「非正規雇用者の『受け皿』」教育学部一年 二ノ宮裕大


総務省が12日に発表した就業構造基本調査によると、非正規労働者の総数が約2043万人と、過去最高を更新。過去20年間では16.5%増加し、雇用環境の厳しさがあらためて示された。
また、過去5年間に正規労働者から非正規に移った割合は40.3%と前回と比べて3.7%増加したのに対し、非正規から正規へ移った割合は24.2%と2.3%減少した。即ち雇用の不安定化が更に進行したのである。
以上の通り、リーマン・ショック東日本大震災によって壊滅的打撃を受けた日本の雇用情勢は改善したどころか、悪化の一途をたどっているのである。

先月、私が自身初の弁論大会に臨む前日であるが、参議院において安倍首相による「5月、前年同月比60万人の雇用が増えています 」という答弁があった。たしかに、現政権によって日本の雇用情勢が改善されて来ているのではないかとの声もある。たしかに、雇用が増えたのは間違いない。だが、内実を見ると4〜6月期において非正規雇用者の増加と、正規雇用者の減少が見られる。つまり、非正規雇用者が増加しているだけなのではないのか。

ところで、現在安倍政権はどうのような政策によってこの問題を解決しようと試みているのだろうか。安倍政権が掲げる「成長戦略」の一環として、雇用制度改革が重要政策テーマに取り上げられている。具体的には「限定正社員」の導入である。この政策について改革会議のメンバーである慶應大学の鶴光太郎教授は「非正規は契約期間が終われば失業する恐れもあるので立場が不安定で、賃金などの待遇も悪い。これでは能力を伸ばせない。一方で、正社員は職種や勤務地、労働時間などが限られていない『無限定』の側面があり、転勤や残業を断れず、長時間労働が深刻だ。 これらの解決策として、限定正社員の考え方や制度を普及させ、増やす必要がある 」と述べている。
さらには、安倍首相は「行き過ぎた雇用維持型から労働移動支援型への政策シフト」を表明している。これらのことから、規制緩和により正社員の解雇を容易化する政策であることは明らかだ。

そもそも、「限定正社員」は本当に非正規雇用者を救済する為の政策なのであろうか。これについてはいささか疑問の余地が残る。なぜならば、規制改革会議での限定正社員の議論は、「解雇ルールの推進」 が発端であるからだ。
さらには、会議の雇用ワーキンググループには労働界の代表は組み込まれておらず、報告書とりまとめにおいても、雇用問題を所管する厚生労働省が排除されたという事実があるからだ。つまり、「限定正社員」の導入に隠された意図は企業にとって「解雇しやすい正社員」を作ることなのではないかと思う。

現実的に「限定正社員」制度が非正規雇用者にとって有効に機能するためには、労使双方の合意が必要である。その為には、具体的な成長産業の創出と解雇された人がその成長産業に移れる具体的見通しがなければならない。だからこそ、企業にとって実りの大きい政策より、労働者に対するセーフティネット拡充を優先しなければ、非正規問題の解決は図れない。