WEB企画「世界の貧困問題を考える」   政治経済学部1年 竹田雄大



このレポートは、世界の貧困問題の解決の糸口を探るため、アフリカの国々の現状、取り分け、シエラレオネの貧困問題について研究した物である。シエラレオネとは、西アフリカに存在する、世界でも最も貧困の深刻な地域であり、取り分け、その医療水準は、他国に類を見ないほどの悲惨さである。以後、順を追って述べていく。

1、何が貧困国を産むのか

以下、総論として、世界の貧困国の現状をもたらした要因と、それが現在に至っても改善が為されない状況を観ていく。


1.1、貧困国の存在を産んだ契機

貧困に陥った直接的な原因について考えていく。 貧困国を産み出した要因は様々である。例えば、第二次世界大戦時の植民地支配やバッドガバナンス、紛争や気候変動などが挙げられる。以下に補足的に解説を付ける
・植民地支配は、被支配地の産業を破壊し、コーヒーやカカオ等単一の作物のみの大規模栽培を行う、モノカルチャー経済を強制された。第二次世界大戦終了後も、その産業構造は容易には変化できず、現在にも、食糧不足の直接的な原因となっている地域が存在する。
・バッドガバナンスとは、リーダーシップの欠如や、不透明な意思決定プロセス、行政の非効率や公務員の汚職の横行など、その名の通り、「悪い統治」のことを指す。バッドガバナンスに陥った事が、貧困の原因となった国も存在する。例えば植民地支配からの独立直後は一時目覚ましい復興が見られたガーナでは、その後、側近政治が政治腐敗や汚職の横行を招き、政治機能が低下、経済の停滞と貧困を招いた、というケースがある。
・紛争が貧困を招くという点について、これは想像に難くないだろう。紛争は、大量の難民を生みだしたり、治安を悪化させたりする。また、紛争でもたらされる、インフラの破壊や農地の荒廃は、貧困の深刻さを増し、その解決を困難なものにする。
・気候変動が原因となっている地域も存在する。例えば、サハラ砂漠南縁部、サヘル地方に於いては、気候変動による降水量の低下、それによる砂漠化の進行が農業生産の低下を引き起こし、貧困化を招いた。


1.2、貧困状態改善に至らない原因
次に、貧困状態が現在にまで続いている原因について考えていく。これについても、地域によってその原因が違ったり、また複数の要因が同時に存在し、改善を困難にしたりしている場合もある。以下、その要因別に影響等を観ていく。
・紛争が現存すること、あるいは治安状態が悪いことが、改善を妨げている地域がある。アフガニスタンソマリア等に於いて顕著であるが、武力衝突の存在は、難民を増加させ、彼らの生活に直接的な影響を与える。さらに、国内インフラの破壊や更なる治安の悪化を招き、貧困の改善を困難にする。
・インフラの不備が解決の阻害要因となっている国もある。道路整備の遅れは、現地での支援活動を妨げる。電力や灌漑設備の不備は、農業その他の産業の発達を阻害する。例えば、サブ・サハラ・アフリカ(サハラ砂漠以南のアフリカ)について見ると、灌漑設備の整っているのは農地全体のわずか5%に留まっている。灌漑の為されていない農地では、生産力が本来の40%に抑えられてしまうとのデータもあり、食糧事情改善を妨げている。
・ガバナンスの悪さが改善を妨げている場合もある。ガバナンスの悪い国では、各国から送られる支援金が効率的に使用されず、また、支援の適切な運用がなされなければ、支援の額が減少していくことは避けられない。ガバナンスの改善は、貧困解決の絶対条件である。
・諸外国による支援が逆に、貧困の改善を妨げている場合もある。例えば、極端な低価格での食糧支援は、農業価格の異常な低落を招き、現地の農業発達を遅らせてしまう。紛争状態の国に対して行った援助が、軍事資金に回り紛争を長期化させてしまった例がある。また、貧困国が援助への依存度をあまりに高くしてしまう事は問題である。国家予算の30〜50%、開発予算の大部分を、ODAに依存しているという国も存在するのだ。これでは、世界経済の動向に、国家の経済が左右されてしまう危険性を背負うことになってしまう。実際に、昨今の経済危機を踏まえ、貧困国の成長の鈍化を危惧する声もある。



2、なぜシエラレオネを取り上げるか

今回のレジュメでは、シエラレオネの貧困について取り上げる。なぜこの国に着目するのか、その理由を述べる。
前項で述べた様に、貧困の原因は、国、地域によって大きく異なるものであり、貧困問題に取り組む場合、貧困一般を観るのではなく、それぞれの国に着目して考察する方が有効である。
そこで、貧困の最も深刻な国を取り上げ、今回の分析対象とすることにした。貧困の深刻さを考えるにあたっては、人間開発指数HDI)を使用した。
HDIとは、国際連合開発計画(UNDP)によって発表される指数であり、個人の基本的な選択肢の広さを示すものである。人間が、先天的な要素と無関係に、主体的に人生の選択をすることができる世界があるべき姿と考え、この指標を使用することとした。
HDIについて詳述する。この指標は、人生の選択肢の幅、つまり「人間開発」の進行度合について、長寿(平均寿命)、知識(成人識字率、就学率)、人間らしい生活水準(1人あたりGDP)から算出したものである。これら3つの要素は、人々の主体的な生を可能にする、基本的な財と密接に関わるものである。
シエラレオネは、HDI指数が177カ国中177位と、最下位である。よって、シエラレオネの改善を目指す研究をすることは重要である。

また、シエラレオネの貧困が解決すれば、他の国の貧困の解決を目指す上でのモデルケースとする事が叶う。以下、シエラレオネを貧困解決のモデルケースとすることの利点について述べる。
シエラレオネの貧困の性質は、他の貧困国にも当てはまるものが多い。例えば、シエラレオネと同様に、医療環境の整備が急務となっている、という地域は他にも多く見られ、代表的な国としては、ソマリアコンゴ民主共和国ザンビアやマリ等の国が挙げられる。また、シエラレオネの、国の規模が比較的小さい分、実行した政策とその効果の関連性が見やすく、政策評価がしやすいという点も、この国をモデルケースとすることの利点である。



3、シエラレオネの基礎データ(参考。外務省ホームページより)

面積:71,740平方キロメートル
人口:約580万人(2007年、UNFPA
首都:フリータウン
宗教:イスラム教60%、キリスト教10%、アニミズム信仰30%
政体:共和制
主要産業:鉱業(ダイヤモンド等)、農業(コーヒー、ココア)



4、データで見る、シエラレオネの惨状
シエラレオネの貧困について、具体的に各側面のデータを示す。食糧事情からみると、栄養不足人口率(FAOの定義に依る)は47%と、高い値を示している。治安の面では、2002年の紛争終結以来、順調に改善を続けている。過去、大統領選挙を2回(2002、2007)、平和裏に行うことはできた。衛生環境は世界最低水準であり、5歳未満児死亡率:270‰と妊産婦死亡率21‰はともに最下位、平均寿命も41.8歳と、世界最低水準である。


5、何がシエラレオネの貧困を生んだか
5.1、歴史から観た原因:11年間に亘る紛争の爪痕
1961年、イギリスから独立した後、政治的混乱が長く続いた末、1991年、国内で産出されるダイヤモンドを財源に反政府勢力が蜂起、凄惨な紛争が始まった。この間、多数の少年兵も動員され、麻薬を与えられた上、住民の虐殺を実行させられた。11年間に亘ったこの紛争で、病院や学校などのインフラは破壊し尽され、農地の荒廃を招いた。この事が、現在の貧困の直接的な原因となった。


5.2、シエラレオネの回復を妨げている物:鍵を握るのは医療環境


シエラレオネの貧困を、分野別に観てみる。
食糧問題の面では、確かにまだ解決には至っていないが、WFPの、農業開発事業、その対価としての食糧支援活動、農業に関連するインフラ整備などが進んでおり、解決の方向へ進んでいると見る事ができる。
教育面でも、大学進学まで含めた就学率は44.6%と低いものの、初等教育に於いては、紛争時代に学習の機会を奪われた者の在籍もあり、就学率160%、純就学率で言えば69%とのデータも出ており、改善が続いている。今後の解決に期待ができる。
インフラ整備に関しては、シエラレオネ政府の発表した貧困削減戦略文章の中でも重点目標として位置づけられている。昨年日本政府からも、発電所の設置の為の16億円の支援が行われており、解決が進んでいる。


一方、医療問題は相変わらず深刻なままである。病院の不足は、妊婦の内、正式な、医者に診てもらう人は23%に留まるという環境の悪さ、指導医の不足、呪術師による、伝統的医療活動の残存などの現状から考えて、医療問題が解決しているとは言い難い。病院不足の現実や、指導医の不足といった問題は、背景にある財政の不足を思わせ、呪術による伝統的医療の残存には、医療教育の不備が見てとれる。
医療教育の不備、伝統的な呪術や迷信の残存は、決して、ただ見過ごしてよい物ではない。例えば、シエラレオネでは、大地の精霊の恩恵を得るためとし、本来は清潔に保っておくべき、新生児のへその緒の切断面を、地面にこすりつける習慣があるという。このことは、新生児の腹腔に細菌を侵入させることになり、ただでさえ高い新生児の死亡率を引き上げていると言われている。
このような、望ましくない医療環境が、平均寿命を押し下げ、人々が主体的な人生を送る事を阻害し、国の発展の障害となっているのだ。


6、シエラレオネに、今、何が必要か
まず、資金難から病院の絶対量が不足している現状に対処するため、国連への働きかけ等により、予算を拠出し、病院を建設することが必要だ。
医師不足、看護師不足に対応していくためには、医療支援を行う団体が、現地のスタッフと協力して医療支援活動にあたり、指導医的役割も果たしていくことが求められる。
また、呪術的な、誤った民間信仰による医療が行われていることに対応していくためには、現在普及が進んでいる、教育の現場を利用していけば、合理的な、西洋医学の知識が各家庭に広まり、医療支援の効率を高め、医療環境の向上に寄与するものと考える。


7、結びに
今回、シエラレオネの医療環境について研究を行った。貧困解決のプロセスが順調に進み、シエラレオネに於いて、本レジュメで言う様に、医療環境の向上が叶い、人々の生命の保証が叶えば、人生の選択肢をより豊かにしていく為の道筋の第一歩が踏み出せるものと考える。また、人々の長寿が保障され、生活が向上するにつれ、国の経済成長につながる可能性も高まり、より、豊かな、選択の自由に幅のある人生が送れるようになると考える。
今回は、シエラレオネ1カ国に分析対象を絞ったが、この研究を活かし、ゆくゆくは、この地球上から、人々の人生の選択を阻害する要因が、より少なくなるよう、これからも研究を続けていく所存である。