『「イマ」というほうき星』法学部一年 野村宇宙

 「いつやるか?今でしょ!
 一時期、この言葉が巷で流行した。今では時折耳にする程度になってしまったこの言葉だが、私はある種、人生の核心を突いた言葉だと思う。実際、この言葉を最初に発した人物は、数多くの偉人の思想や哲学に関する書籍を読み、勉強した結果、彼らの考え方に共通するものとして、「今を大切にすることの重要性」を見出したのだという。それでは以下に、「今の自分」についての私の考えを記したいと思う。
 「自分」には、3種類の自分がいる。過去の自分、未来の自分、そして今の自分の3者である。今の自分はふとした時に、過去の自分に出会う。それは例えば、思い出の場所に行った時。自分にとって大切な場所に行った時、人はそこで過去の自分と出会う。特に、かつて自分が傷ついた場所に行った時、過去の自分はより鮮明な輪郭を持って現れる。だからこそ、過去の自分との邂逅は、時に心痛を伴うものとなる。ここで、「場所に行く」という表現を用いてはいるが、必ずしも物理的にその場所へ行く必要性はない。ふとしたきっかけで思い出し、その場所へ思いを馳せることもまた、過去の自分との邂逅を可能にする。
 次に、未来の自分についてはどうだろうか。過去の自分と異なり、未来の自分の輪郭は、それが近い未来の自分でない限りは、常に曖昧である。それは、未来の自分が想像や推定の産物に過ぎないからだ。未来の自分の輪郭が曖昧だからこそ、人は希望を持つこともできるし、不安を抱くこともできる。また、過去の自分と未来の自分に共通して言えることは、今の自分の変化に従って、両者の姿かたちはいかようにも変化するということである。
 ところで、3種類の自分がいる中で、最も大事な自分は誰だろうか。私は、今の自分だと思う。もちろん、何人もの過去の自分と出会い、言葉を交わし、今の自分の向上に繋げることや、未来の自分をあれこれ想像し、未来に希望を抱くことも大切だ。しかし、それらの行為の両者に関わっているもの、それらの行為の中心にいるものは何か。それは、今の自分である。今の自分がいなければ、過去の自分を意味づけてあげることも、未来の自分を仮定してあげることもできないからだ。言い換えれば、過去の自分も未来の自分も、今の自分がいるからこそ成り立っているのだ。
今の自分の心境や考え方の変化に伴い、過去の自分の意味合いは変化する。具体的に言えば、それまではトラウマだった過去の自分を、他者からの何気ない言葉がきっかけで肯定的に捉えられるようになることなどがそれにあたる。今の自分の心境や考え方の変化に伴い、仮定される未来の自分も変化する。具体的に言えば、一生懸命努力して今の自分が目標を高くしたことによって、未来の自分像も変化することなどがそれにあたる。
だからこそ、私は今の自分を何よりも大事にすべきだと思う。過去の自分、未来の自分を創りだす源である今の自分が、今何をするのか。そこに全てが懸かっているからだ。今この瞬間を何よりも大切にして、1分1秒を全身全霊で生き抜くこと。このことこそが大切であると、私は訴えたい。