「難民ではない『難民』」

法学部1年 加藤洋平

「人種、宗教、国籍、政治的意見やまたは特定の社会集団に属するなどの理由で、自国にいると迫害を受けるかあるいは迫害を受ける恐れがあるために他国に逃れた人々」

 これは1951年に国連全権委員会議で採択され、1967年に改編された難民条約上の難民の定義である。この歴史的背景には東西のイデオロギー対立があり、そこから生まれたのがここに定義された政治的難民であった。

しかし、現代においては難民と言っても非常に多種多様である。その一つに環境難民と言うものがある。彼等は全世界に少なく見積もっても1000万人いると言われている。全世界の難民の総数が約2700万人と言われることからも、環境難民が非常に大きなポーションを占めていることは明らかである。彼等は主に土地開発のための森林伐採、砂漠化、又は地球温暖化による気候変動により自らの居住地を離れることを余儀なくされた人々のことである。

この環境難民は上の国連の難民の定義に含意されない。彼等は当然、難民認定を受けることができず、支援を受けることができないケースも多々ある。

そして現在、地球温暖化、それが引き起こす海面上昇により環境難民が増大するリスクが高まっている。IPCC(気候変動に関する政府館パネル)の調査結果によると、2070年までに最悪の場75センチ海面が上昇すると推測されている。

これにより最も大きな被害を受けるとされているのが、2050年には人口が2億2000万を越えると言われるバングラディッシュである。バングラディッシュは、国土の大部分が低地にある。1980年代から1990年代にかけてサイクロンの頻度が高まり、1991年4月には国土の3分の1が海面下に水没し、数百万に上る環境難民が出たと言われている。海水面上昇に備えて防潮堤を作るのにも年間で工事費約100億ドルが必要になり、現在のバングラディシュのGNP約240億ドルでは到底賄えそうにない。

また中国・インドのような日本と経済的に結びつきの強い国の都市も沿岸部に集中していることに注目しなければならない。中国沿岸部には8000万人に及ぶ人口が集中し、中国のGNPの約4分の1を生産している。その土地の大部分が海抜1メートル以下である。その沿岸部の都市の中でも最も人口密度が高い上海地域では、地盤沈下が激しく、海水面上昇によるリスクは深刻だ。インドの人口は現在9億人だが、2050年頃には16億人にまで増えると言われている。沿岸地域だけで1億4000万の環境難民が出るといわれている。そして河川などの氾濫も計算に含め、最悪の場合、インドでは2億人の環境難民が出るとの推計がなされている。

環境リスクが高まっている現代、難民の定義に対する国際的なコンセンサスはこのままでいいのだろうか。

私たちは環境保全に取り組むと同時に、これから少なからず増えてくるであろう、これらの難民という認知を受けない「難民」を支援するために何をなすべきか、また何をなすことができるのか。