第四弾「同情するなら知恵をくれ。」

法学部1年 小島 和也
 

序。

第3弾において幼児虐待が起こっている根本原因を「地域からの孤立による育児不安」として、地域においての共助関係が無くなってきたのは「都市においての過密、都市への人口流入が原因であることが判明した。そして、都市においての過密を解消するには地域のコア産業の発展が必要であると述べた。
確かに幼児虐待を防止するために、平成14年度から「集いの広場事業」というものが行われてきた。これは主に0〜3歳の子供を持つ親が集まりコミュニティーを形成するものである。さらに乳幼児検査を積極的に行うことで虐待を早期発見し、虐待した親にカウンセリングを促す等の政策が採られてきた。
しかしこのような政策を行っても幼児虐待は増える一方である。結局地域からの疎外感を感じていたり、自分が虐待を行っているとの認識が無い者は主体的にコミュニティーには参加していかない。さらに参加したとしてもなかなか育児の不安を打ち明けることができないという現状が起こってしまうのである。このことから鑑みるに、解決の方向としてはやはり地域共同体においての共助関係を復興させるべきであると考える。というのも、地域においての近所関係というものは日常的であり、さらには育児経験者である先輩親に育児の不安を相談することができるからである。
では地域共同体においての共助関係を再構築するために必要なものは何であろうか?それは人間関係の前提である。人間関係の前提とは、そもそも長年同じ地域に暮らしお互いに知り合いであるというものや、多様な価値観を持っている人々との共通する倫理観である。このような人間関係の前提があることによって人々の間に密なかかわりができあがるのである。そしてそのために都市の過密を無くし、地域からの都市への流入を防ぐ必要がある。都市へ人々が流入したことで起こった過密は、人間関係の前提がない人々がなかなか共助関係を結ぶことをできなくしたからである。さらには自分が生まれた土地に人が長く暮らしてゆくため、現在過密地域にいる人々が自らの故郷に帰ることができるようにするためのインセンティブを与える必要がある。そして、そのインセンティブとは雇用や教育、福祉なのである。やはり地域のコア産業を発展させることが必要なのである。地域のコア産業の発展は雇用を増やし、税収を上げるからである。
では現在、地域の産業発展を阻害しているのは何であろうか?そしてどのようにすれば地域の産業が発展するのであろうか?以下に分析したく思う。

地域産業衰退の原因

ではまず、地域産業の衰退が起こった理由を時代文脈として提示する。


〜長期不況〜
バブル経済の崩壊は過剰投資から始まった。株価や地価が暴落することで過剰投資、過剰取引、過剰信用が破綻し膨大な過剰資本を抱えた。このような状況に対して、過当競争の推進と金融機関の不良債権処理によって解決を行おうとした。その結果として産業合理化(雇用削減、仕入単価の切り下げ、受注量の減少、過剰資本の廃棄、取引の突然中止、海外への工場移転等)が支配したため競争力の弱い地域産業、中小企業へと不況の流れが進んだのである。そしてこのように長引く、不況の中の産業合理化のため物価が徐々に下がっていった。にもかかわらず需要は拡大せず景気は回復してゆかなかった。そのため、販売コストとの釣り合いを取ることができなくなりどんどん地域産業、中小企業の負担が増えていったのである。そして地方に存在している中小企業は力を失い地域経済が衰退してきたのである。

このような不況の中、これまでの地域産業政策(企業誘致)はどのような欠点を抱えているのであろうか?


〜外発的産業復興の失敗〜
外発的産業復興とは公共事業や、企業誘致、またそれに伴うインフラ整備のことである。この外発的発展のよい所は、地域に生産性、競争力のある産業が無いときにほかの地域から産業を呼び寄せその地域の経済発展に寄与することができる点だ。

しかし、これらの発展の方法は地域にその発展の主導性や、自立性が無いことから「外来型開発方式」と呼ばれている。この外発的開発方式は以下の4つであるとされている。
① 誘致や進出した企業の方針は、企業系列の利益を優先し、進出にあたって関連子会社を連れてきたり、地元の産業企業との産業関連を構成しにくいこと。
② 誘致や進出した企業の利益がその地域の外に流出し、地域経済の再生産に寄与しないこと。
③ 外来的産業は地元の企業ではないため環境や地域雇用等において。社会的責任を持つ度合いが低く、地域の持続的な発展を脅かしてきた。
地方自治体は、産業基盤を整備することはできたとしても、進出したり流出することは民間の企業であるため、地域の意思で計画的な経済振興を行うことが難しいところ。

 以上のような外発的産業復興の失敗を解決するために考え出されたのが、内発的発展である。


内発的発展
 内発的発展とは外発的発展のように一つの価値尺度(経済発展)のみによって図られる発展のことではなく、その土地の宗教、歴史、文化、生態系の違いを尊重して多様な価値の元に発展してゆくことである。つまり、自らの地域に内在する諸要素(自然資源等)をあらゆる角度から考察し、活用することで、地域産業の存立基盤維持機能の回復を目指しながら発展していくプロセスである。具体的には

内発的発展はその地域(自然環境や、生活環境、生産構造等が重層的なまとまりを見せる地区)の環境・生態系の保全及び社会の維持可能な発展を政策の枠組みとしつつ、人権の擁護、人間の発達、生活の質的向上を図る総合的な地域発展を目標とする。
②地域にある資源、技術、産業、人材、文化、ネットワークなどのハードとソフトの資源を見直し、これを活用、あるいは現在の環境に照らし合わせて新たなものに作り替えて活用する。また、地域経済振興においては、複合経済と多種の職業構成を重視し、域内産業連関を拡充する発展方式を基本とする。ただし、地域経済は閉鎖体系ではないため、いわゆる「地域主義(地域の中の産業のみで発展してゆくこと)」に閉じこもるのではなく、経済力の集中・集積する都市との連携、流通やその活用を図り、場合によっては必要な規制と誘導を行う。国家の支援措置については、地域の自律的意思により活用を図る。
③地域の自律的な意思に基づく政策形成を行う。住民参加、分権と住民自治の徹底による地方自治の確立を重視する。同時に、地域の実態にあった事業実施主体の形成を図る。また、地域が閉鎖的になるのではなく、積極的に外部の人材の導入、あるいは外部の知識・技術・情報等との接触を図ることで、多様な発展経路を模索する。
 例えばこの考えにかなり近い政策が過去にとられてきました。それは一村一品運動である。これは域外の大企業から潜在的な技術を引き出して一つの地域に誇れる、世界に通用する特産品を作り出そうというものであった。しかしこの一村一品運動には次のような限界があった。
①「一村一品」を特産品の単品開発(例えば、漬け物開発等)に終わらせる理論構造があり、地域経済全体を対象とする産業政策論としては限界があること。
 ②域内産業連関の追求や域内経済循環の拡大策が理論的に用意されていないため、結局雇用が生まれなかったこと。
 ③対立する都市と農村を連結・連帯させる理論に欠けていて、地域発展の展望を必ずしも与えられないことであった。このような不足点を補い内発的発展に近い政策は存在するだろうか?
それは、産業クラスターであった。

産業クラスター

産業クラスターとはMポーターによって考えられた産業政策である。
産業クラスターとは、特定の分野(最終製品やサービスの生産に関わる機器、原材料、サービス等の垂直、水平方向の多様な産業が含まれている。)において、相互に関連する企業や機関(学術機関、自治体)が、一定の地域に集積し協力することで新たな発展を行うというものである。
その特徴は
①地域においての生産性(品質、特徴、技術、商品の独自性)が増す。
②企業や産業のイノベーション能力を強化し、生産性の成長を支える。
ではこれらはどのようにして達成されるのか、以下に示したく思う。


〜ダイヤモンド・モデル〜 
企業が生産性を向上させ、競争力を強化するにはM,ポーターの考えたダイヤモンド・モデルの4つの基本的条件に規定され、企業のビジネス環境の向上、企業の発展までの独自戦略を打ち立てる必要がある。ではその4つのダイヤモンド・モデルとはどのようなものか。
①要素条件:産業が集積した場所にはそれぞれ独自の専門性を持つ労働者が集まることから、企業はクラスターの中にいることによって人材間のアクセスが密になる。ゆえに新たな事業を立ち上げるときに戦略を練ることができる。さらにクラスター内の特定の研究機関・訓練機関や大学のかかわりによって専門的なスキルや知識を持った人材を企業の生産性向上に貢献できる。
②需要条件:地域に存在する顧客や、洗練されたニーズが地域に存在する企業に伝わることで競争優位性を獲得することができる。なおここで言うニーズは、言語化することの難しい「暗黙知(感覚的なもの)」に属する知識であるがゆえに企業と、消費者との頻繁な関わりが必要である。
③関連・支援産業:クラスター内に競争力を持つ関連・支援産業が存在すること、これらの関連・支援産業から高品質の部材やサービスを効率よく、迅速に、しかも効率的に調達することができるようになり、企業の高い生産性の達成に貢献することができる。
④企業戦略および競争環境・企業のプレッシャー:多くの類似企業が激しい競争を展開しているクラスターでは、競争プレッシャーによって企業の側に生産性の持続的な向上へのインセンティブが強く作用する。

以上のような条件が産業クラスターの中で達成されることで、生産性が増すのである。


イノベーションの促進〜
 イノベーションを商業化までリードする個人または企業を「イノベーター」と呼ぶが、このような人々が地域に存在する顧客と密に関わって行くことによって、需要を知りイノベーションが活性化する。さらに、クラスター内の関連・支援産業や専門組織・機関が集積し、相互に密な連携を持っているため、このような企業や組織を通じてイノベーションの契機となる技術、部品、機器、アイディア、知識が企業に入る可能性が増大する。
 

自治体の役割〜
 人材育成機関の整備や研究機関の設置、地域外からの企業や人材の引き込み(提携や誘致)等を行う。この自治体の活動によってその地域に無い競争力のある産業の誘致を行うことができる。この誘致は外発的発展に近いのではあるが、地域にある産業が競争力をつけるには更なる専門性が必要になったとき有効に活躍する。しかし、専門性が増せば増すほど地域とのその産業に関係する域内企業の数は限られる。そこで、近年自治体が国立大学に施設を提供することができるようになり、学と官の連携を蜜にできるようになった。この2人3脚の関係が企業の要素条件、需要条件を満たせば地域に企業が残るインセンティブを与えることができる。

結。

以上のように、産業クラスターという地域に存在している産業、企業、学術機関、自治体の関わりによって生産性を上げることができる。さらには地域での結びつきが企業の生産性に貢献するため地域から主要となる産業が逃げていかないのである。さらには、需要者の存在が不可欠であるので、より企業が地域を重視した発展を行うことができる。つまり内発的、外発的発展の良い所を取り入れた発展方法なのだ。そして、現在日本版産業クラスター計画というものがとられている。しかしこの産業クラスター政策がうまくいっていないのはどうしてであろうか?
 次回現在の産業クラスター政策の不足点、そしてそれに変わる政策を提示したく思う。