第一弾:ホワイトバンドから考える貧困問題

国際教養学部2年 鶴渕 鉄平



昨年、「ほっとけない 世界のまずしさキャンペーン」というものが日本で広まりました。
引退を表明したサッカーの中田英寿選手をはじめ、女優の藤原紀香さんやGLAYのTERU氏が「ホワイトバンド」を身につけて、3秒に1度指をならし、子どもたちが3秒にひとり、貧困で命を失っていることを知らせたクリッキング・フィルムは話題となりました。書店やCDショップ、更にはコンビニでも販売されるようになったホワイトバンドは、去年の12月までに4,549,254個も売れたそうです。(注1)

ホワイトバンドが、発売から一年も経たないうちにここまで売れた背景には、多くの人が「貧困をなんとかしたい」という思いを少なからず持ってきた、ということが挙げられると思います。

では、その何とかしたい、という思いは、現実の貧困改善に結びついてきたのでしょうか。

ここで、国際連合を中心とした国際社会が、2015年までに達成すべき課題として2000年に設定した「ミレニアム開発目標」の進捗状況を見てみましょう。2005年の報告によると、世界全体で、絶対的貧困層(注2)の数は2.5億人減りました。しかし、
サハラ以南のアフリカ、いわゆるサブ・サハラ・アフリカ
においては、この世界的傾向と逆行して、絶対的貧困層の割合が増加しているのです。(注3)
サブ・サハラ・アフリカにおいては、貧困により、人が当然として追求できるべき潜在能力の形成が阻害されているのです。

サブ・サハラ・アフリカは、これまで最も国際社会の援助金を受け取ってきた地域であります。それなのに、なぜ、貧困削減へと進んではいないのでしょうか。貧困状態の継続の原因は以下のように、いろいろと挙げられております。

1. 先進国有利の世界経済体制に組み込まれて、生産した富がアフリカ内に還元されていないから
2. 雨量の少なさなど、自然環境が悪く、農作物が育たないから
3. アフリカ諸国は紛争が続いてきたから
4. 政府が腐敗して機能していないから                  
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皆さんは、何が原因だと思いますでしょうか。「それぞれが原因であり、それらが密接に関係していて、貧困が持続しているのだ」とおっしゃる方もいらっしゃいますでしょう。しかし、それだと「だから貧困解決は難しいのだ」「自分には募金することぐらいしか出来ることはないのでは」というところで止まってしまいます。「ほっとけない 世界のまずしさキャンペーン」においても、「お金ではなく、あなたの声が必要です」との呼びかけの下にホワイトバンドの販売も始まったのに、「売上金が直接的な支援ではなく宣伝などに使われている」と問題視されてしまいました。つまり、「どうすれば良いか」という「声」をあげるというところまでは行かずに、お金の問題だとの誤解が広まってしまった部分があるのです。実際、私の身の回りでも、ホワイトバンドを募金プロジェクトだと思っていた知人がおりました。また、最近ではホワイトバンドを着用している人は以前よりもずっと少なくなったという印象を受けます。

過去多大な援助金を受けてきたにもかかわらず、貧困が持続しているというサブ・サハラ・アフリカの現状から分かるように、募金の問題では済まないのです。貧困が持続している構造に目を向け、何が最も問題か、何を先決して取り組んでいかなければならないか、を明確にし、行動していく必要があるのです。私は、上記1で挙げた、
先進国有利の世界経済体制に組み込まれて、
生産した富がアフリカ内に還元されていないこと
が最も重い問題であり、改善に取り組むべき課題であると考えます。上記2の自然環境に関しては、アフリカは生産物がないというわけではなく、生産したものが国際市場に競争力をもたないために富が還元されていないのだ、ということから、上記1の方が問題であると判断できるのであります。上記3の紛争に関しましては、アフリカ諸国でも紛争調停は進んでいるのだが、再発率の高さを減少させるには、国が安定した経済発展軌道に乗る必要があり、それを阻害しているのが上記1である、ということから、上記1のほうを問題視するのであります。上記4の政府機能にしても、国際市場の要請で、政府は社会保障などに歳出をあてられないでいるという現状があります。

 本コンテンツでは、これから、連載形式で、サブ・サハラ・アフリカの世界経済体制への組み込まれの現状を分析し、どうすればサブ・サハラ・アフリカは発展していけるのかの考察を進めてまいります。




注1:「ほっとけない 世界のまずしさキャンペーン ホワイトバンド売上金に関する報告」http://www.hottokenai.jp/whoweare/img/WB060314.pdf より

注2:絶対的貧困の定義・・・人間としての条件に関するどのような妥協的な定義に照らしても程遠い栄養不良、非識字率、疾病、高い乳児死亡率、短い平均寿命の水準を脱却できない状態(「国際協力用語集第2版」国際開発ジャーナル社)。「1日1ドル未満の生活費で暮らす人々」という言い方がなされる。

注3:サブ・サハラ・アフリカにおいて1日1ドル未満で暮らす人々の割合は、1990年には44.6%であったのが、2001年には46.4%に増加した。(「ミレニアム開発目標報告2005」http://www.unic.or.jp/pdf/MDG_Report_2005.pdfより)