第二弾(下):都市化に伴うコミュニティの動態②(ライフスタイルとコミュニティ)

前回コンテンツ第2弾の上で述べた人間関係の希薄化はなぜ進んだのか。今回はその原因に挙げられる共同体の変動を日本社会の都市化を考察しながらふれていく*1

1960年代〜都市化の時代

この時期における都市化とは、主に農村から都市への人口の集中を指す。戦前の日本は基本的には農業社会であり、多くの国民は生産共同体としての地域社会の中に埋め込まれていた。しかし50年代以降、アメリカの世界戦略において日本は資本主義陣営のもとで復興を遂げる地区として位置づけられ都市化が国家によって推進されたことにより、急激な勢いで日本人は、農民、自営業者などから雇用者、勤め人へ変わった。これは農地改革が行われて地主制が廃絶され農地改革が進行し、大企業誘致による地域開発がなされたからである。しかしその結果、生活環境は破壊され、60年代後半以降は公害反対の住民運動が展開される*2。工業化により都市で大量の雇用が生まれ、雇用を求めて人口が増加し、消費が拡大し、新しい生活様式が生まれ、さらにそれが次第に地方に波及していく中で従来の農村のコミュニティとのつながりは切り離されていった*3


〜1970年代〜 地方の時代・定住圏構想

高度経済成長を遂げ、人々の暮らしが豊かになっていくにつれ、福祉と市民生活が優先され、住民運動市民運動を背景に都市の生活基盤整備に取り組んでいくコミュニティが形成され、それらの取り組みにより、やがて国家による対応策が打ち出されていく。こうして市民生活の広範な施設や制度が、政府・自治体によって整備されるようになっていった。こうした流れの中で、人口の流れが中心部から郊外へと移る郊外化が進む。日本中の地方の郊外や農山村部道路網の整備が進み、これにより地方でも団地やニュータウンがたくさんつくられ、郊外のライフスタイルが広がっていった。地価の安さなどのために、住宅地のみならず、工場、企業、大学、行政施設等が郊外に新しく建設されるようになり、定住人口も就業人口も増え、結果、商業施設、娯楽施設なども多数立地するようになった。都市部に住んでいた商工業者は、職住一致の生活をやめて、郊外のニュータウンにマイホームを求め、過疎地の農山村に住んでいた人々も郊外の商業、娯楽施設などを利用するようになり、またしばしば彼らも郊外のニュータウンに移住するようになった*4。この時期におけるコミュニティは公害反対の住民運動など、新しく移り住んだ地域で個々人の生活の利益を得ることを目的に作られたものが多い*5

〜1980年代〜 都市再開発の時代・東京一極集中

オイルショックや産業構造の転換によって都市財政は悪化し、70年代の市民生活の基盤整備も地方財政の破綻へとつながっていった。そこから80年代は行財政改革都市再開発の時代が到来する。国鉄電電公社など公共施設の民営化が進み、また民間の間でも福祉ボランティアなどの組織が形成され、社会生活における自助努力が求められた。こうした都市再開発が典型的になされたのが東京である。臨海副都心の開発などのプロジェクトが目指したのは東京の世界都市化だった。80年代は再び東京への人口集中が加速し、東京を中心とした日本社会全体の都市化が図られた。90年代のバブル崩壊以降、東京の都市政策は批判にさらされていくが、外国人労働者やホームレスなど、異質な、新たな格差構造はいずれも世界都市東京*6の現実を反映した問題であるといえる*7。70年代は先に述べた公害反対の住民運動など、個人の権利要求を意識して作られたコミュニティが増えたのに対し、80年代は人々が住む生活環境に根付き、地域にとって利益となることを目的とした市民意識の高いコミュニティが増える。そうした市民活動が90年代、多様化するNPOやボランティア活動の基礎となっていった*8


 
以上共同体の変化を都市化を考察しながらふれたが、次回は共同体の変動によって変化したコミュニティの概念の違いについて考察していく。




このコンテンツは連載形式です。連載一覧は、こちらへ→http://www.yu-ben.com/2006zenki/contents/top%20page%20all%20members.html早稲田大学雄弁会HP内)

*1:具体的な都市の定義と都市化の指標については以下をご覧ください。
早稲田大学雄弁会HPhttp://www.yu-ben.com/frame.htmlにおける、構造把握研究会『ライフ・イズ・ビューティフル』レジュメ「都市化と共同体の変動」http://www.yu-ben.com/2006zenki/kouzouhaakukenkyukai/life%20is%20beautiful/sugita1.html

*2:「都市化とコミュニティの社会学金子勇森岡清志   ミネルヴァ書房

*3:「都市型社会のコミュニティ」  奥田道大       勁草書房

*4:「都市化とコミュニティの社会学金子勇森岡清志   ミネルヴァ書房

*5:「都市型社会のコミュニティ」  奥田道大       勁草書房

*6:世界都市が生まれた背景については、世界的に見た都市化の発展類型をご覧ください。
早稲田大学雄弁会HPhttp://www.yu-ben.com/frame.htmlにおける、構造把握研究会『ライフ・イズ・ビューティフル』レジュメ「都市化と共同体の変動」http://www.yu-ben.com/2006zenki/kouzouhaakukenkyukai/life%20is%20beautiful/sugita1.html

*7:「都市化とコミュニティの社会学金子勇森岡清志   ミネルヴァ書房

*8:「都市型社会のコミュニティ」  奥田道大       勁草書房