『いつかは、CLOWN 第一弾―"笑いの輪"を途上国に』政経学部2年 竹田 雄大


http://free-photo-material.com/c008/page4.htmlより

1、内容についての簡単なまとめ

本コンテンツは、途上国問題の現場について確認し、途上国の発展を実現する為の方策について述べたものである。政策としては、開発経済学の視点に立ち、途上国と先進国のwin-win関係を築くことで発展を実現できるような物を模索した。具体的には、主にFDI(海外直接投資、後に詳述)に注目し、その効果を最大化させること、そうして得られた経済成長を経済発展に効率よく変換すべく、マクロ経済の成長の恩恵が人々、特にその国の低所得者層にまで行き渡るようにする為の政策提言を行う。
各章の構成は以下の様に設定する。第2章では、途上国を取り巻く世界の情勢と、途上国の現状について述べる。第3章では、本コンテンツで用いる数値データについて述べる。第4章では、途上国が発展する為の糸口を探る。第5章では、政策提言を行う。
尚、

また、ここで表題の意味について述べておく。「いつかはクラウン」とは、1983年にトヨタ社のシーエムキャッチコピーとして利用された有名なフレーズである。ただし、この場合の「クラウン」とは、王冠を意味する「crown」である。一方今回の題名の「clown」は、“ピエロ”の意味である。途上国の人々が、貧困から来る苦しみから開放され、“笑顔に”なれるような、そんな願いもあってこの題名に設定した次第である。
では、本編に入る。



http://www.ac-illust.com/disp_thumb6305.html?PHPSESSID=7d07e88b0528c7cde777b43ec03d9123より

2,1、途上国を取り巻く世界の情勢について

現代の世界の情勢を端的に表現するなら、グローバル化という言葉で表すことができる。これは、世界レヴェルでの貿易取引額の急伸や、グローバル企業の出現、その成長等に端的に見られる。

この潮流の中、90年代後半の東アジア通貨危機や、サブプライムショックに端を発する金融危機に端的に表れている様に、 国家は、国外からの要因にその経済、政治状況を翻弄されているのである。この影響は、途上国にも及ぶ。東アジア通貨危機の時は、“ホットマネー”と呼ばれる過剰な間接投資資金の流出が起き、東アジア諸国の成長を阻害した。サブプライムショックの時は、行き場を失った投機資金が食糧相場に流入し、食糧価格高騰を招いた。それは「サイレント・ツナミ」と呼ばれ、途上国の人々の生活を圧迫し、政情不安をもたらした。グローバル化という言葉についての詳細は、私の09年度後期報道コンテンツ、「明日のためその1」を参照して頂きたい。


2,2、途上国の定義

まず、ここで「途上国」の定義をする。ところで、2002年のDollar and Kraayによる分析によって、「一人当たりGDPが1%高い国では、その国の低所得者層の所得も1%高くなる」という分析が発表された。この分析は、“低所得者層”を、それぞれの国の中で、所得水準が下位20%に属する人々と定義し、137ヶ国に関する418のデータから実証分析を行った物である。


山崎幸治「経済成長の貧困削減効果 ダラー=クラーイ論文の再検討」http://ci.nii.ac.jp/naid/110006483060、アクセス日時2010年9月3日21時より
この分析から、国のマクロ経済であるGDPを成長させれば、その国の低所得者にもその恩恵が及ぶ、という事が分かる。この点に関して、別の観点から考察をしたのが、V・Ahuja、B・Bidani、F・Ferreira、M・Waltonの「Everyone's Miracle? Revisiting Poverty and Inequality in East Asia」である。


*1
これは、それぞれの国の、絶対的貧困層(1日1ドル未満で生活する人々)が人口に占める割合(=貧困率)の減少分について、その減少の要因を?経済成長、と、?国内での分配の公平化、という要素に分解して表にまとめたものである。(表の、Decline in head-count indexは貧困率の減少分、Growth componentは経済成長の寄与した分、Redistribution componentは国内での分配の是正が寄与した分である。Residualは、経済的な要因と分配の是正による要因を足しあわせた上で、説明し切れない“誤差”の部分である。)例として一番上のマレーシア(1973-89年)について観ると、この期間中に貧困率は19.1%減少したが、その内で、経済成長を要因として説明出来るのは16.4%、分配の公平化を要因として説明できる部分が3.9%、この2変数では説明のつかない部分が1.2%、ということである。値がマイナスになっているのは、貧困率削減の“足を引っ張っている”という事である。
この“要素の分解”の計算方法としては、以下の様な方法が採られている。まず前提条件として、貧困率に影響を与える要素を、「経済成長」と「分配の公平さの変動」と設定する。その上で“分配の公平性の是正(あるいは悪化)”がその期間に“全く起きなかった”状況を想定し、その際に減少したであろう貧困率を計算する。これが即ち経済成長によってもたらされた貧困率の減少分ということになる。同様に、今度は経済成長が全く起きなかった状況を想定して、その場合に削減されたであろう貧困率を計算して、国内での分配の是正による貧困率の減少分とする。最後に、この二つの要素に“分解された”とする削減分を足しあわせ、それが実際の削減率と等しくなることで、それ以外の要素の不在を証明する、という方式である。V・Ahufaはこの結果を以下のように(英文参照)結論づけている。要約すると、東アジアの発展の内実について貧困率の減少から観ると、分配の是正に依る貧困率減少分は決定打となる訳ではなく、むしろ貧困率の減少の足かせとなり、経済成長で説明される減少分を表す数値が実際に減少した値を上回ることさえあることから分かるように、経済成長に依るところが大きかった、という事である。

The growth component is not only always positive (as one would expect from the growth  record), but also generally much larger than the redistribution component, which is more often negative than positive. Consequently, the growth component is often larger than the actual measured decline in the head-count index.
These results are consistent with the trend of increasing inequality described earlier, and with the fact that poverty continues to decline, despite this trend, because economic growth is sufficiently strong to outweigh the distributional effect.

以上の事から分かる事は、経済成長の恩恵は、その国の人々、さらに言えば、その国の“底辺”の人々にまで及ぶことは明らかである、という事である。故に、途上国で苦しむ“貧困層”の生活を向上させたいのであれば、その国のGDPを成長させることが重要である、という事が言える。故に私は、国の経済成長を実現することを目標とし、途上国の定義として、一人当たりGDPが低い国、と定める。具体的には、「現在の一人当たりGDPで世界平均以下の国」と定める。この水準は、ブラジルやマレーシア等の新興国も、一部途上国として含まれる程度のものである。これは、全ての途上国が、現在の新興国と呼ばれる水準まで発展し、そしてそこで止むこと無く成長を続ける、という状況をもたらすような政策を呈示できるよう、分析を行う、という点も意味する。


3、コンテンツの統計分析に用いる数値データについて

本レジュメの分析に利用するデータであるが、データの豊富さと信頼性を鑑み、世界銀行の発行する「world development indicators」を利用する。分析対象年は、入手し得る最新の物、即ち主に、2006〜2008年のデータを用いた。
分析の対象となった変数は、経済成長に影響を及ぼしうる物を集めた。次ページに列挙する。