第一弾:「空虚な自己」に見られる現代社会の歪み


法学部2年 杉田壮

青少年の凶悪犯罪や不登校、ひきこもりなどの増加が取り上げられ、多くの人がテレビや新聞でこれらの問題を目にするようになった現在。凶悪事件の犯人の素性や実際のひきこもりの生活等のみがクローズアップされ流される中、これらの問題の根本原因はないがしろにされ、ただその事件性が取り沙汰されるだけでは意味がありません。凶悪犯罪やひきこもりといった問題が叫ばれるようになった背景にある根本的な問題とは何なのでしょうか?
これらの事象が注目を浴びるようになったのも、戦後日本社会が発展してきた際の歪みとして
人間関係の希薄化が進行したことがあるからです。


人間関係の希薄化というと、例えば都会の人ごみの中を歩くとき、思わず自分の存在の小ささに戸惑う経験をしたことがある人は多いと思います。立ち並ぶ高層ビル、娯楽や商品に溢れる繁華街、そんな都会で日々、何千あるいは何万という人の流れを目にしながらも、結局自分だけが一人取り残されているかのような存在の希薄さ。数多くの人が同じ時間、同じ場所に同時に存在しながら、周りに自分を知っている人は誰もいない孤独感。漠然とした不安。

何もこうした経験は大都会で暮らす人々に限ったものではありませんが、街を歩くとき、また学校や職場にいるとき、その他日常生活の様々な場面で感じてしまう孤独感や漠然とした不安。これらの感覚を抱いてしまうのも他の誰とも関係が持てないから、あるいは持とうとしないから、に原因があるのは言うまでもないことです。

急速な都市化、社会生活のスピードアップは人とのつながりを弱体化させました。とりわけ地域共同体の衰退がその原因に挙げられます。そうして現在、人間関係の希薄化が原因となって空虚な自己に悩む人が増えている。そのことが冒頭で述べた凶悪犯罪やひきこもりにつながっていくのです。


「趣味はただ寝ていること。いつもいつも眠い。ずっと寝ていて、記憶が戻らないといい。ふだんの生活も、ブラーッと腑抜け状態で生きているだけです。生きる喜びなんて、別にない。毎日の生活で一番楽しさを感じるのは、飯を食べているときくらいかな。女の子にも、おしゃれにも関心はない。親友と呼べるような友だちもいない。幼稚園のときは、将来は消防士になりたいと思ってたけど、今の学校にいると、もう夢も希望もなくなって、とりあえず生きているだけで、ただ息をしているだけで十分みたいになってしまう。」

これは『14歳・心の風景』( NHK出版)からの記述です。
人間関係が希薄化し、他者との関係性を持てない空虚な自己に悩む人々が増えている。私はこのことを問題視しています。
このような問題を解消するには、
主体的、能動的に他者との関係を構築し、信頼を得ていく共同体の構築が必要となってきます。なぜなら自発的な他者とのコミュニケーションを通じ、他者との関係性を持つことなしにこの空虚感は解消されないからです。


これから空虚感に悩む人がなぜ増えたのか、その原因を把握し、またこの空虚感を解消するにはどうしたらいいのか、それについて考察していきます。