「新たな夜明け〜日が昇るのは地域から〜」 vol.3「社会的企業発展戦略」

商学部2年 花房勇輝

まずは、日本において今後、社会的企業を発展させるという観点に立ち、現在どのようなことが障壁として挙げられるのか、を見ていきたい。


社会的企業が(特に創業当時)苦心するのが、事業資金の確保である。社会的企業は社会貢献を第一の目標としているので、資金の確保という点でも営利企業には劣ってしまう。
金融機関では、経済的なリスクとリターンのバランスの中で投資の意思決定がなされる。そ
して、常に複数の案件がある中で、同じリスク水準であれば、少しでも収益性の高い案件を選択するのが通例である。これを前提にしたとき、通常の金融機関の行動原理からすれば、他の営利目的の収益極大化ビジネスモデルを提示する案件を押しのけて融資を獲得するのは極めて難しいということになる。

そのために海外ではソーシャルファイナンス(市民からの預金を元に社会的企業に投資)が市民の間で設立され、社会的企業への融資を積極的に行っている。しかしながら日本においてこのような動きはまだ乏しいのが現状である。
そこで、社会的企業市場発展の初期段階においては、公的な機関がその役割を担う必要がある。では、現状において社会的企業を支援する公的な金融体制はどうなっているのか?

経済産業省社会的企業の普及に向けて、09年度をめどに低利融資制度を創設する予定である。10月に発足する日本政策金融公庫を通じて実行する。融資条件は、新事業を支援する「中間支援法人」に認定を受けることが前提である。低金利設定とし、現状の水準を当てはめれば、中小企業金融公庫の設備資金の場合、5年以内で年1・85%。貸付期間は設備資金が15年、運転資金は原則5年以内となる見込みである。

しかし、この政策には欠点がある。これは中央政府が一律に融資の判断を行うものだが、地域によってそれぞれの現状と課題が異なっているという前述のような状況では、地域ごとに独自に対応した方がよい。つまり、地域の現状と課題を把握した窓口が融資の主体となるべきなのである。
さらに、この金融制度に経営指導を組み合わせる必要がある。そうすれば、マレニー・クレジットユニオン(社会的企業を対象にしている金融機関にもかかわらずオーストラリアでも貸し倒れ率は低い)のように、貸し倒れ率の低下も期待できる。

そして、融資を受ける際に社会的企業が適切に評価されるためには、会計制度の整備も必要である。



金融機関から融資を受けるには、あるいは投資家(行政による補助、市民による寄付を想定)を得るためには、その企業を評価する指標が必要である。企業活動全体を見渡す会計という視点が必要だ。営利企業においてそれを担っているのは財務諸表である。しかし財務諸表は、社会的企業の利潤最大化以外の目的、つまり社会的目的という部分を考慮に入れていない。そこで、財務諸表以外の評価指標を導入する必要がある。

アメリカのロバーツ事業開発財団は、篤志家や財団から集められた寄付金をNPOに対する投資と捉え、そこからどのぐらいの社会的成果が得られるのかを測るsocial return on investment(SROI)という評価手法を開発している。SROIのアプローチは?社会的事業によって社会全体のコストがどれだけ削減されたか、?社会的事業に雇用された結果、クライアント(ここではホームレスや障害者、マイノリティーなど)の生活がどのような変化が生じたのか、の2点に焦点を当てている。具体的には寄付(投資)の対象先となるソーシャル・エンタープライズの「事業価値」と公共支出の削減や税収入の増加などの「社会目的価値」を合計したものから「負債」を差し引いた「トータル価値」を算出し評価している。これを式で表すと

社会的成果指数=将来創出される価値(事業価値+社会目的価値−負債)/現在までの投資額

となる。もしこの指数が20であれば、1ドルの投資に対して20ドルの価値が社会的事業を通じて生み出されることになる。
収益性を高め、労働資本をより効率的に活用し、資本支出を低減させることで事業価値は高まる。また、社会的企業によって雇用される「従業員の増加」従業員ごとの「公的資金支出の減少」「税収入の増加」さらに彼らの「賃金上昇」「金銭的上昇」彼らの労働支援コスト等の減少により、最終的に社会目的価値は高まることになる。

日本においてもこのような社会会計を導入する必要がある。




さらにワーカーズコレクティブにおいては限定的な課題も存在する。それがワーカーズコレクティブを規定する法が日本に存在しないことである。その結果、様々な不都合が生じている。

第一に非営利・協同の事業、とりわけ公共的課題を担っている事業が営利事業扱いを受けている。これにより協同組合法にあるような税制面での優遇措置を受けられない。
さらに法的根拠を欠くために法人としての法的位置づけがされず、いくつかの不利益が生じている。例えば社会保険加入に際して、雇用関係の擬似的適用がなされ、理事が使用者扱いになるなど問題を生じている。また資本形成が困難であり(融資を受けにくい、公的支援が受けにくい)発展にあたっての問題点となっている。
さらに法人格がないため組織として事務所を借りたり、契約したりすることが出来ない。 すべて個人名義で行うしかなく、社会的には一人の個人に責任があり、しかも無限責任を負っていることになる。つまり、責任(リスク)がすべて個人に偏るということだ。

現在存在するワーカーズ・コープの多くは法的には法人ではない形態で存在している。すなわち、事業としては個人の名義で行っていることになっており、税制上個人の事業収益として申告、納税されている。これは適切な法人格が存在しないことによる。
2001年の中間法人法によって、準則主義による法人格の取得が可能になった。先ほど出てきたものである。しかし、この法人は営利を目的としないものとされ、「剰余金」を社員に分配することは許されない。さらに、中間法人は営利法人と同じように原則課税される。

そこで、ワーカーズコレクティブに法人格を与える法律が必要である。




社会的企業が発展するためには、その初期段階において行政の支援は必要である。ここでいう行政とは、市町村を中心とした地域行政を指す。

まずは各コミュニティにおける問題点、雇用産業基盤創出への戦略を見た上で、社会的企業とのパートナーシップをいかにとるか、を明らかにする。そして、各市町村における課題・状況に応じて社会的企業にいかなる支援を行うかを決める。以下が(基本的に必要な)施策の例である。

・大半の社会的企業では、基本財源を持っていないため、スタートアップ時をはじめ、活動を継続する上での費用が不足している。助成金制度といった資金援助に関する制度を創設・拡充することで、社会的企業が財源を確保する選択肢を増やしていく必要がある。行政等による提案公募型の補助金制度などは、その1つとしてあげられる。
社会的企業間、ならびに産学官等の他セクターと社会的企業との交流及び連携推進に向けて、マッチングや交流の場の設定を行政側から積極的に行う必要がある。
・その他、連携促進に向けた社会的企業の活動機会の創出も必要だ。商工会議所との連携による企業支援や、TLO(技術移転機関)との連携による技術移転促進。社会的企業の運営コスト削減や活動拠点の確保のため、行政や企業等の遊休建物の活用やNPO法人向けのインキュベータ施設の整備充足が望まれる。

さらに、税制面での支援も必要であるが、これには都道府県や国によるより広範な対応が必要なので、後述する。




以上を踏まえて、社会的企業がさらなる発展を遂げるための政策を提言する。


最終的政策として、経済産業省が09年度をめどに導入予定の社会的企業向けの低利融資制度、その貸し出し窓口を各市町村ごとに置くことを提案する。そこでは各市町村と連携し、その地域の課題や現状を勘案した上で、社会的企業に対して適切な融資を行うこととする。

それに対する過渡的政策は、金融機関側からの視点と、各企業側からの視点によって2つ位置づけられる。
前者は、貸し倒れ率を低下させるため金融機関と連動したコンサルティング機関の創設である。その人が構想しているビジネスアイデアが価値あるものかを精査し、それが軌道に乗るまで、市場調査・会計管理・販売・流通・運営管理・商品開発といった面での経営のサポート・助言を行う。これには中小企業診断士が中心的に関わることを想定している。
後者は金融機関からの融資をスムーズに受けられるようにするための、社会会計制度の導入である。これにより、社会的企業の社会目的の有用性に対して指標が与えられ、それが適切に評価されることにつながる。

さらに、ワーカーズコレクティブに適切な法人格を与えることを目的としたワーカーズコレクティブ法を制定する。そこに盛り込むべき内容は、主に?自分達が出資をし、雇われないで働く平等な組織である?非営利団体である?相互扶助の精神で地域社会に貢献する事業を行う ?税制の優遇措置がある ?届け出により成立する、というものである。

最後に、行政機関により有用な社会的活動を行っていると認定された社会的企業に対して、法人税(国)および法人事業税(都道府県)の50%分の減税を行う。
さらに社会的企業への寄付金については、その分の法人税を控除する。


以上の政策によって、社会的企業が発展できる土壌が誕生するのである。

そして、地域コミュニティは次第に再生し、地域住民交流は活性化され、また地域における福祉やニーズは充実し、地域に夜明けがやってくるのである。