理想の仕事の条件とは? 

商学部3年 柳毅一郎

「働くということ」このことは就職が迫った大学3年の私にとって、将来を考える際切実な問題である。
大半の人々は、生活していくためには働かないわけにはいかない。また、人間は、労働という行為を通じて、自らの存在意義を確認するものである。
つまり、働くということは、個々人の独立と自尊の充足にとって必要不可欠な行動なのである。

人間は生きていくために働くのであり、働くために生きているのではないという言葉を聞いたことがあるが、長時間労働等、働くために生きているという現状もある。故に、本コラムでは日本人の理想の仕事と現実について取り上げてみたい。

アメリカの心理学者、マズローが提唱した欲求段階説によれば、人間の欲求は、生理的欲求、安全欲求、社会的欲求、尊敬欲求、自己実現欲求からなり、この順序で低次元の欲求から高次元の欲求へと階層をなしている。このことを踏まえて仕事について以下に記述したい。

最も低次元の欲求である生理的欲求は、食物や睡眠など生命維持のために必要な欲求である。次の安全欲求は、危険から身を守ろうとする自己防衛本能であり、仕事や勤務先の安定が含まれる。この欲求に対応する条件としては、仕事によって<健康>が損なわれないこと、<失業>しないこと、重労働に対する忌避感情の表出としての労働<時間>の短さがあげられる。

社会的欲求は、家族や仲間など自分を暖かく迎えてくれる集団に受け入れられることで精神的な安定を得たいという欲求である。これに対応する条件としては、気の合った<仲間>と楽しく働くことや、自分の所属する集団の中で<責任>ある立場ではたらくことがあげられる。

尊敬欲求は、社会の中で認められ地位や名誉などを勝ち得ることで自尊心が満たされる状態のことをいう。仕事を通じて<名声>や高い<収入>が得られることや、自分の意思によって働くことのできる<独立>が、ここに含まれる。

自己実現欲求は、五つの欲求の中で最も高位のものとして位置づけられているもので、自分の能力や可能性を最大限発揮して自己の成長を図るとともに、社会全体や人類に対しても役立っていきたいと思う欲求である。自分の<専門>が生かせる仕事に就くことや、仕事を通じて世の中のために<貢献>することが、これに当てはまる。

NHKの調査で理想の仕事の条件として、時間、失業、健康、収入、仲間、責任、独立、専門、名声、貢献という項目で調査を行った。03年で最も多く選ばれた項目は、社会的欲求の<仲間>である。また、三番目には安全欲求の<失業>、四番目にも、同じく安全欲求の<健康>が選ばれている。これに対して、自己実現欲求の<専門>は二番目、<貢献>は六番目になっている。このように、日本人が理想の仕事の条件として選択している項目には、マズローの提唱した五段階の欲求の中で比較的低位におかれている欲求に対応した項目が、現時点でも高い割合で選ばれているのが現状である。

こうしたことを踏まえてみるならば、仕事に対する「理想」が眼前に立ちはだかる厚い壁の前に小さく押し込められているという現実に直面せざるを得ない。
「理想」とは、文字通り解釈するならば、「行為・性質・状態などに関して、考え得る最高の状態」のことをいう。仕事によって<健康>を損なわないことや、<失業>の不安に脅えずにいられることは、本来ならば、国民が「健康で文化的な最低限度の生活を営む」ための必要条件にすぎない。このことを、多くの人々がわざわざ理想に仕事の欠くべからざる条件としてあげなくてはならないところに、仕事に対する理想と現実があるのではないか。