第六弾:纏めコラム

国際教養学部2年 鶴渕鉄平


これまでのコンテンツの発信と議論状況を振り返り、コンテンツの総括をしたく思います。

まず、コンテンツ第一弾では、これから貧困問題を論じていくにあたって、貧困問題を日常生活にひきつけて考える土台を如何に構築するかに注意を払いました。そして、昨年急速に広まったホワイトバンドを話題として取り上げ、そのホワイトバンドが目指すもの、即ち貧困問題の解決、それには何が実際必要か、問題は何なのか、というテーマに繋げることで、日常性のある話題と論ずべきテーマの橋渡しが出来たと考えております。

第二弾では、サブ・サハラ・アフリカの絶対的貧困層が、主に農民であることを明確化しました。そして、農民に富が行き渡らないのは、世界貿易体制が、その方々の生産した富を、相応にその方々に還元することが出来ない仕組みになっているためだと示しました。さらに、その体制を変革するには何が必要かということについて、自ら貧困削減・発展の展望と計画を持ち、先進諸国・国際機関と交渉していく力を拡充していくことを導き出したのでありました。

第三弾では、実際、どのようにそういった力をつけるか、発展の展望はどこに見出せるか、それを示すために、世界システム論を基に資本主義そのものの考察を行いました。考察過程におきましては、発展の展望が工業化を見据えていることに対して、多くの質問を頂くことができ、有意義な議論を行わせて頂くことが出来ました。指摘を受けたことの一つは、先進国には豊かになったがゆえの問題が生じているということでした。このご指摘に対しては、コメントとして返しました通り、ブータンのように、先進国の発展を相対化させながら、自国に適した発展というものを志向していくことで、先進国の抱える問題を抱えずに済むであろうと考えます。しかし、ブータンのような例をどのようにサブ・サハラ・アフリカ諸国・諸地域に適用するかという点は今後の課題として考察を深めていくべきだと考えます。

第四弾は、貧困層・貧困国の自助努力による発展を促す制度として実際に存在する、世界銀行の貧困削減戦略文書を分析致しました。そして、①理念との乖離、②以前の構造調整政策との差異、③優先順位をどう付けるかと言う問題、という貧困削減戦略文書の問題点を割り出し政策論を論じる前提としました。
政策論を発信する前に、上記の問題点の検証や、貧困削減戦略の現在の成果・課題などの把握のために、世界銀行情報センターへの取材を行ったことは、問題点をより具体化させ、その対案を打ち出すことに非常に有意義でした。

第五弾におきまして、分析結果・取材結果を基に、問題点・課題点一つ一つを検証し、以下の2つの政策・改善策を導き出しました。
政策・改善策①・・・PRSP(貧困削減戦略文書)の評価会議における、オーナーシップ政府・当事国貧困層NGOの参加枠組みの創出
 政策・改善策②・・・検証の結果を踏まえた、PRSPの優先順位付け
貧困削減戦略文書の優先順位については、必要要素とその根拠を明確に示していったことで、妥当性を向上させられたと考えております。しかし、その優先順位を示していくこと自体、押し付けとなる可能性は否めないのは事実です。ゆえに、その優先順位を原則として、国・地域の現状といかに適合させていくか、を判断・検証していく場・あるいは仕組みが必要であります。それを、ドナーでもなく受け取り国でもない第三者機関の評価制度などに求めるのか、あるいはその国・地域の人材育成そのものに求めるのか、を判断し、研究していくことが、政策の妥当性を高めるための今後の課題であります。

発信内容全体を振り返って見ますと、身近な話題からスタートして、世界経済・世界貿易の問題を踏まえ、学問的に発展可能性を考察しました。そして実際の政策を基に、それまでの分析から導き出した方向性の実現・課題点の解消を達成する政策を論じることが出来ました。問題設定から解決のあり方まで一貫させた貧困削減戦略論を述べられたことは、貧困削減を進めていく上で意義あるものであったと確信しております。
全体を踏まえての今後の研究課題はあります。サブ・サハラ・アフリカの発展可能性を具体的に掴むため、世界システム論を取り上げ、そこから「自助努力と開発方向性の適切な評価」という要素を導き出したのでありますが、世界システム論自体の批判を基にしての発展可能性の具体化であったため、理論の活用として若干分かりづらい面が出てしまいました。今後、解決方向の妥当性の補強として、異なる角度から世界経済を考察していく必要があります。具体的には、融資機関である世界銀行の政策を取り上げたこととの関連もより明確にしていくため、国際金融などからの考察を考えております。

以上を以って、本コンテンツの総括と致します。
今後もご質問やご意見は随時受け付けさせて頂きますので、コメント欄や、雄弁会の議論掲示http://www.yu-ben.com/cgi-bin/discuss/discuss.cgi?id=giron&stat=1&info=1に是非ご投稿ください。
これまで本コンテンツをご覧になってくださった方々、ご投稿くださり、議論を盛り上げてくださった方々、誠にありがとうございました。

貧困問題は、全く手の届かない別世界で起こっていることではありません。ホワイトバンドの運動が去年ほどは喧伝されなくなったからと言って、過去のものとなった問題でもありません。
私たちは、共有された現在の中で生きており、その中で貧困問題は続いております。
何が出来るかを考え行動していくこと、それは何が問題かを明らかにし、そこからどうすべきかを導いて行動していくことであると思います。その作業を行うことがまさにこのコンテンツの意図でした。
共有の現在の中で、絶対的貧困という人の可能性を最も阻害する状況がなくなることに寄与して参りたいと思います。