第五弾「君よ歌ってくれ 僕に歌ってくれ 忘れない家が、町がここにあるよと。」

法学部1年 小島 和也

序。

前回の第4弾においては地域内に存在する中小企業、伝統産業、学術機関、自治体、そして住民の情報交換、協力によって地域の産業を復活させる産業クラスターについて分析を行った。では現在、国がとっている産業クラスター政策のどこに不足点があるのだろうか?さらに地域の産業発展のためにはどのような政策をとる必要があるのだろうか。
今回は地域に長く人が住めるように、これまで住んでいた自らの故郷に人々が帰り、人間関係の前提を築いてゆくことのできる政策を提示する。

産業クラスターの不足点

これまで政府は産業クラスター第1計画として平成13年から18年を「産業クラスターの立ち上げ期」として、全国で19箇所の産業クラスターを奨励してきた。この政策は各地域にある産業で、国際競争力のある産業に集中的にクラスターを形成してゆこうとするものであった。中小企業と学術機関、自治体、そして住民が蜜に関ることのできるようにネットワークを作っていった。平成17年の研究によると全国の産業クラスターにおいて発展を阻害している点はその60%「人材不足」40%ほどが「プロデュース力不足」であった。つまり「キーパーソンとなる人間の不足」がもっとも多いのである。「キーパーソン」とはどのようなものかというと、産業クラスター内に存在する中小企業の技術を把握し、企画を行い、ニーズを知り、企業の連携を執り行う人である。実際は自治体内の産学連携推進課の方や大学の研究者、中小企業で働く人々がそのような役目を担うことになっているのであるがそれを担えないのが現状である。なぜなら、産業推進課の方や大学教授、大学の学生はほとんど商売の経験を持つことはなくいからである。さらに自社のみで最終生産物を作ることのできない中小企業は基本的に下請け会社であるので、大企業の支持が無いと新しい、生産性のある、ニーズにあった商品を作ることができないのである。このように現在足りない人材は商業的な経験、多様なニーズを汲み取り生産の計画を行うことのできる人材なのである。ではこの人材不足を根本的に解決しているのであろうか?


産業クラスター政策第2期中期政策

今年の3月に産業クラスター政策第2期中期政策が出された。これは今年から、2011年までを「産業クラスタ−の成長期」であるとし、これまでの不足点を補うものである。しかしこの政策にも不足点があったのである。それは産業クラスタ−政策第2期中期政策は人材育成が文部科学省、知的クラスター事業との関わり」で終始し根本的解決とはなっていないのである。ではどのように根本的ではないこというと、ここで求められている人材というのはあくまでも「クリエイティブ型」ではなく「舵取り型」なのである。しかし上記のとおり産業クラスター政策第2弾は「クリエイティブ型、専門型」の人材育成を行っているもの、専門的かつ製品化することのできる「舵取り型」の人材育成を行っていないのである。ではそもそも「舵取り型」の人材がなぜ生まれないのか?それは大学において現場のニーズや、問題点、解決方法等、現場の視点が取り入れられた教育がなされていないからだ。ではこれを解決するにはどうすればよいのであろうか?

人材育成

以上に示してきたように、現在の産業クラスター政策で足りないところとは、大学の実践的な教育であったのである。ゆえにMOTネットワーク」を提示する。MOTとは「専門的な技術を持ちながら、それを生かす能力」という概念である。「MOT教育」をやることはこれまで「産、官が抱える問題を学が汲み取らなかった」という理由でできなかった。しかし今日第4弾で示したように国公立大学自治体の連携が行いやすくなったのである。大学に自治体が施設を提供することができることを利用し、大学に負担をかけずに新たなる教育を行うようにするのである。MOTネットワーク」を具体的にいうと、産業クラスター内の問題点を最も知っている自治体の「公設試験研究機関」、「中小企業」の問題点を大学側に伝え、そしてそれらの問題解決をどのようにすればよいかということを学生に研究させるのである。これを行うことで、地域において実践的に企画、計画、実行を行う過程を体験することができるのである。そして順調に産業クラスター政策が産業発展につながり、地域産業がひいては国の国際競争力に繋がる産業に発展してゆくのである。すなわち地域において安定した雇用が生み出される。それだけではなく、その地域に新しくそのほかの産業発展にもつながる。更なる雇用の増加である。そして税収も増え教育や、福祉も充実してくるのである。

結。

以上述べたMOTネットワーク」という政策によって「産業クラスター」に不足していた人材を補うことができ、産業発展につながるのである。そして、雇用、教育、福祉や娯楽施設などが充実し人々が自らの長年住んできた地域に住むインセンティブとなり、人間関係の前提を築く必然性が出てくるのである。つまり長年付き合う相手だから、協力してゆこうという考えや、これまで長年付き合ってきたからこそ関ってゆくことができるという関係性が生まれるのである。これこそ地域共同体の復活である。そして家庭内に抱えていた育児不安というものが解決されるのである。ついに自らの家を手にすることができるのである。そこにおいて家庭内で相互互恵的になることで、家族の構成員に必要とされることで、人は人に必要とされることを学ぶのである。さらに、地域において日常的に関わってゆくことで、そして相互互恵的な関係を築き上げることで秩序を守って行こうという気持ちになるのである。
 ここに存在するのは人々のこの気持ちだけである。

「同情するから、助けよう、傷つけない。」
「金から、共助の転換である。」


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