「世界が優しくなるために」社会科学部一年 宇治舞夏

「あなたは、困ったときにすぐに助けを求めることができる人がいますか?」この質問に即座にYESと答えることができる人は多くないと思います。多くの人は「あの人に助けてもらいたい」と思っても「迷惑かもしれない」「心配かけたくない」「こんなことで頼っていいのか」などと考えためらってしまいます。ですが、人に助けを求めたくなるような困難は日常に多く存在し、それらを避けて生きていくことはできません。そんなとき、私たちはどうやってその困難を乗り越えるのでしょうか?
 私たちの周りには、家族・友人・恋人など様々な信頼し合う他者が存在します。たとえ彼らに直接助けを求めることができなくても、たわいもない話をしながら同じ時間を過ごすだけで心が穏やかになります。「もしこの困難を乗り越えようとしたときに失敗しても、自分にはこの人たちがついている」そういう安心感から、人々は困難に向かって挑戦し続けることができるのです。
 しかし、そんな信頼し合う他者を失う可能性が世の中には多く存在します。就職や進学で物理的に距離が離れてしまったり、その人本人が死などによって失われてしまうときです。このような周りの状況の変化は、人々が最も心の病を発症しやすいタイミングです。そして、このような変化は誰にでも起こりうるものであります。実際に5人に1人が生涯のうちに一度は心の病を発症するといわれていることから、心の病がいかに身近なものであるかということがわかります。小さな心のバランスの崩れから、病へと繋がるのです。
 このような状況の変化を、私もつい最近経験しました。北海道から上京してきて大都会東京でたった一人、学部に知り合いもいませんでした。圧倒的な人の多さにただただ驚き、目に見える人がすべて異世界の人に見えました。そしてだんだん心のバランスが崩れていくのを感じました。ですが、もともと人に頼ることが得意ではなかったためどうしていいか途方に暮れていました。そんなとき、高校からの友人が私をご飯に誘ってくれました。
「何かあった?」
食事中にそう友人が聞いてくれたとき、「この人は私の異変に気づいて誘ってくれたんだ、この人に頼っていいんだ!」と気づき、堰を切ったようにいままであった様々なことを話しました。友人はただひたすら私の話を聞いてくれて、すべて話し終えたときにはとても心が穏やかになりました。
 重要なことは、大切な人の小さな異変に気づけるようになることです。現代は電話やメールやその他のSNSも発達し、物理的な距離があっても容易に連絡を取り合うことができます。本人が頼っていいのかためらっているときに、こちら側から手を差し伸べるのです。この世の中の全員が誰かの大切な人です。私たち全員がお互いに大切な人の些細なSOSに気づけるようになること。これを政策として打ち出すことはできませんが、そんな世界に一歩でも近づけるようにまずは私自身が、そしてこのコラムを読んでくださったあなたが周囲の人々の小さなSOSに気づき優しく手を差し伸べてみてください。そうすれば、この世界はちょっと優しくなるでしょう。