「新たな夜明け〜日が昇るのは地域から〜」 vol.2「社会的企業の有用性」

商学部2年 花房勇輝

そもそも社会的企業とはなんだろうか?社会的企業という言葉は、活動がさかんなヨーロッパにおいてもその定義はあいまいである。特に近年注目されてきたばかりの日本において、それは顕著である。よって、まずは社会的企業というものの定義づけを行っておきたい。

社会的企業は次のような明確な社会的目的をもつことから、利潤を生み出す取引以上のことを行う企業である。
?雇用の創出、安定した仕事の確保、それに不利な条件の下に置かれている人たちやグループを労働市場にアクセスさせる。
?ケア、教育それにレジャーのような地方のコミュニティのニーズに直接関係する、コミュニティに根ざしたサービスの供給
?職業訓練や人間発達の機会の提供(職業訓練と人的資源の開発に対する責任)

こうした社会的目的を最優先し、利潤はその次におかれる(ただしあくまで組織が持続可能な程度の利潤は求める)。つまり、利潤極大化行動は場合によって抑制されうる。
この条件にあてはまるものは、日本においては主に2つ存在する。事業型NPOワーカーズコレクティブである。事業型NPOはほぼ上記の定義にあてはまり、ワーカーズコレクティブは上記の定義に加えて「労働者により資本が所有され、労働者が経営に参加して、民主的な討議によって経営方針が決定(一株一票制ではなく、一人一票制による意思決定)される」という特徴がある。よって、今後は両方の組織をあらわす場合を"社会的企業"、いずれかの組織をあらわす場合を"ワーカーズコレクティブ"と称することとする。

少子高齢化社会の到来や環境問題の高まりなど、ライフスタイルの変化に伴う社会的課題が増える中、地域が抱える課題は年々増している。一方で既存の行政サービスでは対応できないケースも多い。日本においても、経産省は、需要や雇用の創出に社会的企業が大きく寄与すると判断。昨年9月に「ソーシャルビジネス研究会」を発足し、日本での社会的企業の可能性を模索している。経産省は、現在2400億円の社会的企業市場が3年後に2兆2000億円に成長すると試算している。




では、社会的企業がいかにして上記のような社会問題を解決するのだろうか。逆にいえば、社会問題の解決に対して社会的企業がいかに有効であるのか。


まずは「?雇用の創出、安定した仕事の確保、それに不利な条件の下に置かれている人たちやグループを労働市場にアクセスさせる」について。
社会的企業が(特に地域に根ざした)活動をすることによって雇用を創出する。しだいに複雑化していく社会にあって社会的排除と闘うためには、もはや失業・貧困と社会的排除の単なる共犯関係を想定するだけでは有効ではない。現金給与と平準化されたサービスを武器に社会的排除と闘うことはいっそう困難である。むしろ比較的小さな特定グループの人びとのニーズを察知して、それに対応できる力量をそれぞれのコミュニティのなかに創出することが必要である。これを担うのが社会的企業である。
また、社会的企業は以下の3つの点において、営利企業に対して優位である。

一つ目は新たな価値観のもとで働ける職場ができる、という点である。
従来の企業において、その最大の目的は利潤極大化である。つまり、個々の職場においても、各労働者においても(仕事内容はどうであれ)最大の目標は利潤極大化なのだ。そのために、会社(の利益)のためにひたすら身を粉にして働く、という働き方を求められるのである。しかし社会的企業の最大の目的は社会貢献である。社会的企業が職場をつくることによって、利潤極大ではなく社会貢献が目的となる職場ができるということである。
実際にニーズもある。「今後希望するNPOとのかかわり方」という博報堂の調査によると、「自分でもNPOをつくってみたい」人は7.7%、「既存のNPOで働きたい」人も23.5%いるという。社会貢献という目標と、賃金を得るという条件をそろえた社会的企業であれば、ニーズはこれよりもさらに増大すると考えられる。

2つ目は、障害者の就職(とその継続)がしやすいということである。これは特にうつ病患者などの精神疾患者の労働市場への復帰において顕著である。現状を見る。
平成14 年度の患者調査によれば、精神疾患患者の総数は250 万人と推定され、入院は32.6
万人、外来は217.4 万人とされる。また、外来患者のうち15−64 歳の人は151.5 万人とさ
れる。
彼らもいずれは、労働市場に復帰し、経済的に自立する必要がある。しかし、この際には注意が必要である。うつ病に関してみてみると、うつ病患者が自殺行動にいたるのは、うつが発症した初期段階と、うつが治りかけている段階に多い。うつが治りかけ、職場に復帰しようとしている際には細心の注意が必要とされる。しかし、営利企業には問題が多い。
事業所調査で、精神障害者を雇用するに当たっての課題が「ある」としたのは72.2%だった。課題の中では、「会社内に適当な仕事があるか」が79.6%と最も高く、次いで「職場の安全面の配慮が適切にできるか」が41.2%、「社内において障害についての理解・知識が得られるか」が38.7%だった。配慮事項では、精神障害者を雇用する事業所の31.4%が雇用上の配慮を行っており、現在配慮していることでは「配置転換等人事管理面についての配慮」が最も多く46.4%だった。
この中でも、「会社内に適切な仕事があるか」ということは最もやっかいな問題だ。営利企業の最大目的は利潤極大化にあるので、そもそも「精神障害者が職場に復帰するための(リハビリ的な)仕事」など用意されていない。用意することもかなり困難だし、行政などが支援することも困難だ。このことがうまくいってないとどうなるか。うつが直りかけの方が仕事をしようとしても、仕事がない。何かしてろ、とただ指示されるだけ。周囲は懸命に仕事をしているにもかかわらず。こうしたことでうつが再発してしまったり、自殺にいたってしまう場合も多くあるのだ。
こうした現状を鑑みても、精神障害者の就労を社会的企業が担うことは有効である。彼らの最大目的は社会貢献であり、精神障害者が就労する環境を作り出す(場合によってはそれ自体を目的とする)ことも比較的容易である(exグラスゴー製作所)。また特にワーカーズコレクティブの、労働者の経営への参加という点で見れば、彼らの要望を聞く形での改善もしやすい(実際に福祉関連のサービス改善においては従業員とその利用者のサービス決定過程への参加が有効とされる)。

また、関連して「?職業訓練や人間発達の機会の提供(職業訓練と人的資源の開発に対する責任)」という点においても有効である。それ自体を目的とする活動も可能だからである。これは障害者の職業訓練にとどまらず、長期失業者や若年失業者などの職業訓練に関してもいえる。その地域における特性(犯罪率や失業者の状況はどうか、どのような産業があるのか)を鑑みて行う、地域に根ざした活動をしているからこそである。
ただし営利企業においても日本版デュアルシステムなどの制度があるので、(特に非障害者の場合は)必ずしも社会的企業がこの分野に独占的というわけではない。


では次に「?ケア、教育それにレジャーのような地方のコミュニティのニーズに直接関係する、コミュニティに根ざしたサービスの供給」について見てみる。

社会的企業は、その地域に根付いて、地域における細かな課題やニーズに対応した活動を行う。
気をつけなければならないのが、これらの社会的企業などが地域コミュニティや地域自体の再生にむけ活躍するためには、地域開発や都市開発に適した包括的アプローチのためのコンセプトが必要となる、ということだ。その中で、サードセクター組織を促してネットワーク化を進め、さまざまな目的の間の調整をすべきである。また、コミュニティの再生と地域における雇用の創出というものを相関的に捉えることも必要だ。
このように社会的企業が地域において発展するためには、地域行政とのかかわりが重要なのだが、この点については後に詳しく述べる。


このように地域コミュニティの活性化やニーズへの対応、市場にアクセスするのが困難な人の労働市場への参画という面において、社会的企業は有用なのだ。

では、次に社会的企業をいかに発展させるか、という戦略を見ていきたい。