からは、相関関係はほぼ無いように見える。回帰分析を行う。


記述統計


回帰分析


有意度F=0.02%であり、5%水準で統計的有意性が見られる。しかし、相関係数については-0.15と、FDI(対GDP比)の値が1%高くなるにつき、GDP成長率が0.15%低下する、という負の相関関係があるということが分かる。

4,1,4,2,4、考察:小学校に行けない子供の割合はコントロール変数となるか

小学校に行けない子供達の割合の度合い毎に統計分析を行ったが、どの段階に於いても回帰分析を行った時に正の相関を示すサンプルが集まるような傾向は示されなかった。
よって、教育水準の良し悪しによって、FDIがGDP成長に繋がりやすいかどうかを特徴付けることは出来ず、教育水準はFDIとGDPのコントロール変数とはならないと結論付けられる。

4,1,4,3,1、輸出コストについて

輸出コストは、現地での先進国企業の活動に直接的に係わる物であり、FDIとGDPの関係に影響を及ぼしうる可能性がある。
よって、輸出コストをコントロール変数にして、FDIとGDPの統計分析を行う。


4,1,4,3,2、輸出コストとFDIの関係について

そもそも、輸出コストとFDIに相関関係は見られるかどうか確認する。散布図を作成する。


グラフを見る限り、明確な相関関係は見て取れない。回帰分析を行う。


回帰分析


有意度F=0.65であり、統計的有意性は無いことが分かる。係数についても0.00であり、相関関係は無いことが分かる。




4,1,4,3,2,1、輸出コストが高い国について

輸出コストが高い国について統計分析を行う。まず散布図を作成する。


散布図からは、正の相関関係があるようにも見られる。回帰分析を行う。
記述統計


回帰分析


有意度F=0.07であり、統計的には10%水準で有意であるということが分かる。相関係数について注目すると、係数=0.14であり、FDI(対GDP比)が1%上昇するにつきGDP成長率が0.14増加するという正の相関関係があることが分かる。


4,1,4,3,2,2、輸出コストが低い国について

反対に輸出コストが低い国について統計分析を行う。まず散布図を作成する。


散布図からは、正の相関関係があるようにも見られる。回帰分析を行う。
記述統計


回帰分析


有意度F=0.67であり、統計的な有意性は無いことが分かる。相関係数について注目すると、係数=-0.01であり、FDI(対GDP比)が1%上昇するにつきGDP成長率が0.01減少するという負の相関関係があることが分かる。


4,1,4,3,2,3、考察、輸出コストはコントロール変数となり得るか

単純に考えれば、輸出コストは低ければ低いほど企業活動がしやすくなり、FDIのGDP成長に与える効果を最大化できるものとなる筈である。だが、現実には、輸出コストの高い国の方が寧ろFDIの、GDP成長に対する影響を高めている状態である。
このことから考えられるのは、つまり、輸出コストが高い国では、多国籍企業内部での、比較的低コストな貿易が行える様になるFDIの促進が、GDP成長を直接的に左右できる、という形となっている事である。つまり、FDIが経済成長に寄与している、というよりも寧ろ、これらの国はFDI以外の面での経済成長が起きにくい状況下にある、という事を示しているに過ぎない、という事なのである。
もしもこの説が正しいのであれば、いくらGDP成長率に対するFDIの影響が最大化するとしても、それがGDP成長にとって最善の策であるとは言えず、政策として目指すべきではない。


4,1,4,4、人口について

人口は、現地の潜在的市場規模や、人材の確保のしやすさ等を左右する為、FDIとGDPの関係に影響を及ぼしうる。
よって、人口をコントロール変数とした統計分析を行う。


4,1,4,4,1、人口の小さい国について

人口が小さい国(300万人以下)について統計分析を行う。まず散布図を作成する。


散布図からは、正の相関関係があるようにも見られる。回帰分析を行う。

記述統計

回帰分析


有意度F=0.56であり、統計的有意性は無いことが分かる。相関係数について注目すると、係数=0.03であり、殆ど相関関係がないことが分かる。

4,1,4,4,2、人口のやや小さい国について

人口がやや小さい国(300万人以上900万人以下)について統計分析を行う。まず散布図を作成する。


散布図からは、正の相関関係があるようにも見られる。回帰分析を行う。


記述統計

回帰分析


有意度F=0.43%であり、統計的有意性は無いことが分かる。相関係数について注目すると、係数=-0.06であり、相関関係は殆どない事が分かる。

4,1,4,4,3、人口のやや大きい国について

人口がやや大きい国(900万人以上2750万人以下)について統計分析を行う。まず散布図を作成する。


散布図からは、正の相関関係があるようにも見られる。回帰分析を行う。



有意度F=29%であり、統計的有意性は無い事が分かる。相関係数について注目すると、係数=-0.12であり、FDI(対GDP比)が1%上昇するにつきGDP成長率が0.12減少するという負の相関関係があることが分かる。


4,1,4,4,4、人口の大きい国について

人口が大きい国(2750万人以上)について統計分析を行う。まず散布図を作成する。


散布図からは、正の相関関係があるようにも見られる。回帰分析を行う。

記述統計


回帰分析


有意度F=0.7%であり、統計的には1%水準で有意であるということが分かる。相関係数について注目すると、係数=0.27であり、FDI(対GDP比)が1%上昇するにつきGDP成長率が0.27増加するという正の相関関係があることが分かる。


4,1,4,2,5、考察

人口について纏めると、人口が大きいグループについてのみ統計的な有意性が見られた。また、単純比較は出来ないが、人口がより大きなグループに近づくにつれ、統計的有意度は上昇、そして、“外れ値”を取るサンプルも減少している。
ここから判断するに、人口という要素は、FDIをGDP成長に繋げる際に、現実に影響を及ぼしうるという事が言える。故に、人口はFDIとGDPのコントロール変数となり得るのであり、FDIをより効果的にGDP成長に繋げるには、人口の大きな市場を形成することが有効である、という事が分かる。


4,2、経済成長の全体像についてのより詳細な分析

さて、ここまでは議論を単純化するため、FDIの効果ありきで、かつ、散布図の形と統計データのF値のみに着目した分析を行ってきたが、これは本来適切ではない。ここまでの分析では、R値について無視していたからだ。これでは、その関数の説明能力が保証されていないこととなる。その為、ここから、より詳細な分析を行う。
変数の選択については、3章で述べた数値データから、節約性の観点に基づき 分析に利用するデータを選別した。また、サンプル数確保の観点から、分析対象年を04年から08年の5年間に範囲を拡大して分析を行った。


4,2,1、最終的に扱われた変数の記述統計

最終的に分析に使用された数値データについて、その記述統計を示す。

これらの数値を利用して統計分析を行った。
それぞれの独立変数について説明する。
小学校にいけない子供、は「Children out of school, primary」のデータを参照している。これは、人材形成に直結すると言われる、教育環境が、国家の発展にどう影響しているか実証する為の変数である。

輸出コストについては、「Cost to export (US$ per container)」のデータを参照している。制度として、その国の経済が対外的にどれだけ開かれているか、という要素が、国の発展にどう影響しているか実証する為の変数である。
公的資源分配の公平さ、では、「CPIA equity of public resource use rating (1=low to 6=high)」を参照している。ガバナンスの状態がどう国家の発展に影響しているか実証する為の変数である。
輸出については、「Exports of goods and services (% of GDP)」を参照している。これは、実際の規模として、どれだけ対外的な貿易をおこなっているか、という事を示す。先述の輸出コストとの明確な相関関係はなく、2つの独立変数を併存させることには意味がある。
(参考)



対外均衡とは「External balance on goods and services (% of GDP)」であり、国際収支不均衡、あるいは、経常収支を指す。これは、対外的なお金の流れ、つまり「貿易収支」、「所得収支」、「経常移転収支(ODA等)」、「サービス収支(旅行先での飲食など)」の状況について表している。国家に流入する資金の多寡が、どのように国家の発展に影響しているか実証する為の変数である。
総資本形成とは、「Gross capital formation (% of GDP)」であり、その国でどれだけ開発が進んでいるかを示す指標として利用した。開発が国家の経済成長にどのように影響しているか実証する為の変数である。
そして最後がFDIであり、「Foreign direct investment, net inflows (% of GDP)」を参照にしている。


その他に、一度は分析を行ったものの、統計的に有意とは言えなかった指標の一部を列挙する。
Adjusted savings: education expenditure (% of GNI),
Average grant element on new external debt commitments, official (%),
Cost of business start-up procedures (% of GNI per capita)
Energy production (kt of oil equivalent),
Net official development assistance and official aid received (constant 2007 US$),
Net taxes on products (current US$), 
Population, total,
Tariff rate, applied, simple mean, all products (%),
Total tax rate (% of profit),
Urban population

4,2,2、分析結果

まず端的に示すと、分析結果は以下のとおりになる。


観測された有意度F値が0.73*10^(-11)であることから、この回帰モデルは母集団でも一定の説明力を持つことが分かる。この重回帰分析からえられた結果についてだが、まず、FDIについて、このモデルの中では、P値が0.80と、高い値を示しており、統計的有意性が棄却されている。(ただし、だからといって開発に対してFDIは寄与しないという訳ではない後の項で詳述。)FDIを抜いて再度重回帰分析を行った結果は、以下の通りである。


観測された有意度F値が0.19*10^(-11)であることから、この回帰モデルは母集団でも一定の説明力を持つことが分かる。また、補正R^2=0.49から、FDI単体で分析をしていた時とは比べ物にならない程、このモデルの説明能力が高いことも分かる。この重回帰分析からえられた結果は次のとおりである。
まず、初等教育に於ける未就学児童の割合と、輸出コストについては、予想と反して正の値を示す結果となった。しかし、統計的には有意の水準にあるとは言え、その影響力は極めて小さい、という事も分かった。(未就学児童割合が1%上がると、一人当たりGDPが0.48*10^(-6)$分だけ上昇し、コンテナ一つあたりの費用が1$上がると、一人当たりGDPが0.0026$だけ上昇する)
一方、他の4つの独立変数について観ると、それぞれ統計的に有意な水準にあり、結果も予想通り正の値を取っている。
それぞれの独立変数について述べる。
公的資源分配の公正さに関しては、全6段階中、1つ評価が上がるごとに、一人当たりGDPが2.14%上昇する、という傾向があることを示している。これは、ガバナンスを改善することで、市場環境も向上し、経済成長が起きる、という理論をサポートする結果と言える。
対GDP比の輸出規模については、1%上昇するにつき、一人当たりGDPを0.12%上昇させるという傾向があることを示している。ただし、昨年度の研究でも分かるとおり、輸出規模の拡大それ自体だけでは、GDPの成長につながるという結果がえられなかったことから考えると、輸出増進は、ガバナンスの改善等の他の政策とセットにして行う必要がある、ということが分かる。
対外均衡については、GDP比で1%上昇するにつき、一人当たりGDPを0.10%成長させる、という傾向があることが分かる。これは、ODA等の政策によって対外均衡の値を調整することで、ある程度、途上国の成長の環境を整えることができるという可能性を示していると言える。

総資本形成については、対GDP比で1%上昇するにつき、一人当たりGDPを0.13%上昇させる効果がある、という事が分かる。ただし、この変数については、そもそも総資本形成自体がGDP算出に利用されている点を考慮にいれると、この様な結果となるのはある意味当然である、と言えるかもしれない。もっとも、総資本形成を向上させれば、直接的にGDP成長につながり、ひいては、現地の住民の生活向上にも寄与する、という事は明らかである。

つまり、一人当たりGDP成長率をYとし、未就学児童割合をX1、同様に、輸出コストをX2、公的資源配分の公正性をX3、輸出規模をX4、対外均衡をX5、総資本形成をX6と置くと、以下のような回帰式に表す事ができるのである。

Y=(+0.00)* X1 + (+0.00)* X2 + 2.14* X3 + 0.12* X4 + 0.10* X5 + 0.13* X6 – 12.97(切片)

以上の様に、経済成長を促す要素を特定することが出来た。


4,2,3、FDIに効果は無いのか?

ここで、この様な重回帰のモデルでは統計的な有意性を失ったものの、それ単体で分析した時には他の変数に対して比較的大きな効果を持つと予想されていたFDIについて述べる。具体的には、FDIがどのようなプロセスでGDP成長に寄与するか、について、いま一度詳しく論じる事となる。
結論から先に述べると、FDIは、先の項で特定した「GDP成長を促す要素」の内、輸出規模と資本形成に対して、FDIが正の影響を与える、ということである。このこと自体は、想像に難くない。FDIによって海外から企業が進出することで、現地に工場が建設される、この事だけでも、資本形成には寄与することとなる。また、FDIによって形成された現地企業は、先進国企業との貿易を促進することとなるので、結果的に、輸出の増加も促すこととなるのである。以下に、その実証データを示す。


回帰分析結果

FDIと輸出の関係


回帰分析結果

確かにどちらの分析に於いても、R値は決して高いとは言えない。しかし、F値に関してみれば、資本形成では0.44*10^(-14)、輸出では0.15*10^(-5)と、非常に低い水準で有意であるという値が出ているため、FDIが輸出や資本形成に対して正の影響を与えている、という事は確かであると言える。さらに言うのであれば、散布図のデータを見れば分かることだが、いずれのグラフでも”下限”を示す線がはっきりとしている。この事から分かるのは、輸出や資本形成を促す要素はFDI以外にもある(だからこそ、FDIが0に近い値を示しているにも拘らずy軸で高い値を示す国が存在する)が、一方で、FDI以外の輸出や資本形成を促進する要素を持たない国にとっては、FDIが確実に作用する、ということを表している。これについても簡単に実証する。輸出や資本形成を促すことを可能にする要素としては、内発的な発展を可能とする環境や、石油などの鉱物資源などが考えられる。ところで、より一人当たりGDPの低い国では、それらの要素が比較的少ない事が容易に予想される。そこで、一人あたりGDPに於いて下位1/8の国々に限った分析を行った。結果、資本形成については上記の分析と大きな差を認めることができなかったが、輸出規模の拡大に関しては、下記の様な分析結果を得る事ができ、FDIが輸出の増進に対して正の影響力を持つことが実証できた。(この事から、資本形成については、ある程度成長した後も、最貧国と同程度に促進する影響力を持つとも言える。)


回帰分析結果

以上のことから、FDIが輸出や資本形成に対して重要な影響を与え、それによって経済成長が促される事が確認できた。つまり、FDIこそが経済成長を促す起爆剤となる、ということである。そこで、FDIを促進しつつ、FDIを経済成長につなげやすい”土壌”をいかに創出するかについて述べていきたい。


5,1,1、政策提言、経済成長を実現するためには

これまで観てきた通り、
?FDIの効果を最大化するためには、大規模な市場確保が必要である
?経済成長を促進させる要素としては、公的資源配分の公正性、輸出規模、対外均衡、総資本形成、を向上させる必要がある
という事が明らかになった。それぞれの政策目標について観ると、輸出規模の拡大、総資本形成については、FDIを用いることで実現可能であることは先に述べた。FDIを増進することに関しては、昨年度の研究にて、トービン税の導入の効果が高い事が分かっているので(昨年度2月合宿レジュメ、「あした」を参照)、ここでは中心的な議題とはしない。それら二つと、対外均衡に関しては、対外的な問題である。そして、対外均衡の向上には、輸出の増進が寄与することとなる。一方、公的資源配分の公正性の向上に関しては、これはガバナンスに関係する問題であり、国内問題であるといえる。


これらの政策目的を達成するためには、有効な経済共同体を創出することが重要である。その点について簡単に説明する。
その上で、上記の政策目標に対して経済共同体が及ぼしうる影響を考える。まず、経済共同体が創出されれば、?の目的である“市場確保”が出来る事は明らかである。?の目的に対しても述べる。まず、経済共同体はFDIを呼びこむことにも一定の効果があるものと思われる。これは、ジェトロのFDIの動機に関するアンケートで、71%の割合で「市場の将来性」を、33.6%の割合で市場規模を回答として上げており、この2つの回答が最も多い物であった、ということから分かる。つまり、企業が途上国進出を考える際にメリットと感じるものは、市場としての将来性と規模であり、よい広範な市場で商機を狙いやすくする、経済共同体は、企業に対してFDIで進出することのインセンティブを増加させることに繋がるからである。また、域内でモノ・カネの流れが活発に行われるようになれば、必然的に輸出も増大するし、かつ、資本形成も進んでいく。そして、共通の目標を持った“仲間”としての隣国同士で、監視・助言をし合って行くことで、ガバナンスが改善されていくことも予想される。実際、経済産業省発行の『経済連携の推進』(2002)には、ASEANに期待される効果として、「貿易投資の拡大、東アジア域内での効率的生産体制(最適地生産)や調達販売ネットワークの構築、市場拡大による経営効率化・収益改善、実力のあるアジア企業との連携、対日投資の拡大など」とある。関税等の障壁を撤廃していくことは、現地でのより自由で広範な競争の促進に繋がり、効率化に寄与する、ということである。また、ガバナンスの改善に関しても一定の効果が望まれる事について確認する。根源を辿れば、1975年成立のECOWASは、加盟国15ヶ国の、西アフリカ諸国の地域共同体である。元々は、現地での情勢不安から有効な活動をすることができずにいたが、1990年より、ECOMOGという停戦監視団の組織化により、現地での平和維持活動を担うようになった。実際この機関は、リベリア戦争(90-97年)、シエラレオネ戦争(97-99年)、ギニア紛争(98-99年)等数々の紛争の解決に寄与してきた。これは、現地の人間だからこそ有効に機能した、とする分析も存在する。この様に、「ハイ・ポィティクス」の分野に於いても現地住民が主体となった組織である為に有効な働きかけを行う事ができるのである。況や、経済共同体としての発展を目指すという共通の目標を掲げられたら、その為の障害となる点について取り除かれる様な方向性へと向かう事は想像に難くない。
以上観てきたように、経済共同体を実現することで、FDIの効果を最大化し、公的資源配分の公正性、輸出規模、対外均衡、総資本形成、を向上させることが出来るのである。

5,1,2、経済共同体の成立を阻害する要因、とその政策

ASEAN等が代表例だが、私の定義上の「途上国」となる国が多い地域でも、地域統合・経済共同体の創出は進行している場合が多い。一方、これが思うように進んでいないのがアフリカである。実際、アフリカの地域共同体としては、EAC(東アフリカ共同体)が経済同盟を目指しているが、他の地域ではまだ、共同市場の設立が目的となっている段階である。しかも実際は、ほとんどの地域では、進行具合が自由貿易地域の前段階である地域協力に留まっている現状にあるのである。
その実情が端的に表れているのはECOWASである。これは、経済統合の手始めに、共通通貨を作ろうという動きがあったのだが、加盟国15ヶ国の内、フラン圏の8ヶ国(UEMOAという団体を設立)は、フランとの兌換性が保証された通貨を利用しており、この地域での通貨統合を拒んでいる、という状況があるのだ。
この様に各地域共同体内で、国同士、あるいは旧文化圏同士のイニシアティブ争いが起こり、計画が思うように前進しない、という実情があるのである。
その対策として、経済統合の単位を地域単位でなくAUに移し、議長の公選制、統一通貨の創出、その通貨のIMFによる保証を掲げる。
ここでIMFを政策アクターとして設定したのは、 構成国家としての国々に対しては比較的中立の立場であり、かつ、これまで数々の国を再生させてきたノウハウを活かし、金融政策等の面でアドバイス出来る場面は多いと判断したからである。


以上の政策により、FDIの効果の最大化し、途上国経済を効率的に発展させる土壌を創る事が出来るのである。
こうして、途上国経済を成長させ、そこに暮らす人々の生活水準を押し上げ、彼らの、より主体的な生命を実現することが出来るようになるのである。





道化師は踊る 人垣の舞台で
悲しみの唄を紡ぐために
祈りを込めている

伸ばした手は光を掴まえて
ラクタの魂を鳴らす


街から街へやちまたを探して
悲しみの唄を背負いながら
笑いの輪を描く

街から街へ季節を越えてゆく
目撃者は今日も背負いながら
踊る 祈るように

伸ばした手は光を掴まえて
ラクタの魂を鳴らす

伸ばした手は光を掴まえて
ラクタの魂を鳴らす

作詞:nakagawa takashi 作曲:kawamura hiroshi, nakagawa takashi
―青天井のクラウン by ソウル・フラワー・ユニオン




参考文献

・阿久沢祐子、木村元、武井哲郎、平田源吾『アフリカの地域統合』2006年

・大坪滋『グローバリゼーションと開発』勁草書房、2009年2月25日

・朽木昭文、野上裕生、山形辰史『テキストブック開発経済学有斐閣、1997年12月20日

・トラン・ヴァン・トウ『中国の台頭と東アジア経済―ASEAN の貿易と投資へのインパクトー』2007年3月3日

・長田博『貧困削減戦略におけるマクロ経済政策と貧困のリンケージに関する予備的考察− ASEAN 諸国におけるPRSP 体制の意味−』2005年3月

日本貿易振興機構海外調査部『ASEAN各国の発展戦略とビジネス環境の変化』2004年3月

・平野克己『アフリカ経済実証分析』アジア経済研究所、2005年3月22日

・鷲見良彦『経済連携の推進』2003年1月

・S・Wei『Natural Openness and Good Government』2000年8月