「変化」政治経済学部三年 眞嶋明生

 グレーゾーン対処の問題、集団的自衛権の問題、その先に有るであろう憲法9条改正の問題、ここまで日本の論点が安全保障に集中するのは久方ぶりである。アメリカの覇権弱体化、ロシア、中国のパワーの増大といった国際秩序の激変を前にすれば、安全保障が論点になるのは当然とも言える。この議論の中では様々な意見が出てくる。「国際環境が大きく変化しているからやむを得ない」「アメリカの言いなりになるだけではないか」「憲法の精神を守れ」「立憲主義の精神から認められない」等々。
 私は「憲法に拘泥する」憲法学者でも学徒ですらないため、この問題を憲法の観点か
らは語らない。ここでは近年顕著になりつつある「戦争の変化」について述べることにする。安全保障は戦争と極めて密接な関係にある、戦争のありようの変化は安全保障制度に大きく影響を及ぼす。さらに当然のことながら戦争のありようの変化は国力や軍事力の変化とも違った影響を及ぼす。戦争の変化について述べることで皆様の判断材料となってくれれば幸いである。
 ロシアや中国といった大国の対米戦略として非対称戦や新たな形の戦争が現れつつある。非対称戦とは、敵軍と同じ戦術をとり、正面からの「殴り合い」を演じたとしても勝てない勢力が敵の弱点を突くことにより勝利を収めようとする戦略である。例えばアメリカの弱点は民主主義、サイバー網等が挙げられる。テロの戦略目的を分析するならば民主主義社会に恐怖をもたらすことにより世論を分断し、より有利な譲歩を引きだそうと画策するものである。さらにアメリカといった先進国はサイバー網に社会インフラを依存しており、攻撃を受ければ社会が麻痺するのである。一方でアメリカはこうした攻撃を行なわないであろう。こうした手段を行使する以前に、より強大な軍事力を保有しており、「そんなことをしないといけないほど弱くは無い」からである。
 こうした流れから新たな形の戦争の可能性が増大している。中国では「超限戦」という思想が2001年に生まれた。超限戦は全ての手段を戦争の手段として行使しようとする思想である。その内容は経済、金融、医療など多岐にわたる。その中でも近年、顕著に現れたのが法律戦である。法律戦とは国際法の内容や解釈を中国に有利なものに変更し、軍事的影響力を増大、もしくは敵国の戦力を弱体化させるものである。国際的な影響力ではなく、純粋な軍事力に関する戦術として国際法を運用するところに、これまでの国際法成立を巡る利権対立とは一線を画す。2013年、突如として中国は東シナ海における防空識別権を一方的に宣告した。国際法では防空識別権は不正に接近する航空機を警戒するための識別線であるが、中国は侵入した航空機の処分は自国の権限であると主張したのである。こうした主張は当然認めるべくもないが、繰り返し主張することで既成事実的に、国際法の解釈の変更を狙っていると考えられる。またクリミア編入では所属を隠したロシア正規軍がクリミア民兵として迅速に介入した。圧倒的戦力やロシアとの開戦のリスクをちらつかせ大規模な軍事衝突を避けた上でクリミアの要衝を占拠された。この様な宣戦布告や流血を伴わない一連の介入は「新たな戦争」の可能性を示している。これを我が国の状況に落とし込むならば、武装した漁民が尖閣諸島などに上陸をした状況と似た状況であるということになるのであろう。実際、中国には海上民兵とよばれる、漁民に武装、訓練を施した組織が生まれている。
 いってしまえば、新たな戦争とは「気がついたらはじまっている」ものなのである。
新たな脅威はこれまでの戦争の様な宣戦布告を伴うものや、象徴的な場所を狙ったテロ事件とは異なり、我々の生活、日常と密接に関わるのである。すなわち平時と有事の境界が極めて曖昧になるのである。
 サイバー攻撃はほぼ毎日の様に行なわれている、領土を巡る紛争は日常化しつつある。グレーゾーンと呼ばれるような事態はこうした状況にも影響されて、論点になっているのであろう。憲法、パワーの変化、歴史背景、様々な視点から語られる今回の議論、戦争の形態の変化というもう一つの視点も加えて頂ければと思います。