「成功のタイミング」教育学部一年 山口宇彦

 「あのタイミングで優勝したこと、後悔すらありましたから…」
 スポーツ誌『Number』に載っていたあるプロ野球選手の発言である。スポーツ選手がなぜ優勝の栄光に後悔するのか。それは彼の経歴から見ればある意味納得かもしれない。
 彼の名は高橋光成(たかはし こうな)。高校野球のファンならよく知っているかもしれない。2013年夏の甲子園で、初出場の前橋育英を優勝に導いたエースであり、昨年のドラフト会議で埼玉西部ライオンズに未来の主軸と期待され入団することになった。これだけ見ればキャリアは順調そのものである。ダルビッシュ有テキサス・レンジャーズ)も前田健太広島東洋カープ)も大谷翔平北海道日本ハムファイターズ)も甲子園の優勝を経験していない。球界を代表する投手達が未到達の領域を知ったのにも関わらず高橋はなぜ後悔しているのか。
実は彼が優勝したのは高校2年のときであり事前に注目もほとんどされていなかった。しかし彼はがむしゃらに戦う中で次々と強力なライバルを倒していった。未完の大器が気づけば、同世代最高のピッチャーとなり、将来の球界を担う存在となっていたのだ。
急に意識していなかった栄光を味わった結果、高橋には猛烈なプレッシャーが襲い掛かった。そして彼は高校3年になってから、そのプレッシャーから精彩を欠き、甲子園出場を逃した。そして後悔を抱えたまま卒業することになってしまったのだ。
 高橋のような例は他にもあてはまるだろう。大舞台で本人なりに目の前の目標をただ一生懸命に追い求めているうちに、自らの実力が周囲から過大評価され、自らの認識とのギャップに苦しめられるのである。まして評価の上下が激しいスポーツの世界ならより激しい葛藤に悩まされるだろう。
 彼に救いの手は差し伸べられるのだろうか。おそらく努力で周囲の期待と自分の実力のギャップを埋めていくしかない。一番やってはいけないこと。それは本来の自分を見つめようとしないことである。本来の実力を理解しなければ間違った努力をすることになり苦労は徒労へと変化するのである。自らを見つめ、ひたむきに努力することがこの葛藤の唯一の突破口である。
 ここまで読んでみて読者はある疑問をもったかもしれない。タイトルにある「成功のタイミング」はいつなのか。どの成功がタイミングよい成功といえるのか。
 実はそれは一人ひとりの感じ方次第である。人生全体を見つめてみて初めてタイミングのよい成功がなにかを気づけるのだ。
 ただし、タイミングの悪い成功になりかねない成功との向き合い方が一つだけある。それは目の前の成功に満足し、それ以上を目指さないことだ。現状に満足し安住すれば、人はそれ以上の成長をやめてしまう。そしてそうなれば鉄がさびるのと同様、次の成功は望めないだろう。次の成功を導く一番の方法、それは一つ一つの成功に適切に向き合い、「タイミングのよい成功」にしていくことだろう。