第二弾:労働環境からのアプローチ

政治経済学部1年 佐藤有希子



ワーキングプアが改善されない原因とは?
第一弾において述べた、ワーキングプアが改善されない原因とは何でしょうか。
それは大きく、以下のように考えられます。
1能力不足−本人の希望する職業に対し保持している能力が不足しているが故に、より高収入を得られる職業・ポジションに就く機会がないため。
2マッチング−企業が求める人材と本人の持つ能力とが合致せず、希望する職業に就けないため。
3賃金構造−企業により人件費削減のため雇用形態、賃金形態の差異化が図られているため
4景気−景気悪化に伴い循環的失業者が生まれざるをえない状況であるから。


これらの中で最も根本的な原因は③にあると考えられます。
以下に説明いたします。
まず①につきましては、現在の労働市場を見るに、能力を身に付けることは賃金を上げることは必要条件ではありますが、十分条件ではありません。なぜなら、企業は人件費削減のため雇用を減らしているといった現状を鑑みましても、皆の能力が高くなったとしても、高収入を得られる職に就けるとは限らないからです。
②につきましては、マッチングがなされたとしても、企業が賃金を抑制すれば、ワーキングプアの出現は妨げられません。
④につきましては今年度の経済財政白書はこのたびの景気回復はこれまでとは異なり長期化している要因は循環型景気回復のみならず構造の変化が伴う景気回復であるとしております。この構造の変化とは、3つの過剰−雇用・設備・債務の過剰が解消されたことであります*1。この3つの過剰のうち雇用の過剰とは、高度経済成長期に賃金は右肩上がりで先進国中ドイツと並ぶほどの高水準となり、バブル崩壊後、国際競争にさらされるようになり、これまでの雇用を維持することが高負担となったことをいいます。この雇用の過剰解消のために人件費削減をしてきたということを考えますに、ワーキングプア景気循環による摩擦的、循環的な問題ではなく、構造的な問題であることがわかります。
③についてですが、人件費削減のための施策として、賞与の削減、新規採用者数の削減、正社員からパート・派遣職員へのシフト等の措置が約半数の企業でとられたほか、賃金水準の引下げや希望退職者の募集といった直接的な人件費削減策も2割前後の企業でとられました*2。このようにワーキングプアが改善されない原因は、企業の人件費削減志向による賃金抑制に拠るところが最も大きいのです。

以上のことから、最も取り組むべきは③の賃金構造であることがわかります。


ワーキングプアをなくすには労働環境の改善だけで十分か?
しかしながら、以上の労働環境からのアプローチだけではワーキングプアは完全にはなくならないと考えます。なぜならば、ワーキングプアにも種類があるからです。その種類とは、賃金構造が原因である人と能力開発機会がないことが原因である人の2種類です。前者は労働環境からのアプローチのみで解決しますが、後者は職業能力開発機会がなければ解決できません。この能力開発の機会を提供するアクターはどこになるべきでしょうか。それは、政府です。先にも申しましたように、企業は人件費削減のために正社員を雇うインセンテイブがわかないといったことから、企業は即戦力を求めていることがわかります。それゆえ、企業の国際競争力を維持するために、即戦力となれる実力を付与するのは企業以外のアクターであるべきであります。かといって個人の責任に帰すれば、人にはそれぞれ元来差が存在することから、能力開発の機会は財力や時間により左右されてしまい、ワーキングプアは改善されません。そこで、能力開発は皆に平等に能力開発機会を付与することができる、政府の役割であると考えます。なぜなら、政府は構造的問題により困窮している人々を救うためにあるからです。


そこで、次回、第三弾では、政府がこれまで、どのような対応をしてきたのかを中心に分析しながら、今後とるべき方向性を探っていきます。



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*1:平成18年度経済財政白書参照

*2:平成18年度経済財政白書参照