第三弾:地域社会の方向性

政治経済学部二年 佐々木哲平


前回、地域社会が個々人の社会化に重要な役割を果たすというところまで行き着いた。しかしながら、いうまでもなくこれまでの地域共同体なるものは崩壊してしまっているし、地域住民が積極的に近所付合いや教育に参加しているとは言いがたい状況にある。この現状を打破するのは勿論のことながら、どのような地域社会を作り直せばよいというのであろうか。以下にそれを考察する*1

地域社会の分類

一言に地域社会と言えど、それは決して単一のものではない。ここでは大きく分けて二つの地域像に分類することとする。それは①伝統的な共同体モデルと②市民社会モデルである。
①伝統的な共同体とは、これまで存在し続けた農村的な共同体のことであり、村落共同体や町内会が具体的なものとして考えられる。現在もかろうじて存在する隣近所付合いもこの名残であろう。つまりは地縁を最大の絆とする結びつきのことである。
②もう一方の市民社会とは、伝統的な共同体とは異なり、地縁のような必然的なものを必要としない、各人の志向や興味・関心が一致する人々で集まるものである。NPOやサークル等はまさにその典型である。

両者の比較

前回に続き、コミュニタリアン・リベラル論争で明らかになっていった論点を元に、伝統的共同体と市民社会の違いを述べていく。
伝統的な共同体は狭義の「コミュニティ」と呼ばれるものである。ここで「狭義」という言葉を使った理由としては、コミュニタリアン・リベラル論争が最終的に収斂するにつれて、一般的にコミュニタリアンの代表格とされるテイラーが「我々のすべてはコミュニタリアンである」と述べたように、何らかの「共同体=(コミュニティ)」自体は誰もが重要であると認識するようになったからである。つまり、「コミュニティ」と言ったところでアソシエーションもコミュニティに含まれるし、当然のことながら伝統的な地域共同体のことも「コミュニティ」である。学界で議論が収斂したといえども、これでは単に「コミュニティ」を語るだけではどのような社会を目指しているのかは不明確である。ゆえに、伝統的な地域共同体のことを「狭義のコミュニティ」とし、共同体の形態は問わず、いわゆるコミュニタリアンが必要であるとするものを備えているとする共同体全般を「広義のコミュニティ」とする。
ではこの狭義のコミュニティに言える特徴はサンデルが言う「構成的構想」という言葉に集約できる。構成的構想のコミュニティとは、「自発的なアソシエーションのように選択する関係ではなく、発見する愛着であり、単なる属性ではなく、自らのアイデンティティの構成要素であり、「間主観的」なもの」*2である。誰もが選択ではなく元から属している共同体であり、それゆえにアイデンティティの大きな部分となりうるだけの愛着を持ちうるのがこれである。
ではアソシエーションを中心とする市民社会はというと、これはサンデルの「情感的構想」であると言える。情感的構想とは何かの目的の下に集まった人々が協働を通じて絆を生み出していくことである。ここにおいても共通善やアイデンティティは創出されうるし、何よりも狭義のコミュニティと決定的に違うところは目的の合致しないところには属さなくても良く、参入退出が基本的に自由なところである。

方向性

ここで私は伝統的共同体の方を重視する。なぜならばニヒリズムアノミーに陥らないために重要だと考えられる共通善やアイデンティティを最も担保する存在がこの「構成的構想」だからである。 
もう少し言うと、市民社会モデル(情感的構想)では誰もが必然的に属するものは存在せず、アソシエーションに積極的に参画した者のみが広義のコミュニティの恩恵に与ることができる。言い換えれば積極的に参画する意欲のない者、それが不可能な者にとってそれはなんら意味を持たないのである。さらに、この「情感的構想はサンデルが提示したもう一つの「道具的構想」紙一重の関係にある。道具的構想とはその共同体に対しての愛着は持たない、その名の通りまさに利潤・便益を得るための道具的なものである。情感的構想も道具的構想も、そもそもはと言えば共通する目的や関心に基づくものであり、それが情感的構想まで発展するかは分からないし、情感的構想の共同体がいつ道具的になってしまうかも分からない。それにアソシエーションは蛸壷化しやすいという難点も抱えており、広い範囲にわたって共通善を生み出す保証もない。
もちろん情感的・道具的共同体の存在を否定するつもりはまったくないが、構成的構想の共同体の存在は不可欠であり、それを担保できるのは地縁に基づく地域共同体のみであると言えるのである。



では、実際にこの地域共同体を再建させ、共通善を再生産する「社会化」を再機能させるにはどうしたらよいのか、次回の政策論にてその方針を提示する。




このコンテンツは連載形式です。連載一覧は、こちらへ→http://www.yu-ben.com/2006zenki/contents/top%20page%20all%20members.html早稲田大学雄弁会HP内)

*1:第三弾各部の詳細については、以下をご参照ください。早稲田大学雄弁会HPhttp://www.yu-ben.com/frame.htmlにおける、構造把握研究会『ライフ・イズ・ビューティフル』  レジュメ「リベラルコミュニタリアン論争と共同体観」http://www.yu-ben.com/2006zenki/kouzouhaakukenkyukai/life%20is%20beautiful/sasaki1.html

*2:菊池理夫著『現代のコミュニタリアニズムと「第三の道」』(2004 風行社)P.146