第三弾:コミュニティのあり方、コミュニティの概念

法学部2年 杉田壮


前回、人間関係の希薄化の原因を都市化に伴うコミュニティの変化にあることを述べたが、今回はコミュニティの変動が人々にどのような変化をもたらしたのか。その質的な面、内実について分析していく。

コミュニティに対する考えの違い

そもそも、日本に存在するコミュニティといえば、前回都市化の過程でふれた農村共同体のような共通善の保持を目的とする、伝統型コミュニティであった。この伝統型コミュニティとは人々が地縁的結びつきと一体感情に裏づけられた、比較的まとまりのよい内部集団・社会を指し、この内部集団・社会は、特定の人々や組織を中心に運営されるので、外部には閉鎖的、時に排斥的で、代表的なものは農村の部落や町内会などである。これとは反対に、人々を排除しない包含の原則に則り、誰もが主体的に参加していくことでその中における新たな善を生み出していこうという考えを重視するのが現在のNPOやボランティアといったものである。
日本におけるコミュニティの展開は、都市化に伴う人々の生活の変化を背景に、伝統的社会が解体されることによって崩壊した共同性を、地域において再構築していったという過程であった*1

コミュニティの概念の変化

それでは共同体はその性質面においてどのような変化を人々にもたらしたのか。
最も大きな変化はコミュニティの性質が受動的なものから能動的なものへと変化したことである。かつて人々は伝統的共同体のような、そこに「あるもの」として受動的に、また無意識的に存在していたコミュニティの中で「安心」を得ていた。しかし現在、コミュニティは能動的に、また主体的に「作るもの」となり、その中における人間関係を通じ「信頼」を得ていかなければならない図式が成立した。
例えば地域における伝統的な共同体(町内会や自治体、はたまた家族)というのはその中で誕生する人にとっては所与のものとして存在するわけで、人は自ら注意して、意識的に選択してこうしたコミュニティの中に入っていくのではない。自然と存在し、かつまた自然とそこで生きる人々にとって、そこに生まれる人間関係というものは「安心」を基になされるものである。そもそもコミュニティというものは、個人は完全な知識・情報を持ち得ていないため、何らかの知識・情報を欲する際、その知識や情報を交換する場、空間を提供するものであるという概念を持つが、この「安心」はコミュニティの構成員が互いに知り合いであるという保証の上に成り立っている。それゆえコミュニティの構成員の関係は物理的な場、空間を考えても規模が狭く限定されたもの、またそこで交わされる情報量は少ないものとなる。何千何万の人と顔見知りであるよう、というようなことは現実的に考えにくいからだ。また、いきなり顔見知りでない人々と「安心」の人間関係を築くことは困難であることから伝統的コミュニティに属さない人々に対しては閉鎖的、時折排他的なコミュニティとなる。
伝統的コミュニティのこのような特徴に対しNPOやボランティアといったコミュニティは誰にとっても開かれた、開放的なものである。さらに現実に数多く存在するNPOやボランティアなどのコミュニティは多様な価値観を提示していることから、個人がどういったコミュニティに属するのか選択することが可能となる。伝統型のコミュニティに見られるような排他性がないことから、また多様な選択肢の機会を享受できることから、コミュニティに加わっていくことで得られる情報量は多くなる。このようなコミュニティにおいては、伝統型コミュニティの構成基盤であり、人々が顔見知りであるという保証を必要条件とする「安心」は存在しない。ここにおいては誰もが主体的にコミュニティに加わっていくことで他者との「信頼」を構築していく関係が生じるのである。「安心」と「信頼」の違いは、「安心」は注意または用心深さを必要としないのに対して、「信頼」は注意を必要とする点にある。安心は相手の非能動的な意思、信頼は相手の能動的な意思の所産であって、伝統型に見られる閉鎖的なコミュニティというものは人々の能動的な意思で継続されるものではなく、「安心」という無意識なもので形成されるのである。それに対してNPOやボランティアといったコミュニティに参加していく場合には個人は意識的にコミュニティを選択することから「信頼」を構築していくことがコミュニティの構成概念となるのである*2


以上コミュニティの概念の変化について述べた。
青少年犯罪者の更生施設では、若年層の犯罪は「対人関係を円滑に結ぶスキルが身に付いていない」ことが原因に言われているが*3、その背景にはコミュニティの変化によってかつてのコミュニケーションの姿が変容してきていることが挙げられる。他者との「信頼」をコミュニティを通じて構築していかなければならない図式が誕生した上で、それに対応できずにいる人々がコミュニケーション不全を引き起こし、犯行に走ってしまうような状況。これを解決するには主体的に人間関係を構築していくことで「信頼」を得ていかなければならないのである。


次回は「安心」から「信頼」へとコミュニケーションの姿が変容した中で人間関係の希薄化を解消する具体的な政策を提言していきたい。


このコンテンツは連載形式です。連載一覧は、こちらへ→http://www.yu-ben.com/2006zenki/contents/top%20page%20all%20members.html早稲田大学雄弁会HP内)

*1:具体的な都市化の指標については前回のコンテンツの他に、以下をご覧ください。
早稲田大学雄弁会HPhttp://www.yu-ben.com/frame.htmlにおける、構造把握研究会『ライフ・イズ・ビューティフル』レジュメ「都市化と共同体の変動」http://www.yu-ben.com/2006zenki/kouzouhaakukenkyukai/life%20is%20beautiful/sugita1.html

*2:「安心」と「信頼」や、他のコミュニティの概念の違いについては以下をご覧ください。
早稲田大学雄弁会HPhttp://www.yu-ben.com/frame.htmlにおける、構造把握研究会『ライフ・イズ・ビューティフル』レジュメ「都市化と共同体の変動」http://www.yu-ben.com/2006zenki/kouzouhaakukenkyukai/life%20is%20beautiful/sugita1.html

*3:平成17年度犯罪白書参照 http://www.moj.go.jp/HOUSO/2005/index.html