「Dead Man Working」 vol.2「〜地方での産業創出以前に〜」

教育学部一年 岡田想

前回の「現代日本の貧困者」の回の最後で予告した通り、今回は地方での産業の創出・育成のために必要な過渡的政策について論じたいと思う。その前に、前回私が述べたことの要約をしておきたい。
 今、日本にはワーキングプアと呼ばれる人々が1000万人以上も存在するといわれている。彼らは働いているにもかかわらず年収が200万円にもとどかず、苦しい生活を余儀なくされているのだ。彼らのような存在を生み出す背景として国内外での企業間競争と労働のπの小ささがある。国内外での熾烈な企業間競争が、競争力の弱い地方産業に大打撃を与え地方においての雇用の場を奪ったのだ。その結果生き残りをかけた産業は低コストの非正規雇用にいっそう頼るようになり、また雇用の場が縮小した地方からは生活コストのかかる都市部へ就職するものも増えワーキングプアと呼ばれる状態に陥っているのである。さらに労働のπそのものも小さいため、一つの仕事を数人で分けるという状態が発生している。そのため同じコストでも正社員1人を雇うより、非正規雇用者を2人雇うといった状態となっているのだ。これらがワーキングプアを生み出す2つの要因である。この原因分析を踏まえた上で、ワーキングプア対策として有効だと考えられるのが地方産業の創出・育成なのである(詳しくは前回のコンテンツを参照してほしい)。
 さて、一言に地方産業といっても漠然としすぎていて方向性が見えないことだと思われる。ここで私の目指す地方産業の定義をしておきたい。それはその地方に特有のモノ(材料・人材)を活かした産業である。よってこれまでの地方をささえてきた大企業の工場や公共事業とは少し方向性が違ったものだと考えていただきたい。これまで多くの地方が大企業の工場に支えられてきた。しかし工場の海外へのアウトソーシングが進み、海外に比べ生産コストの高い日本国内への大規模工場の誘致が困難になっている。また、昨今の技術革新により現代の工場は低コストの機械に頼る面が大きくなり、工場を誘致したとしても雇用効果はさほど大きくならないものとなっている現状がある。公共事業も地方の雇用産出に大きな役割を果たしてきたのだが、それは一時的なカンフル剤としての役割をするにすぎず、根本的な雇用産出には結びつかない。確かに工場などの工業は重要な産業である。これが基幹産業になることで人口増加も進み第三次産業の成長を支えるからである。しかし現代において工場誘致や工場だけでの雇用創出には先ほど述べたような要因もあり難しいものがある。そのためその地域特有の産業を育成することでこれに対応していきたい。
 産業を育成する前段階として必要なものとは何であろうか。それは端的に言って、「企業家」と「働く人材」、そして何よりも彼らを生む「教育」である。自らのアイデアを事業家しようと技術や知識を深め、切磋琢磨してしのぎを削りあう企業家の存在により成長性の高い産業は生まれる。また、その新規産業で働く人材育成を怠ればその産業は衰退していくため人材育成が欠かせない。そしてその企業家や人材を育成する上で最も重要なのが教育なのである。
 ではどのようにして彼らを生み出す教育をすればいいのだろうか。まずは企業家について述べたいと思う。私が考えているのは国立の大学教育を活かすことである。昨今の企業家を分析すると、企業退社後に創業する者が多く若者の企業家の伸びはあまりよくない。近年、大学では社会人入学も高まっており企業退社後の企業を踏まえた学習のニーズに応えられるのではないだろうか。また大学での企業家教育を充実させることにより若者の企業家が増えることも予想され、産業創出の活性化に役立つのではないだろうか。例えば、岡山大学からは昨年度8社のベンチャー企業が誕生している。これは東京工業大学7社・早稲田大学6社を抜いての1位の成績である。また、地方のベンチャー企業は2001年度に261社であったが、2007年度には909社まで拡大している。この流れを活かして地方にある国立大学が主導となり地方産業創出に欠かせない企業家の育成に取り組むべきではないだろうか。ここで私が大学といわずにあえて国立大学としているのには訳がある。現在47都道府県のすべての県に国立大学があり、各地方における中心的な教育をなしているからである。私立大学に関しては、島根県のように存在しない県もあり、全国的な格差があると考えたためである。
 地方産業にはひとつの特徴がある。それは首都圏などの産業のように需要主導型ではないというものだ。地方には大規模な消費が存在しないためどうしても供給主導型になりやすい(公共事業などが典型的である)。そうであるがゆえ、市場のニーズに任せて企業家をまつのではなく、企業家を育てるという国立大学主導型の産業育成は適しているといえるのではなかろうか。
 次に人材育成に関してである。今、日本の企業の多くはコスト削減策の一貫として企業内教育の規模を縮小している。そのため就職後のスキルアップには厳しいのが現状である。これに対応するためにも就職以前の教育制度の整備が望まれる。ワーキングプアとなってしまう人の多くは高等教育を受けていないことから、ここでの大学教育は最適とはいうことはできないだろう。企業家により地方産業が創出されれば、そのニーズに応えられる教育が必要になってくる。ここでの教育の中心として考えられるのは主に高校での教育である。地域での就職を要とし、商業科や情報科など様々な科が存在する現代の高校教育こそが、新たに創出された産業に対する教育を行うのが最適ではないだろうか。例えば鳥取商業高等学校などは、アドバイザーから県内企業の特徴の助言を受けそれに対応する学科の創設に力を入れていたりする。
 以上のように、今回は短いながらも地方産業創出・育成の前段階として必要な企業家・人材の育成についてまとめてみた。大学での教育の仕方には様々ある。先ほど例に挙げた岡山大学ではビジネスプレゼンの最優秀賞として200万の賞金を出したり、徳島大学では起業インターンシップがなされていたりと大学により異なるのだ。高校に関しても同様であり教育内容については詳しく述べなかった。教育内容はその地域でどのような産業が育つかによってもまた変わるものだからでもある。しかし、地方の国立大学が中心となって地方産業の創出・育成に貢献する人材を輩出することは今後ますます重要になってくるであろう。
 次回は、今地方においてどのような新規産業が求められているのかを大まかにまとめることを目的とするつもりだ。