「幸福のために」

教育学部1年 岩本慧


前回、高齢者の社会的孤立状態の原因を時代背景や社会構造から分析しました。

今回は、高齢者の社会的孤立状態への対応策のいくつかの事例を挙げつつ、私の政策を提言したいと思います。


まず地方公共団体による対処策です。兵庫県神戸市では、60年代後半から都市化に伴う近隣コミュニティの希薄化による高齢単身者の孤独死がすでに問題となっていました。72年には、全国に先駆けて民生委員が高齢単身世帯の実態調査を実施し、ボランティアが週1回程度訪問したり、話し相手となる「友愛訪問活動」を開始するなどの活動を行っていました。
また神戸市では震災後に仮設住宅居住者を含め生活支援を要する高齢者世帯を中心に、多様な在宅支援サービスを展開しており、なかでも各区の社会福祉協議会では、“地域見守り推進活動”と称して、高齢単身者や後期高齢者などの安否確認や閉じこもり防止、不安の解消のために週1〜2回程度の訪問による安否確認や相談相手・話し相手となる活動を市内約3万2千世帯を対象に行っています。活動の担い手は、市内77カ所のあんしんすこやかセンター(在宅介護支援センター、以下センター)に属する見守り推進員(市内で約80人)や、県の震災復興基金を財源とする見守りサポーター(看護や福祉の専門知識を持つ人など同約80人)、地域のボランティアとしての民生委員や友愛訪問グループです。
地域見守り推進活動のほかにも、神戸市消防局による火災、急病、事故など非常の場合に身につけたペンダント等を押すと緊急通報用装置が自動的に消防局に通報し、近隣協力者や消防署が救護を行う緊急通報システムケアライン119(以下、ケアライン119)を無料または有料で実施しています。
市では、その他にも見守りに関連したNPO などのグループの育成に新たな助成支援を始めたほか、民間企業などと共同し、通信機能付きガスメーターやセンサーを使った日常的な見守りシステムの試験的な導入など、高齢単身世帯の見守りに対して積極的な活動を展開しています。


ですが問題点も存在します。まず一つに、財源不足という問題です。従来は、国家による社会保障と家族・企業といった中間共同体によるインフォーマルセクターによる社会保障という画一的な福祉サービスがなされていました。しかし、ライフスタイルの多様化や国の財政赤字の増大から画一的な社会保障は困難になり、地方自治体レヴェルでの社会保障の要請が高まりましたが、近年の三位一体の改革に見られるように、国の権限を残したままの交付金化や負担金の縮減であったために地方自治体の裁量拡大や税財源の乏しい不十分なものだったのです。これでは財源の乏しい地方では神戸市のような政策は実行に移すことは難しいでしょう。


では、どうしたらいいのでしょうか?その答えは、国や地方自治体だけでなく、孤立した人々と世帯の外部の地域の人々との社会的ネットワークの構築にあるのです。


再び一つの事例を取り上げてみます。千葉県の松戸市常盤平団地では、市内でもっとも高齢者率が高い地区で、01年の春に男性が白骨化し、再び次の年に別の男性が亡くなっていたことに住民がショックを受け、それから住民・自治会が主導して積極的に対策に乗り出していることで知られています。地域の新聞販売店と協力した異常時の連絡体制の整備や、「いきいきサロン」という地域住民交流の場所を設けて、コミュニティ内の結びつきを強めていこうとする取り組みを推進し、全国各地の自治体をはじめ、厚生労働省や各地の地方自治体からも注目を集めています。

確かに、この取り組みが全国に拡大すれば孤立状態にある高齢者の方々は少なくなるでしょう。しかし現実は、前回のコラムで触れた、近代という時代の中で、個人、そして家族が地域から離れていった状況があるのです。そして本来、日本における伝統的共同体すなわち「ムラ」的な共同体は「集団が内側に向かって閉じる」共同体であることから、外からのアプローチに対して排他的になってしまうのです。言い換えれば、集団ができるとその内部では非常に濃密な気遣いや同調性が求められる一方で集団の「外」に対しては無関心か、極端な遠慮(あるいは潜在的な排除・敵対関係)が支配する、といったあり方です。日本社会は農村の地域共同体が崩れた後もこのような形態を維持し、核家族・「カイシャ」という“都市の中のムラ社会”をつくり、それすらも流動化してしまった(上述のインフォーマルセクターの解体)現代、いわば共同体が個人へと縮小して閉じた形で存在しているのです。

そこで求められるのが誰しもに開かれたコミュニティ(アソシエーションと表現すべきでしょう)、そしてコミュニティ内の個々人の関係性を構築すべきなのです。

私が注目したのはコミュニティ・ビジネスの存在です。コミュニティ・ビジネスとは、地域住民が参画する市民セクターとしてのNPOなどが経済主体となる市民性、独自事業によって収入を確保することによって活動の自律性を確保する事業性、私益の確保のみならず収益の一部を地域に還元し事業展開が地域の雇用拡大につながる、地域の課題解決に貢献している社会的・公益性の高い事業であります。地域が必要としていることは地域によって様々。その課題を地域に密着した住民が主体となって解決し、継続・発展させていく事業・・・従来のビジネスにはなかった概念であり、近年コミュニティ・ビジネスは拡大しており、都市部でも地方でも有効であるといえます。


なによりも特筆すべきは、コミュニティ・ビジネスが拡大すれば、事業を通じて住民が共に行動するために、弱体化したコミュニティを再生でき、住民間の人間関係の希薄化を解決して隣人への関心が向く。孤独な人々へ気づくことが可能になるのです。


また、コミュニティ・ビジネス事業を展開するには経営ノウハウ・事業内容に関するノウハウ(介護など高い専門性を要求する業態には必要)であり、なんらかの支援が必要です。そこで求められるのが中間支援機関(インターミディアリー)です。それらの機関で金融機関とコミュニティ・ビジネス事業体とを仲介して財政面で支援し、サービス充実のための研修高い専門性を付与する、中間支援機関を設置しています。中間支援機関は、市民・NPOなどのコミュニティ・ビジネス事業体・行政・教育機関・専門家・・・など地域全体で参画し、地域に横のつながりを創出するプラットホームとしての役割を果たします。現在、千葉県の我孫子市では市行政主体で地域連携の必要性から、先に述べた各セクター間で連携し、市長自ら会長となる「我孫子市コミュニティ・ビジネス推進協議会」を設置して市内のコミュニティ・ビジネス拡大と支援を行っています。

しかしながら、このような支援体系はまだその数は少なく、全国のコミュニティ・ビジネスへの取り組み・ノウハウ・成功モデルケースの認知度があまり高くはないといわざるを得ず、新規参入を阻む要因となっています。

そして、主なコミュニティ・ビジネス事業主体となるNPO団体を財政面で支援するために有効な手段として認定NPO法人制度を行っています。1998年に特定非営利活動促進法が施行され、今年4月からNPO団体は比較的容易に法人格を取得でき社会的信用度を高められ、国税庁から認定されたNPO法人は「みなし寄付金制度」のもとに法人税を軽減され、NPO法人への寄付金も寄付した側も寄付した額に応じた税金を控除されます。コミュニティ・ビジネス事業体への援助は企業のCSR活動の観点から企業もイメージアップでき、NPOにとっても、企業にとってもプラスになる制度なのです。しかし、現在認定NPO法人の数は、全国で63法人と少なく、認定NPO法人枠の拡大はコミュニティ・ビジネス事業体増加のために有力な方法ですが、税優遇のための資金プール団体として悪用されかねず、NPO法人が認定を受けるためのパブリック・サポート・テストの基準は高くなっています。

 それらの点を踏まえた上で具体的な政策を提言したいと思います。

 一つ目は、中間支援機関の拡充と連結です。全国に複数存在するコミュニティ・ビジネス支援のための中間支援機関を連結し、その一元化を図る「全国コミュニティ・ビジネス連絡協議会」を設立することで、全国のコミュニティ・ビジネスへの取り組み・ノウハウ・成功モデルケースを各地の中間支援機関を通して収集して全国の事業体や新規参入したい人々との窓口となることで、全国のコミュニティ・ビジネス事業体への更なる支援が可能になります。

 二つ目は、認定NPO法人の認定水準を下げ、認定基準を下げてもある程度法人の透明性を確保するために「NPOオンブズマン委員会制度」を提唱します。この制度で、監査官をNPO法人へ派遣して事業内容を監査し、地域市民社会振興に寄与しうるNPO法人に認定NPO法人格を与えるようにします。