「Rate:0.0005% Currency Transaction Development Levyの有効性」

政治経済学部3年 田邊清敬

1.序
FXは周知の通り、外国為替の変動によりさやを抜いたり、各通貨の金利差から生じる、スワップ金利の配当を得たりする、金融取引である。日本においても、一昔前からFXブームが巻き起こり、私自身、資金委託されFXを開始してから早2年余経つ。昨年からは、ヘッジとして商品先物市場でも取引を始めた。今年に入り、世界的なインフレが顕在化しつつあるが、その主要因は皆さんがご存じの通り、株式・債券市場からの、逃げ足の早い投機的なマネーの流入といっても過言ではない。私は、一人のFX、コモディティトレーダーとして、現在の経済動向にさらっと触れ、金融市場への資産ベースでなくトランザクションベースでの課税の有効性について検討しようと思う。(もちろん、私は運用資金額がレバレッジを例え200倍、300倍とかけたところで、世界に流通するマネーの総量と比して、塵にも及ばない身分であるが、マクロに考察する。)

2.問題提起
昨今の世界的な物価上昇により、新興経済国や貧困国ではすでに、深刻な「インフレの症状」が発生している。途上国の金融システムは未成熟で、家計の大部分が食料品と燃料購入に充てられている。また、サブプライム問題を未だに引きずる欧米諸国はインフレ圧力の高まりにより、不景気と物価上昇が同時に起こるスタグフレーションの懸念もある。食糧危機の何よりもの問題は、最も貧しい人々に最も大きな被害をもたらす点。最初に食料を手に入れられなくなるのは、全収入の4〜6割を食費に費やす貧困層である。(欧米標準は、食費は家計の15%に満たない)彼らの困窮は社会不安を招く。アフリカ諸国や、ハイチなど22か国で、ここ数ヶ月間、食料に関した暴動が多発している。一方、先進国においても食糧危機や原油高騰が経済の停滞や失業率増加につながり、その結果、多くの国で保護主義的な動きが発生し、国際貿易を縮小させてしまう。

3.時代潮流・原因分析
今日、10年ほど続いた安定期が終わり、世界経済はインフレ加速と成長率低下の時期を迎えようとしている。ここ最近のインフレ要因は中長期的に観察すれば、食糧、原油に加え、鉄鋼や石炭といった一次産品の価格高騰であり、価格統制を実施する中国などのアジア諸国で需要が急増している一方で、中東が原油の生産抑制を続けているためでもある。
しかし、短期的に見ると、原油、食糧価格高騰要因に共通して言えることは、“投機マネー”の存在である。サブプライム危機以後、株安やドル安が進み、より有利な運用先を求めた資金が商品市場に流れ込んだ。穀物原油先物を組み込んだ「商品指数ファンド」の規模は08年3月末に2600億ドル(約28兆円)と、03年末に比べ20倍近くに膨らんだ。「投機筋」と呼ばれるヘッジファンドによる投機的なマネーの流入により、天然ガス原油、食糧価格は実質需要増加率から大きく乖離した価格上昇を続けている。そもそも、商品先物市場の規模は、需給を反映していたころは、穀物が7兆〜8兆円、原油が15兆円前後と、世界の株式市場(4500兆円)や債券市場(5700兆円)に比べ、はるかに小さい規模だった。

4.Forexに課税する事の必要性
金融市場はグローバリゼーションの最大の受益者といえる。例えば外国為替市場は、1973 年に約4兆ドルであったものが、1980 年代中ごろには40 兆ドル、さらに2008 年には480 兆ドルに拡大している。これは100 倍以上の成長である。世界の株式市場の総売上高は、1993 年からのわずか12 年間で7倍の51 兆ドルに成長している。またグローバル債市場に保持されている富は、同じ期間に3倍以上の60 兆ドル近くに増加した。これらの膨大な金融市場の上澄みをすくい取るだけで、そのひとかけらを切り取るだけで、人命を救うための、また持続可能な開発を達成するための何十億ドルという資金を創出し、再分配することができる可能性があると考える。これらは時とともにさらに増額される可能性のある、予測可能で長期的な資金源となりうる。つまり、現在の状況における租税構造の変革に取組むべきである。


■金融市場税導入により世界の貧困層を援助する可能性

国際金融取引に対する0.01%の税が、商品価格の高騰と気候変動に直面する途上国に、何千億ドルもの資金を供給できるかもしれない(Harvey Morris UN)

前フランス外務大臣で、民間企業が開発を支援する新たな方法を見つけるよう国連から任命を受けたフィリップ・ドストブラジ(Philippe Douste-Blazy)氏は、世界市場における均衡を歪めない解決策を見つけるために、全ての有価証券およびデリバティブ金融派生商品)の取引に課税するという税の提案者らと連携すると述べた。現在オーストリアの経済研究所(Institute of Economic Research)で活動するStephan Schulmeister氏は、世界的な極低率の税は年間約2,300億ドルを創出し、この資金は商品価格の高騰により脅かされている開発目標を達成するのに使用できると述べている。同氏は更に、「金融市場における取引額は莫大なため、非常に低率でもFTT(金融取引税)の税収は相当な額になる。これらの税収は開発援助や、その他の超国家的プロジェクトまたは制度に資金供給するために使用できる」と述べている。

金融取引に対する課税の構想は、株式市場における投機を抑制するために70年以上前にジョン・メイナード・ケインズが推進している。1970年代には、通貨投機を抑えることを目的に同様の構想がノーベル受賞者の米国人経済学者であるジェームズ・トービンにより提案されている。より最近では、「トービン税」は国際援助慈善団体の支持を得ている。また、世界金融市場の自由化が世界の貧困層にもたらした被害に対し市場に代価を断固として払わせようとする反グローバリゼーション運動も、「トービン税」を支持している。

同提案は主に、市場の変動性を高める一因となっている非常に短期の取引に影響を与えることになる。「全面的なFTTでは、取引期間が短いほど取引費用が高くなる。このため、同税は日内の価格データに基づき取引されることがますます増えているテクニカル・トレーディングを抑えることになる」とSchulmeister氏は言う。

出典:http://www.ft.com/cms/s/0/9ea4923c-0b0e-11dd-8ccf-0000779fd2ac.html

*しかし、ここまでの議論では“世界政府なくして、国際取引税なし”と唱える、反グローバル・タックス論者を撥ね退けられない。

■通貨取引開発税(CTDL)
通貨取引に対する税のように、予測可能で固定された収入源があれば、毎年のODA(政府開発援助)割当ての予算論争を回避して、長期的な資金源を確保することができる。さらに、通貨取引に課税すれば、通貨取引市場の成長が速いため、その税収は増加する可能性が高いのも利点の一つである。
この提案はソニー・カプーアによるもので、インテリジェンス・キャピタル(Intelligence Capital)やロドニー・シュミット(Rodney Schmidt)氏などの学術専門家による先駆的な研究に基づいている。最初の報告書は協同組合銀行(Co-operative Bank)の資金提供を受け専門家によるピア・レビュー(同分野の専門家らによる査読)を受けている。

ソニー・カプーアは国際金融、開発、環境の専門家。投資銀行業務およびデリバティブ取引に携わった職歴を持つ。彼は現在、世界銀行、国連、国際NGO、先進国および途上国の政府など、多くの組織と幅広く活動を共にし、主要な戦略的課題や開発課題について助言している。

■CTDL はトービン税とは違う
CTDL は、通貨取引への少額課税であり、トービン税とは根本的に異なる。異なる時代に生まれ、異なる税率で提案され、異なる目的で設計された税である。トービンは資本移動がより自由に行われる世界において、各国が独立した通貨政策を維持しようとする際のソリューションを提案したもので、トービン税の目的は、税率を高くして外国為替市場の参加者の行動を変えることであった。彼は投機を減速しようとし、彼は連帯税を考慮していたのではない。通貨取引税の目的は全く違い、他の多くの売上高税と同様に、通貨取引税は市場参加者の行動を大幅に変えずに、税収を上げるよう設計されている。

■金融取引税の成功例
金融取引税の実例は世界中に存在している。例えばEU 内では、英国、フランス、ベルギー等に金融取引税が存在する。英国では、株式取引への印紙税が1%の半分の割合で徴収されており、年間50 億ユーロを生み出している。通貨取引開発税(CTDL、Currency Transaction Development Levy)の何倍もの税率で課税されていたにもかかわらず近年導入された取引税の多く(例えばコロンビアやアルゼンチンなどのもの)について、金融セクターは大きな悪影響もなくこれら取引税に適応した。これらの税の税率は0.2〜0.8%で、非常に低い徴税費用で脱税問題もほとんどなく、毎年相当な額の税収を生み出す。さらに、これらの税金は政府の依頼に基づいて、主に電子的な方法で銀行を通して最小限の費用で徴収されている。税収はGDP国内総生産)の0.3%〜3.5%を占めており、また税収全体の1.5%〜26.7%を占める。これらの徴税費用は通常、所得税徴収の費用より50〜100 倍安く済んでいる。

ソニー・カプーアが解説した金融取引税の詳細

金融取引税に触れて大臣は次のようにおっしゃいました。「少額の税、0.000…何個ゼロが付くか分かりませんが、そのような税が多額の資金を生み出します。」念のために紹介しておくと、私達の提案では4つゼロがつきます・・・。提案している0.005%の税率は大変少額なため市場の一般的な機能に影響を与えることはありません。同様に、この規模の税では回避するのに複雑な考案をする正当な理由も見つかりません。以下に説明するように、この税率では、金融機関は租税回避することで得る利益よりも損失が大きくなるのです。0.005%のCTDL を回避するのは基本的に経済的ではないのです。また、外国為替市場は電子的に追跡できるため、市場の性質から脱税は現在技術的に難しくなっています。さらに、決済システムは金融の安定に非常に重要になっているため、租税に関わる理由であれ他の
理由であれ、金融機関が決済システムを回避するのを規制当局者が許すことは考えられません。これはつまり、一旦ある国が通貨取引税を実施すれば、その通貨に関する外国為替取引は、それが世界のどこで行われたとしても、課税されることになります。それは、グローバル決済システムはその国の中央銀行に最終的な課税対象資金を提供することになるからです。CTDL は一国で実施できるもので、その国の中で取引される全ての通貨に課税するのではなく、世界各地で取引されている自国の通貨に対して課税するものです。その国の中央銀行は、タックスヘイブン租税回避地)を含む世界各地で取引されている自国通貨の取引の中心的役割を果たします。次の3点の組み合わせにより、通貨取引税の回避は非常に費用のかかるものとなります。
1つ目は、一つしかない世界規模のリアルタイムの決済システムが外国為替のために近年導入されたことです。
2つ目は、銀行の適正な自己資本比率に関する国際銀行業務協定が採用されたことです。3つ目は、マネーロンダリング資金洗浄)の蔓延と、テロへの資金調達に対する対策が整備されていることです。
(引用:ソニー・カプーアの講演 グローバル・タックス研究会)
■CTDL の徴税の仕方
「…外国為替取引の決済のためのインフラは、ますます形式的になり、中央集権化され、統制されるようになってきています。-中略-決済リスクは、決済義務が元の取引にマッチされ元の取引が追跡された上で、各決済が同時決済されることによって排除することができます。この決済を支えるために現在機能している技術と制度により、外国為替支払いの総額を特定し課税することができるようになりました。取引を規定するどの金融商品を使用した場合でも、取引に関与する当事者がどこにいるとしても、その後の決済がどこで行われたとしても、課税することができるのです。」
決済システムは、国の経済・金融インフラの重要部分を担っている。円滑に機能している決済システムにより、安全かつタイムリーな支払取引を実行することができる。これらの決済は、物品やサービスの購入、資本移転、証券取引、外国為替取引のために行われ、これらの取引は民間の顧客、銀行、政府機関によって行われる。これらの取引によって、支払人と受取人の銀行間における請求が発生し、これらの請求は中央銀行にある各銀行の口座を通して決済される。このため各銀行および中央銀行は、決済システムの核を担うものになる。(引用:グローバル・タックス研究会)

■CTDL の実現可能性

「技術的には、CLS(多通貨同時決済)を通してポンドに対する通貨取引税を一国単独で導入することは可能です…CLS 銀行は15 の通貨で決済を行っています。ここではそれぞれの司法管轄区の関連する法律を順守しなければなりません。その法律には例えば、一国単独で実施されたポンドに対する通貨取引税も含まれるのです。」――英国国家財政委員会

・通貨取引税は、既存の市場インフラとネットワークを利用して容易かつ低コストで実施可能である。
・特定の通貨で全世界的に課税することができる。
・市場をゆがめない程度、また金融機関がCTDL は納税回避インセンティブを与えない程の、控えめなレベルに税率を設定する。市場への影響はほとんどない売買高、総売上高はおそらく落ちるが、大した規模ではない。市場における流動性は市場の総売上高とは違い、短期間の市場の不安定性は手数料を上回り、現在の外国為替市場で優勢を誇っている。

「私がデリバティブを取引していた頃、トイレに立って戻ってくる間の時間で、非常に流動性の高い為替レートの変動幅はだいたい0.05%(1%の20 分の1)、それほど流動性の高くない通貨の場合はだいたい1%の10 分の1でした。この変動幅は提案されている税の規模より何倍も――10〜20 倍もあります。このような税は、私が取引を保持すべきか否かの決定に影響を与えるものではありません。そのことを考えている間にも、その税と同じくらい通貨は変動しているからです。」――アヴィナシュ・パソ
ード(Avinash Persuad)

■資金の使用
資金の使用方法を決定することは、資金を創出することと同様に重要である。
カプーアは以下三点の重要点を述べている。
第一に、浄水と公衆衛生を提供するべきです。これはMDG の大部分において意義のある進展を遂げるための能力を支える基礎だからです。
第二に、保健のための人的資源を提供するべきです。これは、十分に訓練を受けた医療従事者なしには、医薬品やインフラだけではHIV/AIDS、結核マラリアという流行病の猛威を抑制することは不可能だからです。
第三に、国連中央緊急対応基金(UN Central Emergency Response Fund)の拡大に予測可能な長期的資金源を提供すべきです。これは、高まりつつある自然災害の脅威と人道的非常事態に、より確固とした対応をするためです。
更に、教育水準の向上は不可欠であると考えている。将来、戦略的な海外資本を呼び込むための国内産業基盤構築のためである。

5.結
トランザクションベースで超低率のタックスが課されることで、その資金の逃げ足が早ければ早いほど、投機色が濃ければ濃いほど、課税対象となるトランザクションが増すので、トレード選好はいわゆるデイ・トレード(ロールオーバーしない取引と定義する)が減少し、スウィング・トレード(中長期的)が増加すると予測する。ただ、上述の通りCTDLは超低率故、トレード選好の移行率は限定的であると予測する。更に言えば、デイ・トレードで投下されるマネー量は、限定的な価格差である程度以上のさやを抜くため、中長期のそれに比べ、多くが投下される。デイ・トレードに充当されていた資金は他金融商品へと流入し、市場参加者のポートフォリオが変異すると推定できる。(あくまで限定的なレベル)