「今こそ必要な"構造改革"」

法学部2年 小倉勇磨
円安・元安バブルによる、日中の輸出と、米国の過剰消費に支えられた「不均衡な」世界経済は、米国発の金融危機により脆くも崩れ去った。金融危機の影響が実体経済に波及し、世界経済は大きな混乱の渦に飲み込まれている。日本もそれは例外ではない。「派遣切り」問題をはじめ、金融危機の影響は社会のあらゆるところに及んでいるといえよう。

現在、麻生政権ではこの金融危機に立ち向かうべく、様々な景気対策を唱えている。08年度第一次補正予算、08年度第二次補正予算、09年度予算において、その総額はおよそ75兆円と、金融危機震源地である米国の136兆円と比べれば少ないものの、欧州各国と比べればその規模は小さくない。(英仏は3兆円程度である。)内容としては、定額給付金や高齢者の医療費負担軽減をはじめ、高速道路の料金値下げや住宅ローン減税など、国民の金銭的負担を軽減し、金融危機により落ち込んだ国内需要を喚起することに主眼が置かれているといえよう。この対策によって、国内需要が喚起され、デフレに歯止めがかかれば金融危機は終息し、日本経済は息を吹き返すかもしれない。

だがその後はどうするのか。現在の金融危機が収束した後、いったい日本はどのような経済を目指していくべきなのか。製造業に大きく依存していた日本経済が、金融危機における外需縮小で日本経済が危機を迎える今、そのグランドデザインを描くことが必要となっているのである。

私が思うに、今後の日本が目指すべき経済とは、以下のようなものだと思う。
それは、第一に雇用の柔軟性と、社会保障を組み合わせたフレキシキュリティの推進である。現在、金融危機最中の派遣切りが大きな問題となる中で、雇用のありかたが大きな問題となっている。だが、雇用の流動化を進めることは、確かに非正規雇用のように所得等に不安を抱える人間を生み出したという負の側面を有する一方で、企業の雇用に関するコストが低下する為に、失業が減るという正の側面も有するというのもまた、事実である。
また、日本が今後少子化を迎え労働力人口が不足していく中で、経済成長率を維持する為には労働力を生産性の高い産業へと労働力をシフトしていくことがどうしても重要になってくる。故に今後の日本において労働者の別産業への移動を容易にすること、すなわち雇用の流動性を高めることが必要となってくるのである。
だが、雇用の流動化には大きなリスクが付きまとう。正社員に比べて、非正規雇用の人々が所得面等において待遇が悪いのは事実であるし、ワーキングプアと呼ばれるような国内の相対的貧困層に非正規雇用の人々が占める割合が高いことも事実である。また、雇用の流動化のみを進めても、その受け皿となるべき「優良な雇用の受け皿」が存在しない限り、過酷な労働条件に従事する人々を多く生み出してしまうだけに終わってしまうだろう。製造業派遣問題などはまさにその典型と言える。
従って、このリスクを緩和する為には、第二に、政府による社会保障の充実と、第三に優良な雇用の受け皿の創出という二つのことを進める必要がある。前者に関しては、たとえば負の所得税という、一定額所得に満たない人は所得税を納める必要がなく、逆に不足分の給付金を受け取ることができるという制度を導入することで解決できるのではないだろうか。後者に関しては、新興企業向けの直接金融市場の整備等によって、高い技術力や革新的な経営モデルを有するベンチャー企業が起業しやすい環境を整備し、逆にゾンビ企業と呼ばれるような企業の市場からの退出を迫ること等が必要となる。これらは労働力や資金を生産性の高い(収益率の高い)企業に集中させることで、日本経済の生産性を向上し、潜在成長率を高めることになるのである。


経済のグローバル化に対し、経済の構造を改革していく構造改革は、確かに「痛み」を伴うものであるかもしれない。だが、この「痛み」はどうすることもできないものなのだろうか。答えは否である。「構造改革=悪」という構図は確かに単純で、わかりやすい。しかしそれでは本質的な問題を見落とすことになりかねない。金融危機の最中である今こそ、今後の日本経済はどうあるべきか、どのように改革を進めていくべきか、考える必要があるのではないか