第四弾:政策論

政治経済学部2年 山田麻未

ワークフェア―教育の重要性―】

ワークフェアとは、働くことによる自助・自立を促すことによって、トランポリン、即ち失業状態にある人々をもう一度労働市場に引き上げるようなバネを持った機能を果たします。

市場で競争が行われる一方で、働く人間に対しての投資を行うことにより、人間が能力を発揮し、社会の根底からイノベーションを起こすことができることを目的として、社会を「働くためのウェルフェア」つまりワークフェア社会」に変えていくことが必要なのです。新しい時代に必要な市場経済を活性化するための、再雇用のための職業教育などの社会的セーフティーネットと人間への教育投資などの社会的インフラストラクチャーを融合させたものとしての、技術革新を起こすようなワークフェアの提供です。

日本では、失業保険の給付期間が国際的に見ても短く、長期失業者には原則として生活保護が適用されません。生活保護法は制定されて50余年間に渡って変更されず、運用についてはむしろ厳格化が進行しています。それに対してワークフェアでは、公的扶助制度に労働インセンティブを高めるような工夫がビルトインされているのです。


重工業社会では、人間が自然に働きかける手段である機械設備が生産の決定要因となりました。従って機械設備を技術革新によって効率的にすることが生産性の向上に直接結びついたのです。しかし知識情報社会では、人間そのものが生産の決定要因となります。つまり、知識集約型産業が産業構造の機軸を形成するのです。従って、知識情報社会では、人間そのものの知恵を知識化し高め、蓄積することでしか生産性を向上することができないのです。
失業した者、職種に転職したい者の学び、スキルをつける意欲を「チャレンジ」として可能にし、結果経済社会に寄与することにつながるのです。

ワークフェア―地方政府による現物給付―】

ここでいうワークフェアは、狭義の市場労働への参入には限りません。保育、教育、高齢者介護、保険・環境衛生などに代表される対人社会サービスへの労働力の提供によっても参入となります。

従来型のワークフェアは、公的扶助受給者が労働(民間労働、地域サービス、求職・訓練等)を行う代わりに、地方政府は彼らに公的扶助(福祉)を現金で給付するものでした。
一方、ここで提案するワークフェアは、住民が納税(労働提供への貢献)もしくは地域の共同作業(NPOなど)への貢献を行う代わりに地方政府は住民に対人社会サービスを与える。そしてNPOなどは委託事業労働を行い、政府はNPOに賃金・委託料を与えるものです。

つまり、地方政府が地域住民の意志に基づいて、分権的に、対人社会サービスの現物給付による所得再分配をおこなう。地域社会に属する住民は互いに協力して対人社会サービスの供給に参加する義務を負う。それは地方政府が、家族やコミュニティなどのインフォーマルセクター、NPOなどを活用・協働し、住民が労働力を提供することで、市場がもたらす不安定性とリスクを人々がシェアしあうシステムなのです。


公共投資が農村部を中心に慢性的な失業対策としての所得再分配機能を果たしてきたとすれば、それを「公共工事への参加に対して現金を給付する」という意味で、ワークフェアの一種と見ることもできます。しかし、雇用創出は介護、保育、教育・文化、環境保全といった分野でも可能であり、現在はむしろ財政支出の重点を建設事業から対人社会サービスにシフトさせることが課題となっています。また、年金、医療、雇用保険等の社会保障制度を安定化させることが老後や失業に対する不安を軽減させれば、それは消費の活性化にもつながります。さらに、対人社会サービスが展開し、それが地域の人材育成・再訓練プログラムと結びつけば公共事業に代わって対人社会サービス関連分野で雇用機会を拡大することにもつながるのです。




【地方政府と中央政府の役割分担】
市場社会においてわれわれの生活は、生産物市場から消費財を購入することによって成り立ちます。ゆえに、労働市場から賃金を獲得する機会を失うと生活は困難になります。そこで何らかの理由で賃金を喪失した場合に、賃金代替の現金給付を支給されれば、人間の生存に必要な消費財購入が可能となるのです。


従来の社会システムの保護は、現金給付を機軸としてきました。それは、社会システムの機能を引き上げるのではなく、社会システムが供給していた無償サービスを、市場から購入するように、現金を給付するだけでした。そのため、社会システムの自発的協力に基づく機能は弱まる方向に働いたのです。そこで遠い政府の現金給付ではなく、身近な政府の「現物」給付、つまりサービス給付の必要性が出てきます。

これまで中間団体は介護や育児などの各種サービスを無償で担ってきました。しかしその中間団体の機能の縮小によって商品化がすすんでいます。生産物市場では購買力に応じて分配されるため、賃金を得ることのできないものは生活の危機に見舞われます。しかし逆に、貨幣を介さないサービス供給のウエイトが高ければ、賃金がわずかで、生産物市場で購入する消費財のウエイトが低くとも、人間は生存できるのです。

しかし、現物の給付だけでは、市場社会に生きる私たちの生活は保障されえません。そこで、生活保護世帯など生活に必要な賃金を獲得できない者に対する現金給付は中央政府が責任を負います。現物給付は住民の生活実態に即応して供給する必要があるため、住民に身近な地方政府が供給するべきです。つまり、中央政府が現金給付による消費財購入のためのミニマム保障をするのに対し、地方政府が現物給付をおこなうのです。


以上の方向を実践することで、雇用の流動化が進み、失業の憂き目にあった時も、異職種への再就職をする時も、それが大きなリスクとなりません。知識社会の生産決定要因である人材の育成、教育こそが必要になってくるという点においても、ワークフェアの方向性が現在の時代の要請と一致しているのです。



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