『ジェームズ・ブキャナンと世代間格差』政治経済学部1年 中村雄貴

ジェームズ・ブキャナン(1919~)という経済学者がいます。ジェームズ・ブキャナンアメリカの経済学者で、ケインズ批判を展開した経済学者の一人です。ブキャナンはその代表作『赤字財政の政治経済学』(1979)において、財政民主主義の政府において赤字財政がシステム的に増大することを論じました。というのも、財政赤字が拡大することは国民にとって純粋に得することになるのです。なぜなら、財政赤字で政府が損した分資金が民間にわたり、さらに国債の利回りによって銀行も得することになるからです。そして、損する次世代の国民の声は財政民主主義の元では反映されることはありません。したがって、財政民主主義の元では当然のように財政赤字が拡大されることになります。だからこそ、日本でもアメリカでも赤字国債というものは憲法をもって発行が規制されてきました。しかし、日本においては赤字国債の発行が特措法により解禁され、バブル崩壊後の総合経済対策によって一気に国債額が膨れ上がることになりました。
 翻って現状の日本では世代間格差が叫ばれています。世代間格差とは生まれた時代が違うだけで受け取る事の出来る年金額や受けられる公的医療サービスの額に格差が生まれることです。一方で、世代間格差は世代間のゼロサムゲームを煽るだけだ、世代間闘争を煽ると不快に感じる方も少なくはありません。しかし、私は考えます。現状生じつつある世代間格差というものはシステム上の問題であり、今後も起こりうる種の課題であると。かつては経済が急激に成長することによって若年層の損を穴埋めしてきました。しかし、現在特に日本において成長の余地はほとんどありません。もちろん、世代間格差を無くそうとして赤字国債を即刻廃止するのもナンセンスです。赤字国債による利得を享受した世代が存在するからです。ですが、赤字国債が毎年発行され特例公債法が可決される現状には、ブキャナンの論の教訓が生かされていないのではないでしょうか。