「TPPの功と罪」商学部一年 清水寛之

 2013年3月に首相がTPP協定交渉への参加を表明して以来、連日新聞やテレビなどでTPPについて話題にあがることといえば、農産品の関税に関する日米協議についてである。その日米協議に関する報道の論調は、「日本はいかにして国内の農業を守ることができるのか」といったものが多数を占める。確かに自国内の農業を守るということは、農業従事者の生活を守るだけでなく、食料自給率を維持し食料危機を防ぐといった観点からも重要である。
 しかし、農業を守ることで思わぬ負担を負う人が存在しているということについては、あまり触れられていない。調査によると、「聖域」とよばれる主要六品目(コメ、小麦、牛肉、豚肉、乳製品、砂糖)の関税が撤廃されることによって家計の受ける恩恵を所得階層別に見ると、低所得者層ほどその恩恵が大きくなるという。これを言い換えてみれば、関税をかけ農業を保護することによって、知らず知らずのうちに低所得者層に負担をかけているともいえる。
 私自身、上京して一人暮らしをする大学生であり食費は切実な問題である。そこで、安価な外食の代表例である「牛丼」から、この問題を具体的に考えてみたい。現在の某大手牛丼チェーンの並盛の価格は380円である。当然ながら牛丼は主にコメと牛肉から構成されている。現在、牛肉には38.5%、コメには778%もの関税がかけられている。試算によると、関税が完全に撤廃されれば100円近く安くなるという。牛丼が280円以下で食べられる時代が再び到来するかもしれない。
 さて、以上を踏まえて最初の疑問に戻りたい。TPPに参加すれば食材が安くなり家計負担は軽くなるとしても、割安な輸入品との競争にさらされた国内の農業が潰れてしまうのではないか、という点である。しかし、この2つは必ずしもトレードオフな関係にあるとばかりにはいえない。実際に、関税による保護を受けている現在でも、国内農業の規模は縮小し続けている。これには様々な要因があろうが、通底するのは構造的な問題などから産業としての強い競争力が育まれてこなかったことではないか。独自性を高めた商品の開発や農地の集積などによって、質的にも量的にも競争力を高められれば、十分に生き残り、また成長する方策はあるといわれている。
 以上に農産品の観点からTPPの是非について述べたが、私は「だから全面的にTPPに賛成である」、などというつもりはない。医療や雇用など、他にも注視しなければならない問題は多々ある。農産品にしても、安全性基準の違いなどには十分に留意しなければならない。しかし、交渉まっただ中の今、あまりに一つの観点に注視して悲観したりするのではなく、様々な観点からメリットとデメリットを把握することが重要ではないかと思う。最後までお読み頂き有り難うございました。