「歯車をとめるな」

法学部1年 加藤洋平

現代の相互補完・依存性が強まった国際社会はまるで幾重にも重なった歯車のようである。そしてその歯車の歯をすり減らし、我々の社会に多大なダメージを与えるものが地球温暖化が齎すリスクであり、そのリスクは加速度的に増大していくということを前回のコンテンツで言及した。今回はその温暖化対策として現在とられている政策、その不備、そして自らの政策を提言していこうと思う。


 現在の政策

 現在、地球温暖化に対してとられている政策は専ら京都議定書の中の京都メカニズムを活用して行われている。その京都メカニズムでは4つのシステムが確立されており、それらを紹介しておく。

 障ネ クリーン開発メカニズム(CDM: Clean Development Mechanism)

 CDMとは、京都議定書温室効果ガス排出抑制義務のない開発途上国(ホスト国及び非附属書?国)に対して、排出抑制義務を負った先進国(投資国及び附属書?国)が排出削減プロジェクトを実施し、国連のCDM理事会で承認されると、そのプロジェクトを通じて実現した温室効果ガス排出削減量に相当する認証排出削減量(CER: Certified Emission Reduction)を獲得することができると言う制度である。この時に投資国である附属書?国は排出義務の無いホスト国(非付属書?国)に対して削減を行っているので附属書?国全体の初期割当量(AAU: Assigned Amount Unit)は増える(プラスサム)。現在では先進国と開発途上国の双方のCDMではなく、開発途上国が一方的に実施するユニラテラルCDMもインドやブラジルを中心に盛んになってきている。またCDMは1)大規模CDMと2)小規模CDMの二つに分けられる。この2つのCDMを例を挙げて説明する。

大規模CDM ---鹿島建設の場合

 このCDMの対象はマレーシア・マラッカ市にあるSouthern Waste Management Sdn. Bhd.社のクルボン廃棄物最終処理場である。クルボン廃棄物最終処分場に投棄された廃棄物中に含まれる有機物が嫌気性発酵することにより発生するランドフィルガス(主成分は、メタンと二酸化炭素)は、通常は大気中に放出されているが、これを回収し二酸化炭素の21倍の温暖化効果があるといわれているメタン成分を燃焼破壊することにより、温室効果ガスの削減を図った。回収したランドフィルガスは再生可能エネルギー資源としてガスエンジンによって発電に利用し、発電された電気は現地の電力会社に売却する。このプロジェクトによるGHG削減量は、京都議定書に定める第一約束期間(2008年〜2012年)の終了時までで約38万トン(二酸化炭素換算)を予定している。

 小規模CDM ---関西電力の場合

 このCDMはe7(世界電力有能有志の会議)のメンバー会社4社共同でブータンで実施された小規模水力発電プロジェクトである。ブータン王国では国全体の電化率が20%と低く、未電化地域の電化を進めているところである。このプロジェクトは、首都ティンプーから約150km離れた険しい山岳地帯にある未電化のチェンデブジ村に、出力70kWの小規模水力発電所を建設し、村内の約50軒の需要家を電化するもので、e7から、ハイドロ・ケベック社(カナダ)、フランス電力公社、アメリカン・エレクトリック・パワー社と、プロジェクトリーダーである関西電力の合計4社が参加した。このプロジェクトでは年間500トンの二酸化炭素排出が見込まれている。これは化石燃料からの脱却を目指すと言う意味で承認されたCDMだった。

 障ノ 排出権取引(ET: Emission Trading)

 排出権取引とは、国や地方自治体などが一定期間(遵守期間)における排出量の目標水準を設定して、一定の方法で企業などの排出主体に市場で取引できる排出許可証を与え市場で自由に取引させ、削減目標を達成しようとする制度である。この制度はa.キャップ・アンド・トレードとb.ベースライン・アンド・クレジットの2種類に分かれる。

a. キャップ・アンド・トレード方式

まず、一国ないし一地域における制度参加者の排出源全体の排出総量の目標水準を設定して、それに見合った排出許可証を発行し、各排出源に交付したものを初期排出権ないし初期派出枠として認める。そして、その排出許可証を市場で自由に取引させ、取引後に所有する排出許可証の枠内で各主体に排出させようとする方式である。

b. ベースライン・アンド・クレジット方式
 
 この方式は、排出源ごとに目標とするベースライン排出量を設定して、その排出量以下まで削減した排出源にはベースライン以下の削減量に対してクレジットとして排出許可証を与える。次期のベースライン達成のための削減としてカウントできるバンキングとすることや、ベースライン排出量まで削減できなかった排出源などに売り渡すことを認めてベースライン排出量を達成しようとする試みである。

 またこの排出権取引を円滑に行うためのカーボンファイナンス世界銀行やEUなどを中心に行われている。カーボンファイナンスとは排出権バイヤーが長期にわたる排出権の買い取りの約束を行うことで、将来のキャッシュフロー流入を確保し、財務的なリスクを減らすことによって、金融機関などによる融資や出資の可能生を高め、温室効果ガス削減プロジェクトの形成促進をはかることである。

 障ハ 共同実施(JI: Joint Implementation)

 共同実施とは京都議定書の削減義務のある先進国(附属書?国)同士が、共同で排出削減、吸収増大プロジェクトを行い、その排出削減量または吸収増大量に基づき発行されたクレジット(ERU: Emission Reduction Unit、 RMU: Removal Unit)をホスト国から投資国側へ移転することである。この時に排出国全体の初期割当量(AAU: Assigned Amount Unit)は変わらない(ゼロサム)。

 障ミ 吸収源活動(LULUCF: Land Use, Land Use and Change Forestry)

 吸収源活動とは正式には「土地利用、土地利用変化と林業」とされ、柔軟性メカニズムである京都メカニズムの一環として実施されるCDMや共同実施と、付属書?国における国内の吸収源の確保のための活動の二つに大きく分けられる。しかしこの吸収源活動はそれぞれの国に上限が設けられている。


 これら4つが京都メカニズムにおける主なシステムであるが、私はその中でもCDMと排出権取引が非常に重要な役割を果たす考えている。そもそも、CDMは先ほどにも述べたようにプロジェクトを実行するにあたって割り振られるCERをAAUに加算できるため、先進国(附属書?国)全体としての排出枠が広がるというプラスサムの状況を生み出し、また削減義務がないホスト国(非附属書?国)も多く巻き込むことだできる。このシステムにより先進国はより多くの排出権を獲得でき、ホスト国は新しい省エネ技術を得ることができ、双方のwin-winな関係を築き上げることを可能にする。特に日本は二度のオイルショックを経験していることもあり、世界有数の省エネ技術を持っており、CDMを多数形成できるポテンシャルを有している。しかしながら、日本政府は京都議定書発効の年である2005年の時点で排出権取引無しでの目標達成は非常に困難だと言う見解を示している。実際に2004年1月から2006年9月のCDM及び共同実施起源の排出権取引において日本は附属書?国一の買い手である(全体の31パーセント)。ちなみに二位がイギリスの23パーセント、三位がオランダの10パーセントである。これらに代表される京都メカニズムを柔軟措置として活用することは議定書の目標達成、地球温暖化抑制において非常に重要だと考えて良い。


 現在の政策の不備

 京都議定書は2004年にロシアが批准するまで発効が際どい状況にあり、リスクを背負ってまで京都メカニズムを使う企業はほどんど無かった。当時はオランダなど、政府を中心としたCDMが大多数を占めていた。しかし京都議定書の発効が確実になり、リスクも軽減されてからは企業もCDM事業に参加し出した。その企業がCDMに参加する理由は1)CSRの観点による環境貢献活動の一環になるため、2)新しいビジネスチャンスがあるため、3)社内や業界のGHG削減目標を達成しなければならないため、などが挙げられる。しかし、現在特に日本でCDMに積極的に取り組んでいるのは政府と一部の企業に限られている。とりわけ中小企業の参加率が著しく低くなっている。1)企業内に環境問題に精通する人材がいない、2)資金不足、3)リスクが大きい、4)CDM登録の手続きが大変で申請に時間がかかる、5)CDMのプロジェクトチームを作る人的余裕がない、など理由は様々だ。また日本国外の問題としては世界一の温室効果ガス排出国であるアメリカはじめ、オーストラリアなどが議定書に批准しておらず、著しい経済発展を遂げている新興国には温室効果ガスの削減義務が無いことである。

 自らの政策

 私はこれらの現在の不備を打開するために1)中小企業向けの小規模CDM、2)地方自治体向けファンドの設立である。まず日本国内の問題として、中小企業のCDM事業形成が難しいという問題がある。しかしそのための手段として上述した小規模CDMをもっと活用していくべきだ。なぜならば小規模CDMは大規模なものと比べ手続きが簡易化されており、時間も大規模の約半分で済む。そしてCDMに精通した人材がいなくても、現在ではCDMの相談窓口を設けている自治体が多数ある。中小企業には大企業にもない優れた技術を有する企業が多くあり、中小企業の丈に見合った方法でCDM事業を形成することで日本の京都議定書目標達成に大きく前進することができる。そして国外の問題、アメリカやオーストラリア、新興国をどのようにCDM事業に参加させるかという事象においては、自治体単位で参加できるファンドの設立を推し進めるべきだと考えている。アメリカを例に挙げてみると、国単位では京都議定書に批准していないものの、州単位ではカリフォルニア州などが京都メカニズムに類似した制度を策定するなど削減に乗り出している。中国などの新興国も上海や北京などの沿岸都市は先進国並みに発展していると言えるが、内陸部はまだまだ発展していない所が多い。さらに、日本の地方自治体も、愛知県など企業城下町と言われるような都市がある自治体は議定書の削減義務が与えられた国に勝るとも劣らない規模で温室効果ガスを排出している。このような現状を踏まえ実質的に京都議定書の削減義務の無いこれらの国の自治体がファンドを設立することによりより世界の多くの地域を巻き込んだ地球温暖化対策が可能になり、更なる温室効果ガスの削減が見込めるのである。

 世界はまるで幾重にも重なった歯車のようである。その歯車を我々は動かし続ければならない。そのためには地球温暖化のような世界規模で起こっている問題に世界規模で解決して行かなければいけない。歯車が止まってしまったその時は我々が現在おくれているような暮らしはないのだから。

 結にかえて

 私は2回に分けて本コンテンツを行いました。1年生で初めてのコンテンツということで、苦労したことも多々ありました。しかし、まだまだ未熟ではありますが、今回よりも次回、次回よりもその次と良い企画でできるように日々研究を重ねて行きたいと思います。ここまで読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。